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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター3「プログレス」
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130話「依頼と残る謎」





 真っ白な世界。そこにポツンと立つ俺、辺りを見回しても何もない音も匂いも気配も何も感じない、そんな世界にただ一人俺だけ。

ここはどこだと口から出そうになるが口は全く動かない、何かで固定されているように何かで防がれているように声を出すことは叶わない。


ただ動けはする。だからひたすらこの場所からどこかへ辿り着けると思って歩き始めた。


歩いて、歩いて、歩いて。長い時間がいくつも飛んだ感覚を覚える。だがそれをおかしなことだとは思わない。それは正しいことでそれは当たり前のことだと勝手に頭が認識する。


そして気にすることなく俺は歩き、


 「………」


あるところで足を止めて振り返る。振り返った理由は何かが自分の後ろにいると思ったからだ、だが振り向いてその姿がぼやけた視界に映る時。


 「────、」


俺はその夢忘却し現実の世界に戻る。おかしな夢、おかしな世界。ただその世界で起こった出来事は現実が1秒進むごとに俺の記憶から跡形もなく消えていく。


 「ぁ、」


体を動かすと手に何かが当たった。視線を自分の手に移すとそこにはエルザードがいた、俺が横になっているベットの端に顔を横にしながら両腕で枕を作り寝息を立てている。


そんなエルザードをできるだけ起こさないように掛け布団を動かして、上半身だけをベットから起こす。


 (なんで、エルザードが寝て───。)


上半身を起こしたことによって見える風景が変わった。よく見てみればいつも寝泊まりしている宿ではない。それを理解すると自然に頭が働き始める、


 「そうだ、俺たちはエルフの里に来て、世界樹の調査をして、それから……」


それから原因を見つけて、それを倒した。いや倒したのか?記憶が正しければまだ確か俺たちは全滅一歩手前で。


 「……俺が、倒したのか?」


記憶を一つ一つ呼び起こし、この結論に止まる。その後意識を失った。でもそんなことありえないはずだ。武器を手に持ったことがない俺があの考えるだけでも身の毛がよだつ怪物を倒しただなんて。


 (でも、確かに……俺が倒した。よな?)


 「……エルザード、エルザード!」


 「うん、むぅむむ。」


記憶を確認したいがために先ほどまで起こしては行けないと思っていたエルザードを揺さぶり起こそうとする。


 「なんじゃあ、まだご飯の時間には早いぞ。。」


 「ご飯?いやそんなことよりしっかり起きろ!」


 「ぁ〜、ゼル?どうした?──どうしたぁぁぁ!?!?ゼルが起きておるぅぅ!?!」


 「そんなに驚くことか!!」


普段じゃ考えつかないようなリアクションをするエルザード目から、珍獣を発見してしまった!ツチノコじゃツチノコ!っと聞こえてくる。


 「で、だだだって!!お主!起きたんじゃもん!!うわーーーぁん!」


 「うおぁ!?急に抱きつくな、そしてなんで泣く!?」


エルザードは両目に大粒の涙を浮かべながら俺に抱きついてくる。布団越しでもわかる、エルザードの腕力が驚きの次に焦りを俺に抱かせる。


 「ぅ、ぅぅっ!ぐぅ!!」


 「………ほら泣くな泣くな。俺は何もわかんないんだぞ。」


その後エルザードを宥めてその口から何があったのかを聞いた。どうやら戦闘不能になった俺とミィーナとカリスをエルザードとエルフルがなんとか里まで戻したらしい。


その後、重症一歩手前の二人は先に目覚めたが、傷ひとつない俺が一向に目覚めないとエルザードは慌てだし、心配で心配で仕方なかったようだ。


 「心配するのはありがたいけど、だからって泣くことないだろ。」


 「泣くわ!10日も起きなかったんじゃぞ!!」


 「でも無傷なんだろ。ならいつか起きるだろ、だからまた泣くな……」


 「ぅ、うぅ。」


エルザードの涙はかろうじて止まっている。それだけ俺を心配したってことが嫌でも伝わると共にそんなに寝ていたのかっと俺も自分のことながら驚く。


 (エルザードが心配するのも無理ないってことか。こいつは、、友達が亡くなったこと知ったんだもんな。)


友達がある日亡くなっていたなんて、耐えられたものじゃない。それに縦続いて俺まで死んだみたいな感じになっていたらエルザードがひたすらに不安なのも頷ける。口ではこう言うが、じゃないとエルザード、一向に安心しないだろうからな。


 「そうだエルザード、聞きたいことがあるんだ。あの怪物を倒したのって、、俺だったか?」


 「ぅ、なんじゃそんなわかりきったこと。お主がなんかよくわからんが倒したんじゃろ!」


 「見たか?」


 「見たぞ、この目でその手に武器を取りおって!まったく、何が戦えないじゃ!!あんなことができるなら最初にやっておけい!」


 「それは────。」


どうやら俺があの怪物を倒したのは事実らしい。いまだに信じられない、俺が?戦闘経験のない俺があの怪物を、でも思い返してみるとエルザードが言っていたことはこの頭にある記憶と一致している。

俺が武器を手に取って、怪物に向かう。どうやって退けたのか、どうやってあの無数の手を潜り抜けたのか、肝心の戦いの部分がまるで抜け落ちているけど、けど最後にあの怪物を倒したのは俺だって確信できる。


自惚れるつもりなんてなくて、本当に自分自身信じられないけど。


 「おい!何か答えたらどうじゃ!?」


 「わからないんだって!俺もどうやってやったのかわからないって!気づいたら武器は手にあって、気づいたら怪物を倒してたし!実感なんてない、本当に自分自身全くこれっぽっちも信じられないんだって!」


 「なーぬぅ!?自分でやったのにか?」


 「自分でやったのにだ!そもそも俺はお前に隠し事なんてしてない、あの武器共々わからないんだって!」


 「うぬぬ、その顔はゼルがいつもしている顔、ということは本当らしいの。」


 「当たり前だ。」


 「……だとしたらあの武器は?もしかしてお主、前の記憶が戻ったりはしておらぬか?」


 「前の記憶は、、特に戻ってない。」


 「ふむ、じゃがあの武器明らかに呼び出していたよな。ではお主の元の記憶に関係するものだったのではないか?」


 「そうかもしれない、たぶん。」


 「……まぁ覚えてらんとそんなもんか。じゃが、そんなもの思い出さなくとも構わん!ゼル、我を助けてくれたこと感謝する。あのままじゃったら友人と墓地を同じにするところじゃった!」


 「…。」


エルザードはなんの恥ずかしもなくそんな言葉をかけてくれる。その言葉を待っていたわけじゃない、だけど感謝されるってことはとてもいいことだなって改めて思う。


 「、ジョークにしてはかなりラインギリギリなんじゃないか?その友人が枕元で化けて出てこないといいな。」


 「な!それは怖い……我何言われるんだろう。」


 「さぁな。」


エルザードといつもみたいに談笑して、10日ぶりに大地に足をつける。動いていないからか体はあんまり安定しない。だが少し歩けば元に戻る、そう思いながら俺とエルザードはミィーナの所へ向かった。


ミィーナは腹部を中心に適切な処置がされていた。容体は安定している。


 「まさか貴方が先に回復するなんてね。」


 「悪かったか?」


 「どちらでも。ただ、助けてくれたことには感謝する。」


あんまり感謝されてない気がする言葉を投げかけられつつあの時起こった事情を説明後、カリスのところへ向かう。


腕に包帯を巻きながら全身ボロボロの様子だった。ただ会話はできるしなんなら俺と怪物について思考が止まらないようだったから、知りうる限りを説明した。


 「なるほど偶然ですか、私はあれがとてもそうだとは思いません。貴方の槍は確かにあの時グリンドルムに届いていたはずです。」


 「ぐ、グリンドルム?」


聞き覚えのない単語に会話そっちのけで聞く。


 「はい。私がつけたあの怪物の名前です。グリンは無、ドルムは得体の知れない、どちらも古代エルフ語からとりました。」


 「痛い目に遭ったのによく名付けなんてしたの。」


 「まぁそこは性なので。っと話を戻しますと、貴方の槍はどういうわけかグリンドルムに効いていました。偶然にしても攻撃が通ったことは偶然も何も紛れもない事実。貴方はあの時私たちを救ったんです。そして新しく私の研究の目標になったのです!」


 「そ、それはどうも。コウエイデス…」


 「ところで、世界樹はどうなったんじゃ?」


 「安定しましたよ。エルザードに竜力を少しばかり分けてもらいましたし、」


 「あんなので良くなるものかの?」


 「傷つけられた部分は死んでいました。ですが生きているように力を流せば元に戻る。仮説だったのですがエルザードのおかげでわかりました……確かにあれは竜力で動いています。貴方のお友達の力で。」


 「うん。」


 「ですが、それも限度があるでしょう。竜力も貯蓄分がなくなれば世界樹は機能しなくなります。ですので私は竜力の代わりになるものを探したいと思います。それとグリンドルムの研究も、サンプルは少ないですがあんなもの二度と対面したくないです、」


っとカリスはなんだか案内の時よりも元気そうだった。次に俺の槍が出た時は連絡して欲しいとご丁寧に住所が書かれた紙を渡してきてくれた。


その後回復したミィーナと共にエルフの里を出て、数日かけてレオーナへ。ギルドマスターに依頼の内容と報告を行った。


 「なるほど。正直疑問点などはいくつかあるが、依頼は無事に達成された。君たちはエルフと我々の関係をしっかりと守ったわけだ。報酬を渡そう。」


ギルドマスターの手によって、多額の報酬を受け取った。ちなみにエルフの里でも謝礼金をもらっているので今回の依頼は初めてだったのにも関わらずかなりの大報酬で幕を終えることができた。


エルザードとエルフルを連れてうまい飯屋に行き、そしてあっという間に夜になると。エルザードから相談を受けた。内容はアースドラゴンのことについてだった。


 「名前はあったのか?」


切り出したのは俺だった。エルザードが俺に聞かれたそうな顔をしていたから先に答える。


 「名前は……ないのじゃ。竜は基本名前がない。自分から付けて名乗らん限りはな。じゃが、我の中でアースドラゴンは友達のあやつ一人じゃった。」


 「────。」


他にも友達はいるのか?なんて無粋で聞けなかった、きっといたんだろうがエルザードほどの竜だ。友達は必然的に少ないだろう。


 「にしてもたまげたのぉ、あやつちゃっかり死んでおっただけじゃなく、まさか陸地と同化してそして世界で一番でかい樹を育てておったんじゃ!」


 「そのアースドラゴンにとっての子供みたいだな。」


 「あぁ。」


明るく振る舞うエルザードにこっちも応答する。


 「果ての世界に行ったか。そうじゃな、間違いなく果ての世界じゃ………生きているものには到底辿り着けぬ場所。……"死が終わりであるのなら生は輝かしい始まりである"、、あやつがよく口ずさんでおった。今ならそれがわかる。」


エルザードはいま何を考えているのだろうか、目覚めて辺りに竜はいなく。自分はこの世界でただひとりぼっち。寂しいのだろうか、それとも昔を懐かしんでいるのだろうか、それとも。。


 「よし!」


エルザードが突然何かを決心して立ち上がる。


 「ゼル、我自分の旅の目標を決めたぞ。竜種が絶滅した原因を探る!そしていつか同胞を探すんじゃ!!」


ゼルは高々にそう宣言する。俺の目的は記憶を探すこと、そして誰かの助けになることだった。ただエルザードには目標なんてなかった、でもその瞬間、彼女がそうであると決めた今この時から、彼女が旅をする理由が定まったのだった。

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