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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター4「ポリファニア」
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132話「はじめ選び」





 「飯〜!飯〜!!」


夕暮れ時、ご機嫌なエルザードは変な歌を歌いながら大きく腕を振って俺の前を歩いている。今日も依頼をこなした俺たちは夕食用の材料、それと諸々を買いに店を回っていた。


 「ん、おや!お得意様が今日も来たね。」


 「どうも。」


軽く頭を下げて挨拶をする。俺たちがまず最初に来たのは肉屋だ、晩飯の大半は肉料理で構成することが多いせいでここの肉屋を利用することは頻繁にある。そのせいで、ついには店主に顔を覚えられてしまった。


これも全部エルザードが肉が食いたい!っと駄々をこねることが関係している、野菜も食べないと後々なにか大変なことが起こる気がするが、竜だから問題ないのか?


 「今日はレイフドボグの肉が安いよ。品質も保証する!」


 「へぇじゃあ四つください。」


 「はい毎度。」


三人しかいないのになぜ四つなのかというと、エルザードが肉を二つ分食べるからだ、おかげで稼いでいるのに毎日食費は右肩上がり、多分だがこいつは食べれるなら食べれるだけ食べるタイプだ、要はお腹いっぱいで限界になることがないものだと思われる。いや、あるにはあるんだろうけどほとんどない。


まぁなんか人間形態は生活しやすいけど竜力使うって言ってたから、その回復にこれだけ食べてるってことなんだろうかな?それとも単に大食漢?


 「また買いに来るぞー!」


 「はい、またねー!」


エルザードは見た目と幼いような精神年齢なのか、割と子供に見られることが多い。普通にしていればのじゃのじゃ言っているちょっと変わった子供に見られるのは理解できなくもない。

しかしてその実態は数百万年生きるおばあちゃんなのだ。


真面目な時以外は基本的に明るくて子供っぽいせいでこの勘違いはひどい。知っている俺からするとエルザードはある意味恐ろしいやつッとしか思えない。


 「次はどこじゃ?」


 「鍛冶屋だ。お前に言われていた新しい調理器具を買う。」


っというのはエルザード向けの建前だ。特段隠す必要はないものの俺も武器が欲しい。せめてあのミィーナが使っていたエルザードの鱗を切れるくらいのナイフ、、いやもっと身の丈に合ったものにしよう、あんなに鋭いと使い誤って自分の指を切り落としそうだ。


 「おぉっほー!!ついにか!これでまた新しい献立が増えるぞッ!」


エルザードの発言にもう冒険者やめて料理人になろうかな。っと冗談を思いつつ鍛冶屋に到着。ここは前に包丁とか基本器具を買って以降訪れてなかった、いい武器と調理器具があるといいんだが。


 店内には多種多様な武器防具が乱立してある。そりゃそうだ、鍛冶屋だからな。それこそ冒険者っていう職業柄にしている人がここに集中しているのなら武器防具の割合が高いのは必然だ。


だがそれでも包丁とかはやっぱりある、


 (包丁って武器になるのかな?)


とか思いつつ探す。包丁なら使い慣れているし──いや何を考えているんだ俺は。


頭を振って考えをもみ消し武器を一瞥していく。調理器具も探しているが包丁しかない。そりゃ当たり前だよな。


 「ゼル、調理器具といっても何を探しているのじゃ?」


 「ぇ!──」


突然のエルザードの質問に固まる。俺の中で調理器具と武器の順序逆が起こした時間、ギリギリ自然に見えるように方向転換しながら答える。


 「───っと、大鍋とか、大きいフライパンとか…?」


 「なぜに疑問系?まぁ良い。じゃが残念なことに期待外れじゃったな。」


あぁ、そうだな。っと残念がるふりして特段そうじゃない。まずいまずい、口に調理器具の名を出してから頭が料理モードに、このままでは俺の職業が冒険者→料理人new!になってしまう。


エルザードには騙していて悪いが、俺の職業は冒険者なんだ。だから武器を見させてもらう。


 「……のうゼル、あれを見てみるのじゃ!」


エルザードが指差した方向には壁紙が貼られている。オーダーメイドができると書いてある、ただ下に書いてある金額は驚異的なものであった。


もしかしてこの竜は、、


 「いやダメだ。」


 「なんでじゃ!?」


やっぱりそうだった。竜はあろうことかとんでもない金額と引き換えに俺が欲しい調理器具(別にそうでもない)を得ようとしているのだ、食い意地から来ているものなら相当な決意だ。


 「流石に高すぎる。調理器具は……確かにできるならいいものを揃えたいとか思っているけど、だとしても調理器具にかけられる値段じゃない。5日分の依頼料が全部ぶっ飛ぶレベルだ。」


 「でも我らはあんまりお金を使わないではないか!」


 「お前の今後の食費を考えたらそんなことないと俺は思うんだよな、」


そう別に使わないわけではない。全て生活費(主に食費)に溶けている。だが生活費は必要経費じゃろ?っとむけてくる竜に説教とはまさに馬の耳に念仏である。


 「なぬぅ!?誰がデブじゃ!」


 「言ってないよ……。」


 「ピィ…」


エルフルもつい呆れ声を出してしまう。そうだろう、君の名前をつけてくれたおばあちゃんは胃もたれなんかしない大食漢。

エルフルが喋って説教なんかしてくれればこの竜も従わざるおえないんだろうなと思う。


 余談だが、俺たちのパーティでのヒエラルキーはエルザード=俺<エルフルという感じだ。意外にもエルフルは発言力がある、なぜ?と聞かれれば、そりゃあまぁ可愛いからという理由で収まるのだが。


しかしてエルフルの言っている言葉はエルザードしかわからないし、エルフルが流暢に公用語を喋るわけでもない。


言い方は悪いがこのヒエラルキーはあってないようなものなのだ。


 (どうかエルフルが喋れるようになりますように。)


暴君エルザードを鎮められるのは勇者エルフルのみ、だから俺の密かな願いはこれだったりする。


 「うるさいと思ったら、貴方達……。ここに何か用があったの?」


 「ピィー」


いきなり声をかけられたと思ったらミィーナが登場。俺の余談はここまで。にしても俺たちの会話はどうやら彼女の耳にも届いていたらしい。これは失礼した。


 「ミィーナ、お主こそなぜここに?」


 「冒険者が自分の武器見に来てなにか変?」


それは確かに。っと納得せざるおえない。


 「あれ?でもミィーナの武器って…」


ふと口から出て考える。ミィーナの武器は鉄弓だ、ただの弓ではなく正しく鉄のような真っ黒な金属製のような弓、それと腰にある印象的なナイフ。


 「なに?」


 「いや、まだ新しくなかったか?もしかしてなにか不調とか?」


 「まさか、私は武器の不調くらいなら治せるし、今はただ──。」


 「ただ?」


 「……もう少しいい武器がないかなって探しに来ただけ。」


一呼吸置いた後答えるミィーナ、あれ?もしかしてなにかいけない質問だった?とその反応から思ってしまう。


 「───って私のことはどうでもいい。貴方達は、どうして?だってゼルは戦えないでしょ、エルザードは爪でしょ、エルフルは、、ともかく。」


ゼルは戦えないって言葉なんかチクチク胸に刺さる。そりゃ俺だって戦えたら戦ってるさ、それで今日武器を見にここに来たんだから。


 「調理器具を買いに来た!」


っと言えたらよかったが、エルザードが先んじて言う。まぁ建前って言ってもエルザードからすればそれが本心だと思うからな。


 「調理器具?あぁゼルの料理のために?」


 「うん、こやつの料理の質をさらに高めて我の食生活をより豊かにするため!」


 「食生活を豊かにするのは構わないけど、食べる量は考えてくれ、それと作る人の気持ちもだ。毎日考えて料理を作らないといけないこっちの身にもなってくれ。」


 「我はお主の料理ならなんでもいいぞ?」


うわ出たよ、なんでもいいとか一番言ってほしくない。嬉しいけど、献立を聞いている時にこいつが満足するものは一体なんなのか?という今度な心理戦を挟まないといけないからある意味言ってほしくない。

まぁエルザードは出されたものに文句をつけることはないだろう、3日連続で同じメニューじゃない限りは。


 「……。」


 「ミィーナ?」


 「なんでもない。また、貴方とパーティを組むことになったら料理にありつけさせてもらう。」


ミィーナは俺を少し見て、そう言い捨てる。なにか気になったことがあったんだろうか。


 「!渡さんぞ、ゼルの料理は我のものじゃ!」


 「俺の料理は俺のものだよ何言ってんだお前。」


 そんな会話をしながら俺たちは店をある程度一巡する。その間俺は料理のことばかりミィーナと話すエルザードを側に自分に合いそうな武器を探していた、しかし根本的に考えてみると無理なのだ。

俺そのものが武器に特に精通しているわけでもないのに、武器選びとかできるわけないのだ。武器はその者の命とも言うわけで、俺もなんだかこれから使うものがこれか。っと考えると選びきれなくなってくる。


 「それでの!ゼルがこの間作ってくれたサンドイッチとやらは絶品じゃった!」


 「へぇ、サンドイッチが…!」


君たちいつまで料理の話しているの?ていうかミィーナも興味津々だし、そういえばこの間のエルフの里までの道中も俺の料理だけには目を輝かせていたっけ?こう言ってはなんだけどもしかして食事に目がないのかな?


 っとある程度見て回った結果決められなかった俺は他に理由もないわけでエルザードを連れて店を後にしようとする。が、


 「ゼル、少しいい?」


 「?あぁ。」


まだ店にいたミィーナに声をかけられた。エルザード達に先に帰っててくれと伝えて俺はミィーナと共に再び店の中へ。


 「それでミィーナ、何の用だって───」


 「店主。この人に合う武器を。」


 「ぇ。」


ミィーナが俺を引っ張って店主ことドワーフにそう言う。俺はその出来事に脳が追いつかず言葉が漏れる。


 「おうよ。」


ドワーフは話を聞くと店の奥へ、ガシャガシャという音から武器を選んでいるように聞こえ─ってそうじゃない。


 「ミィーナ、合う武器って…」


 「貴方、店に来てからよく壁にかけてある剣とか見てたでしょ。あれ、調理器具は建前で武器を見に来てたんじゃない?」


 「、」


素直に驚いて言葉を失う。まさかあの時俺の視線だけで俺の真意を当てていたのか、エルザードと楽しく会話していたしエルザードも俺のことには全く気がついていなかったからてっきりバレてないのかと思っていた。


 「すごい。なんでわかったんだ、」


 「あんなに視線が武器の方向いていたら、いやでもわかる。それと貴方は私が見ている限り真っ直ぐな人、だから嘘とか何かを誤魔化している時はわかりやすい。」


 「そうなのか…?」


 「うん。それと料理のことを考えているなら貴方はきっと店主に相談してでも手に入れにいく。そんな真面目さがある。」


 「………そう、なのか。真面目さ、か。」


この前エルザードに言われた言葉を思い出す。あの時はサラッと流したけど、あぁ確かにミィーナのいう通り、たしかに俺は本気になっているならどんなことをしてでもそれを手に入れるという根気がある。彼女ふうに言えば嘘がつけないのだろう。


 「それでどうして?貴方は別に戦わなくても他にやることくらいあるでしょ?」


 「……そうなんだけど、やっぱり。戦うべきって思うんだ、エルザードとかエルフルとかに背中を任せっきりなのが、俺は少し嫌なんだと思う。」


 「…呆れた、そこまで真面目だったなんて。」


 「仕方ないだろ。」


 「……ゼル、ひとつ言わせて。戦わなくてもいいなら戦わない方がいいに決まっている、貴方はいま自分から危険を犯そうとしている、それをわかってるの?」


 「───。」


ミィーナの言い分はもっともだ。傷つかないならそっちがいいに決まっている戦うのなら多少の傷を覚悟しないといけない、こさそれが一生残るか残らないかにしても戦いはある意味常に死と隣り合わせである。


そして弱い者は死ぬ、この原則に則るなら俺は弱くて死ぬかもしれない。なら戦わなくてもみんなの役に立てているのならそれでいいと。


だが。


 「それでもやるべきだって思う。あの時、槍を持って怪物に向かって行った時のこと俺は自分が負ける怖さよりも、目の前で誰かがいなくなる方がよっぽど辛いって思った。目の前で誰かを救えない、そんなことが……」


そうだ。俺はそれがたまらなく嫌なんだ。なんでそう思ったのか?なんでそんな考えなのか?自分が死ぬ方がよっぽど怖いのではないのか?っとらいくつもの疑問が心に突き刺さる。

しかしすでに決意で固めてあった心はそれを弾き飛ばす。


多分これはゼル。じゃない俺という人間があるとき抱いた決意なんだろう。記憶をなくしてもそう思ったきっかけがどこに行ったかわからなくなっても、俺の中で決して消えない。


この体が、この決意が記憶で消されることはなく。この意思こそが俺を何よりも突き動かす原動力で生きる意味なのだと。


それを今言葉にしてようやく自覚する。


 「だから、それじゃダメか?」


 「────いや。……いい心がけだと思う。」


ミィーナは俺の言葉に驚きつつもなんだか嬉しそうにそう言った。自分の意思を口にして答えただけなのに俺も自然と笑みが溢れてしまう。


いやだからこそなのかもしれない、自分が知っていながら知らなかったことを、もう一度思い出すことができたような気がすることが。


 「話は終わったかい?」


店主のドワーフがいくつかの武器を綺麗に整頓して待っていてくれた。どうやら俺たちの会話は武器を整頓するほどの時間をかけていたらしい、申し訳ない。


 「ごめん話しすぎた。それじゃあゼル、選んで。」


 「えと、考えてはくれないのか?」


 「貴方の武器になるんだから、最初は自分で決めた方がいい。見たところ別に扱えないわけでもなさそうだし。」


並べられてあるのはナイフなど短剣の類だ、壁にかけてあるロングソードやショートソードに比べればここに陳列されてある武器達はどれも軽く扱いやすいように見える。さすがドワーフの店主だ。考えてくれたらしい。


 「失敗作は置いてない。好きにみて試してくれ。」


 「どうも、それじゃ遠慮なく。」


手に持って端から端まで確認していく。武器に良い出来かどうかなんて目利きは俺にはあんまりできない。でも刃はどれも綺麗だ、となると問題は持ち手とか値段とかってところか。


 「………。」


 「決めたら呼んでくれ。もし他のも見たいんだったらそんときもだ。」


 「あぁ。」


俺はその後しばらくの間武器それぞれを二周三周も確認して真剣に選んだ。これが最後に自分を救うものとなると考えると、余計気が入ってしまうが。それでもどこかで折り合いはつけないといけない。


 「すみません!」


俺は長い思考の末、武器を選んだ。値段はそこそこしたがこれがロングソードなどの一般的な武器だったらもっと金がかかっただろう。そう考えると自分は最初の武器選びに成功したってことだ。


 「随分長く考え込んだのね。」


 「そりゃ。でも言われた通り自分で決めてよかったよ。」


 「そう。」


 「ミィーナは、何か買うんじゃなかったのか?」


 「いや、良いのがなかった。まぁレオーナじゃ限界はあるから仕方ないけど。」


レオーナじゃ限界はあるってことは別の街とかならミィーナが欲しがっているものが見つかるってことなのか。そうか、別の街。


 「それじゃ私はこの辺で。」


 「あぁ、今日はありがとう。おかげでいい武器が選べた。」


そんなミィーナとも別れて俺は帰路に着く。今日もなんでことのない1日で終わるかと思ったけど、まさか自分の武器を初めて買うことになるなんて。なんだか少し特別な日になった、もし機会があったのなら、この恩は必ずミィーナに返そう。




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