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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター4「ポリファニア」
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139話「竜学者」





 王都3日目、今日はエルザードを連れて昨日本に書いてあった竜学者のところを尋ねて見てみる。住所を暗記しておいたおかげで街の看板を見ながら頑張って進んでいく、しかしかなりの道なりだ。


 「だいぶ中心の方に来たの。」


 「そうだな、もう少し先くらいだと思うんだが。」


中心部はこの間買い物したところより人が少ない代わりになんだが道から建物全てにおいてリッチに見える。そりゃ王城から近いんだからかなりの大金持ちとか貴族とかが住んでいるんだろうって予想できる。そして、そこを進んでいる俺たちはなんだが少し好奇な目で見られているような。


 「エルザード、なんか俺たち見られてないから?」


 「?そうかの。」


エルザードに自覚なし。だがやはり見られている。


 「誰かしらね?少し良い服を着ているけど見覚えがないわ。」


 「平民ではないでしょう、ここの場所がわからないわけでもあるまいし。」


っと話し声が聞こえる。ここの場所?そういえば看板を見ながらきたけど何か書いてあったような。


 「……この先、上流域。平民は控えてください。」


近くにあった看板の注意書きを口に出してみる。あー、なるほどそういうことか。要はプライドの高いお堅い貴族様が安全に暮らせるスーパースペース的なのがこの領域ってことなんだな。はいはい、それで平民は気軽に入っちゃいけないと。


 「………見なかったことにするか。」


 「?何がじゃ?」


 「なんでもない。」


自分たちの格好はエルザードがこの間服を選んでくれたおかげで誤魔化しが効いている、今まで来ていたローブとかだったら絶対ダメだったんだろうなぁ、とか思う。


ともあれ、偉い人たちの目の毒になって理不尽にも衛兵でも呼ばれた多分絶対面倒くさいことになりかねないのでできるだけ早歩きで目的地に向かおう。


幸い、アポはとってなくても辺境伯の名前を出せばなんとかなるとは言っていたわけだし、


 (ただ衛兵沙汰までコレ使うのは筋違いだから乱用しないでおこう。)


 「ちょっとあなた!!」


 「!」


声のする方向へと振り返る。二人のなんだが高貴そうで傲慢そうな獣人女性がメガネをかけ、大荷物な獣人少女を叱責していた。

自分のことじゃないとホッとしながらもその光景を目の当たりにする。


 「貴方、平民の方ですよね?どうしてここにいるんですか?」


 「い、いや確かに平民ですけど!私はサーノルド博士の助手で!」


 「関係ありません!ここは貴方のような子が来て良い場所ではありません。それになんですかその格好は見窄らしい。ここに来るならそれ相応の格好をしてから来てください!」


 「ひぇえ、また博士に怒られちゃうぅっ。」


メガネをかけた獣人少女はとても困っている様子だ。にしても今の会話の中で出た、サーノルド博士、どこかで見たことがあるような。


 「ゼル?どうする?」


 「…助けよう。最悪アドリブで!」


 「わかった!」


エルザードを連れて一方的な二人の間に割って入る。


 「そこまでにしませんか。」


 「誰ですか?他所の人は引っ込んでいてほしいのですが…?」


どうやらこちらを平民だとはまるで思っていないようだ。まぁ正直身長差的に子連れの貴族に見られなくないけど、、いやエルザードはほぼ感性が子供だから違いないか。


 「そういうわけにもいきません。確かにここは上流域ですが、別に平民が通ってしまってはいけないというルールはないでしょう。」


 「それはそうですが、ですが装いくらいは!」


 「それはそうと話は変わりますがレディ、今日は日差しが強い、日傘では遮れないこともあるでしょう。その綺麗な肌を台無しにしてしまう前に、その綺麗な微笑みを失わないうちに、ご帰宅なさった方がよろしいでしょう。」


 「っ!そ、そうですわね。えぇ、確かに日差しはこの肌を傷つけてしまうかもしれません。こんなところで時間をかけてはいられません。」


 「はい、あとはお任せください。」


 「そ、それでは〜ごきげんよう。」


高貴な獣人は嬉しそうな表情を浮かべながら何やら満足げに帰っていった。姿が見えなくなってから、俺は作っていた仮面を外して元の顔に戻る。


 「ふぅ。」


 「驚いたぞ。お主そんな器用なこともできるじゃな、というかどこで習ったんじゃ?昨日の図書館か?」


 「わからない。俺もこんな自分の一面が出せるとは。。」


ゼルは自分をこんな子にした覚えはありません!一体どこで貴族的処世術を学んだんでしょう!まさに恐ろしい子!!


っとふざけた自演はさておき。


 「ぁ、大丈夫だった?」


 「は、はい。ありがとうございます、助けてくれたんですよね。」


 「うん!そうだその通り!我とゼルに感謝するんじゃ!」


 「お前は何もしていないだろうに。」


まぁ子役として頑張って?くれたか。


 「本当に、ありがとうございます。よく大いうのに絡まれてしまって、普段なら博士がいてくれるのですが。」


 「今日は居なかったと、」


 「はい。博士、竜のことになると没頭しちゃって……ってすみません!独り言を。」


 「いやいや。ぁ!」


そうか思い出した。サーノルド、たしか昨日の本の著者で竜の研究をしている学者と同じ名前。この子はその助手、なら住所の場所も知っているのかもしれない。


 「どうしました?」


 「あぁ、いや。実は俺とこいつはそのサーノルド博士のところを訪ねるつもりでここにきたんです。」


 「博士を?あれ、でも今日は誰も来ないと伺っていたのですが。」


 「はい、でも辺境伯クロージャー・フォン・ギリドリスから───」


 「ぎ、きぎギリドリス伯のお客様!?失礼いたしました!余計な詮索を!案内します、ついてきてくださ───いえ、ついてきてくださってください!」


随分と慌てた様子で目の前の助手ちゃんは俺たちに案内を始めた。低姿勢により拍車がかかったように何度もお辞儀をしている。辺境伯、貴方は一体どんな影響性があるんですか全く。


 っと案内されたのは豪邸。そう、ありていに言って貴族の家とでもいうのだろうか、門があって壁があって隙間から見える庭はバカみたいに大きくて向こう側の屋敷は遠くて長い。


 「ここが博士の自宅こと研究所です。」


 「研究所、、とてもそうには見えないな。」


 「あはは、私もそう思ってます。」


 「はぉ、それにしても大きい家じゃのう。」


家。これを家と言って良いのだろうか?なんか上流域のどの家にも比べて豪華に見える。となると必然的に大金持ちというイメージがついて回る。学者とか言っていたからてっきりそれなりのスペースの家で、それなりの感じのいかにもな研究所なのかな?っとか想像していたがそんなことはなかったようだ。


考えてみれば学者って言ってもそんなのお金がないと研究できないじゃん。という話になるから貴族系なのを想像するのはある意味普通なのか。


 (となるとさぞやサーノルド博士は貴族らしい感じなのだろうか?)


 「失礼します。博士、お客様をお連れしました!」


 「なっ。」


エントランスホールまでは普通だった。しかし助手ちゃんが案内してくれた部屋の中は大量の紙だらけ、壁天井足場、全てのところに紙という紙が散乱し貼り付けられている。それこそあの豪邸の外観とは似ても似つかないようなゴミ屋敷と言って良いほどの部屋だ。


 「お客さん?そんなはずないはずだ!今日は誰からもアポをもらってないはずだ!」


紙の山の向こう側からなんだかキテレツな声がする。もしかしてそこにいるのかサーノルド博士というのが。


 「そうなんですけどどうやらギリドリス伯からの招待らしく……。。」


 「なに?!っと、いうことはそうか!昨日言っていたやつか!!」


 [ドドババドン!!]


部屋全体に響き渡る荒々しい音、紙なのか木なのか何かが激しくぶつかるようなずらされるようなそんな不思議な音が聞こえる。何かを準備している?ようにも聞き取れる。


 「マーフィン君、連れてきて良いぞ。」


 「博士。良い加減片付けは日常的にしてください。」


 「なに、君がやってくれるんだろう?」


 「もう!」


マーフィン君こと助手ちゃんは俺たちに手招きをして紙の迷路を進んでいく、棚だったり紙だったらはたまた何かの模型だったりが道中散見しながらもサーノルドの元に辿り着く。


 「やぁ、ようこそ!私の名前はサーノルド・フォン・プロントグリット。爵位は、あーなんだっけマーフィン君?」


 「公爵です。もっとも貴方のことを公爵呼びする人はいません。」


 「結構!私も堅苦しい制度は嫌いでね。偉い人たちの言い分を無視すればいつでもフィールドワークできる城下町に住めるってもんなんだけど!」


 「はぁ。ゼルさん、エルザードさん。博士、こんな感じなのでよろしくお願いします。」


 「どうも。」


 「おう。」


変わった人だなぁというか。変わりすぎている人だ。博士というのにその姿は限界社畜とかして残業時間70時間超えの会社員のように見窄らしい。ある意味学者らしいっちゃ学者らしいけど、コレで公爵なのが難解さに拍車をかけている。


ていうか本人見て思ったけど今日の俺のこの人に対するイメージ二転三転しすぎでは?


 「君たちの話はギリドリス辺境伯から聞いているよ。で、君がエルザードか。」


 「うん!」


 「ふむふむ、ほうほう。。。ぬふふ!!」


 「ぬっ!?」


 「ひゃっははははふはははは!すごいぞ!本物だ!!すごいすごい!!作り物じゃない!このツノとかしっかり本物だ、しかも人間だよ人間!!人間の姿だ!?うわどうなってんだコレ!?もっとよく見せてくれ!見せてーぇーー!!」


 「うぎゃああああああっ!?!」


エルザードをただ見ているだけに飽き足らずサーノルド博士はエルザードを持ち上げたり手で顔やら体やらを念入りに探っていく。なんてことだ、変態だ。変態がここにいる。サーノルド博士は多分男だコレではセクハラというやつになってしまう。


 「たぁぁぁ!!!」


 「痛っっった────っ!?!」


そこに助手ちゃんの鋭い平手打ちが炸裂。サーノルド博士はもっともらしい反応を見せながら頭を抑える。


 「博士。良い加減にしましょう、」


 「ぇぇ、なに、なんか今日はマーフィン君こわない?」


 「当たり前です。二人は私を助けてくれたんです!いくら博士のお客様で対象であろうと、さすがに手が出ます!」


対象という言葉が何か怖い気がするが、幸いにも助手ちゃんことマーフィンのおかげでエルザードは解放された。でもマーフィン、手を出してはいけないような気がするのは俺だけか?


 「うぅ、助かったぁ。」


 「謝ってください!」


 「すみません調子に乗っちゃいました。はしゃいじゃいました。でも許してほしいです。」


 「う、うぅん。まぁ良いんじゃが、しかしあんまり触るな。我とてれっきとした竜じゃぞ、許可なしになやられるならこちらにも考えがある、我の鋭い爪でぶっ飛ばすという考えがな。」


 「うぐぐぐ!爪について気になるけど、ぶっ飛ばされるのは避けたい!しかたない、おとなしく調べます。」


 「いや、じゃからそも許可しておらんて。」


博士は椅子に座ってふぅ。っとため息をついた。どうやら接触での調査や好奇心は抑えてくれたようだ。


 「さて、真面目な話をしよう。辺境伯から君たちの話は聞いているよ、竜のことを知りたいんだってね。もちろん、教えてあげるよ。」


 「良いんですか?」


 「んまぁ。別に本にして売り出すとか知識を横取りしようってわけじゃないんだろう?なら問題なし。でも条件が一つだけ、」


 「なんじゃ?」


サーノルド博士の視線がエルザードには移る。鋭い目つきまさに野獣の眼光だ。


 「……うふふん。その、エルザードの触診を。」


 「───────。よしゼル帰ろう。」


 「って!嘘嘘!!いや嘘じゃないけど、待ってほしい!!コレは必要なことなんだ!お願いだ!お願いします!」


 「………んむぅ。」


エルザードは出口へ向かう足を反転させ戻ってきた。コレは意外だ、エルザード心の底からこの人に苦手意識を持っている。今までは嫌な奴ならすごく嫌ったり良い奴だったらすごく好意を示したりと純粋さを出していたものだが、今のエルザードが博士に向ける意識というのはまさに生理的に無理という奴だ。


あるのか、お前にもそんな価値観が。


 「なんで触診が必要なんだ?」


 「それはもちろん!私の研究のためぇぇ───」


 「…………」


 「ていうのもあるけど、実は君たちのためにもなるんだ!」


 「我らのため?」


 「そう!私が君たちが知っている竜に関する情報を知ればより考察が進んだりして、より新たな発見ができる、そうなるとなぜ今の亜竜種がいるのか、なぜ竜種は絶滅したのかを調べることがもっとできる!確かに君たちは竜に詳しい。でも私が君たちの知らない情報を知っているように、君たちも私が知っている情報を知らないことだってある。だから、コレは契約なんだよー!」


 「………つまり、辺境伯からのお願いは挨拶と協力関係までで、その後の情報共有とかはエルザードの体で支払うという感じです。博士は話がめんどくさいので。」


 「ちょっとマーフィン君!なんか私悪いふうに聞こえるんだけど!?」


 「悪いですよ。毎回こんな感じの言い回しで人を騙すんですから。」


 「そ、そんなそんなつもりはないんだって!」


 「な、なるほど。」


一瞬こんがらがったけどマーフィンこと助手ちゃんのおかげで飲み込めた。なるほど、だが確かにサーノルド博士の言い分はわからなくもない。彼とて研究者だ、エルザードのことを知りたいだろう。それに俺たちは竜のプロではない、エルザードも歴史の合間に何があったのかは知らないはずだ。それをサーノルドは探ってこっちの目当ての竜も探してくれるんだっていうんだから、ある意味、正当だ。


 「むむむ、嫌じゃが協力するしかないか。」


 「あー。エルザード、私の心の友ー!」


 「誰が友か!誰が!!」


 「さてて、まぁそんなわけだからまずはさっそく触診からぁ!」


 「変なところ触ったらぶっ飛ばさからな!!」


 「モチロン!!」


そうしてサーノルドによる触診が始まった。しかしコレが面白いことにかなり真面目だったのだ、サーノルドは先ほどの奇行に満ち溢れた言動は控えまるで試験真っ最中の受験生のような至って真剣な目で一つ一つ詳しく確認していく。そしてエルザードと会話しながら情報を一つ一つ知っていく。


なんというかギャップがすごかった。


 「はい、コレで今日はおしまい。さすがに部屋の中のせいで竜形態を見ることは叶わなさそうだし、今日は疲れたでしょうから。」


 「うぬぅーーん。なんか不思議な時間じゃった。お主本当にサーノルドか?」


 「モチロンさ!僕は君のベストフレンドサーノルドだよーーン!!」


 「うぎゃああ戻ったァァ!」


そうしてサーノルドをエルザードから引き剥がして、俺たちは屋敷を後した。ちなみにサーノルドが集めた情報については改めて今日の触診から得た情報を使って整理したのち、手紙として送ると言ってくれた。


相当悩んでいたり驚いていたりしていたので、多分かなり常識が彼の中で変わったんだろう。そりゃ整理は必要だなっと思いながら、なんだか複雑な表情をするエルザードと共に宿屋へと帰った。




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