131話「届け便」
「そぉぉりゃ!!!」
「ギィエエエ!」
エルザードがその鋭い爪によってモンスターを倒す。俺はモンスターの死体から討伐の証である部分の剥ぎ取りを行うんだが。
「うぇ、」
正直、そこまでの抵抗感はないけどニオイがきつい。さっきまで生きていたからか自分とは違う体温の生き物の感触は何をしても慣れない。
モンスターによっては外側とかじゃなくて体の中に証があるやつもいるから、困る。
「よし、エルフル。いいぞ」
「ピィ!!」
エルフルが大きく口を開けてモンスターを丸呑みにする、そして咀嚼するように上下運動をし段々と体積を元の大きさに戻していく。
「……これでお腹壊さないのか?」
「まずスライムに腹というナイーブな考えは捨てるべきじゃ。エルフルはこれでもれっきとしたスライム、対象を捕食して力を蓄えるのが当たり前なんじゃ。」
「俺たちが依頼でモンスター狩りを行えるようになったおかげでってわけか。」
「そうじゃの。」
レオーナの街に戻ってきた俺たちは世界樹での一件のこともあってついにモンスター討伐系の依頼も受けることにした。正直俺が戦えないことで辞めていたけど、あの怪物に比べたらこんな奴ら危険のうちに入らない。
薬草採取がいい加減飽きたとかそう言うんじゃない、ただやっぱり少しくらいいい生活をしたいなと思っているだけだ。日用品も揃えたいと思ってたし。それにあぁいう風にいざとなって何もできない俺になりたくない。少しでも恐怖に勝てる人間にならないと。
「のう?あの槍はまだ出ずまいかの?」
「あぁ、出る気配なんて一切ない。」
「そもそも感覚でわかるものなのか?」
「それは、、絶対じゃないけど少なくともわかると思う。」
ちなみにただの討伐系でも多少難易度の高い依頼を受けることにしている。理由はあのとき怪物に使った槍をもう一度使えるようにするため、あの時は何もわからないまま出して使っていたけどあれからいくら頑張っても槍は出てこない、単純だけど危険になれば槍は出てくるんじゃないか?みたいな理屈でやっているけど、全然だ。
あの武器があれば俺もエルザードと達と肩を並べることができる、それにいつだって足手纏いにならずに済む。だからあの槍を出すこと、それが俺の今の目標の一つである。
「ま、気長にやるかの。討伐数は達成したし今日は早めに切り上げるか!」
俺とエルザードとエルフルの三人は、ギルドへと戻った。ちなみにギルドマスターの手配によってエルフルはテイムしたモンスター扱いとなり堂々と街中を歩けるようになった。エルザードと俺も竜と人間という身分が与えられたんだが、それでも厄介ごとを防ぐためにまだフードは外せない。
ただ敵を少なくできたのはかなりいいことだと。ギルドにいつバレるかバレないかでビクビクして過ごさなくて良くなるんだからな。
「はい。依頼を確認いたしました、こちら報酬となります。それから……」
討伐証はモンスターの指定された体の一部、それが詰まった袋を受付に渡して報酬をもらうと、何やら箱をカウンターに出された、差し詰め俺宛だと思われるが。
「これ、エルフの里のカリスさんからです。なんでも魔法書と人間に関する資料だそうです。」
「どうも。」
俺は箱と報酬を受け取って宿屋に戻った。部屋に着くとフードを外し、箱を開けて中身を確認する。
「おぉ、言っておったのがついにきたのか。」
言っていたというのは。エルフの里を離れる時、カリスに頼んでおいたものだ。あのまま滞在してもよかったのだが依頼を報告しなければいけなかったこともあって俺たちはそのまますぐにレオーナに戻ってしまった。
居心地とか考えてもう一度戻ってもよかったのだが、流石に面倒になるかなと自重。
でもそうなるとどうやって魔法を学ぼうかというところで、あっと気がついた。
カリスの住所が書いてある紙、これを持っていることに気がついた俺は試しに手紙を書いて送った。それとここで郵便屋という存在も同時に知った。
数日後届いたカリスの手紙からやり取り開始。
後に手紙を通してカリスに人間に関する資料と、魔法書を届けて欲しいと頼んだのだ。
魔法書は手紙の中でその存在を知った、カリス曰く、俺は感覚派じゃないから本を読んだ方がわかりやすいらしい。
………そうなのか。
「こっちが人間に関する資料か。思っておった通りうっすいのぉ。」
「こっちが魔法書か。随分分厚いな、」
人間に関する資料が箱の本の端っこしか取っていないのに対して魔法書はその大半を埋め尽くしていた。かなり年季の入ったしっかりとしたものが送られてきたことにちょっとびっくりしている。
「おっと、手紙もあるぞ。」
「どれどれ。」
手紙を開いてカリスが書いた文面を確認する。カリスはどうやらあの後傷が完治して今は世界樹の記録に勤しんでいるそう、新しい研究課題であるグリンドルムのことや俺の槍について、何か進展はあったか?などが書いてある。
それと送った魔法書はバカでもわかるらしいので、それ一つで大抵の魔法を習得できるとのこと。
なんともありがたい限りだ。
「ほぉ。ゼル、こりゃ大変だぞ、なんて書いてあるかさっぱりじゃ。」
エルザードがテキトーに本を見開いて俺へ見せる。本当だ、なんて書いてあるか読めない。どうやらカリスはエルフ語のものを送ってきたらしい。いや確かに、エルフ以外の種族はこんな本使ったりしないから当たり前なんだが。
「これはまた勉強会が必要だな。」
「うげ、にしても……ゼルよ、今更人間の資料なんか必要かの?」
「必要かどうかといえば、別にいらない。ただこれはケジメみたいなものだ、俺は自分の祖先が犯した罪をしっかりと理解しないといけない。それが今俺ができることの一つだ。」
「ときに真面目じゃのうお主は。」
「真面目って言うか?」
「言う。」
どうやらエルザード基準だと真面目に入るらしい。まぁそれはおいておいてこれから魔法の練習をしながらレオーナで金銭を稼がないとな。今回だけじゃない、前々から考えていたことなんだがやっぱり俺は何か武器を手にして戦った方がいいと思う、エルザードは別にそんなことだとかいうだろうけど、俺自身が示しがつかない。
(一人でできることと、なんでもできることは違う。でもだからってやらないのはおかしい。)
そうだ。槍は使えないとしても俺も何かしら武器を使えるようにならないといけない、エルザードがいなくなって槍もこの手にない時、自分を守ることができるのは何もない。
自分を守って初めて誰かを守れる、ならここから始めるべきだろう。
「そうじゃゼル!話は変わるが街に鍛冶屋があったじゃろう、あそこに行ってみよう!新しい調理器具が買えるかもしれん!」
エルザードの鍛冶屋発言に一瞬肝を冷やした。心が見えているのかと思いきやそうじゃないとすぐわかる。なんだかエルザードの鋭い勘にビクッとしながらため息をつく。
「調理器具ね、、エルザード、お前が求めているのは調理器具じゃなくて調理器具で作られた俺の飯だろ。」
「バレたか、じゃがバレたのなら潔く!ゼル、飯!!」
「潔すぎるわ!」
思えば空は黄昏色に染まっている。エルザードが腹を空かせるのも無理はないかと渋々調理を始める。宿屋の外に出て今日も晩餐、近いうちに鍛冶屋に行ってみることにしよう。




