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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター3「プログレス」
128/193

128話「時は時に残酷に。」





 「こんな空洞があったとは。」


世界樹の根の空洞を俺たちは進んでいる。空洞ははじめは人一人分のスペースくらいしかなかったのにも関わらずどんどんと大きさを広げて今やトンネルほどになっている。カリスの魔法によって明るさは確保できるが一向に先は見えない。


 「しかもこの感じ異常じゃな。ほれ見るが良い、」


エルザードが近くの壁に手をつけ手で拭くようになぞる。するとボロボロと灰になった木片が落ちていく。


 「劣化の類ですか?」


 「惜しいな。確かに普通に見れば劣化に見えるじゃろう。しかし考えてみるのじゃここは木の根の中。木というのは外側から剥がれ落ちるもの、なのになぜここは剥がれ落ちているのじゃ?」


 「……言われてみれば!」


 「普通なら内側からなんてのはあり得ない、それこそ虫でも住んでいない限りはな。」


 「……虫。」


ミィーナが表情を悪くする、具合でも悪くなったのだろうか?


 「しかしこんな馬鹿でかい空洞に住む虫が果たしているかの?」


 「……世界樹は基本的にマナで包まれています。これは原生生物たちにとっての栄養源となっていますが体内に蓄積し過ぎると返って悪影響が出ます。それをここの生物たちはわかっている、だから。」


 「うん。となるとこれを引き起こした犯人は少なくともここの生物じゃないという訳じゃな。」


 「……ここの生物じゃないとなると相手はどんなやつなんだ?」


 「わからんな、そもそもマナの大量摂取が毒となればの、、こんな感じにマナの塊である世界樹を───そうか、わかったぞ!」


 「エルザード?なにがわかったんですか?」


 「我は勘違いしておった、これは劣化なのではない。食跡じゃ!さっき我たちがこの中に入る時に通った穴、あれは元々小さかったものがミィーナによって広がったものじゃ!」


なんかそう聞くとミィーナが重いみたいにきこえる。


 「なにが言いたいの?」


あ、痺れを切らしてミィーナが結論せかし始めた。


 「最初は小さかったこの空洞も進んでいくうちに大きくなっていっておる。つまり、最初は小さかった者が中に入ってこの木を捕食して大きくなったと考えられなくはないか?」


 「そんな、ではその生物はマナを喰らって成長している?!しかしそれでは、、」


 「……カリス、我のはまだ考察だ。絶対ではないが可能性として考えておくれ。」


 「わかりました!そうですね、ちょっと早とちりしすぎました。」


二人の会話はなんだか高等的だ。俺が出る幕はほとんどないだろう。ミィーナもただ黙ってエルザードたちの会話を聞いている。もしかしたら自分なりに答えを探しているのかもしれない。


 「とにかく奥に進めばわかることは確かじゃ、さっそく────!?」


 [ドジャン!]


エルザードがそう言いかけた時彼女は何かに気がついて振り返る。俺たちの背後に何かが降りてくるような音、それは生物で俺たちより遥かに強大だということが瞬時に分かった。


 [ガシガシガシガシ!!!!]


まるで重戦車がチーターのような速度でこっちを轢き殺しにくるかのような足音。


────怪物が、急接近する。

凄まじい移動速度。

俺は咄嗟に反応できない。


 「っ!!」


ミィーナが覆い被さるように体当たり、体は吹き飛ばされ地面に伏す。怪物の足音はすぐ耳元を通り過ぎ、エルザード達の方へカリスをその腕でぶっ飛ばしたエルザードは真正面から怪物と勝負するように竜腕を広げ、激突する。


 「ぐ、うおおぉぉぉ!?!!」


木が爆発したような音共に怪物に轢き飛ばされたエルザードが壁に穴を開ける。

怪物はエルザードのことなど気に求めずひたすらに向こう側に走り続けた。

怪物が起こした不可解な行動は力自慢のエルザードが真正面から敗北したことにより終結した。


 「ミィーナ、ありがとう!」


 「……反応が遅かったから、次からはもっと背後にも気をつけて。」


 「これは手厳しい。」


ミィーナの手を取りながら立ち上がる。カリスはエルザードにかなり強めに吹っ飛ばされていたようだが幸いあんまり大事ないようだった。


 「カリス!」


 「私は問題ありません!ですがエルザードが!!」


カリスの視線の先にはエルザードが壁に張り付きながらぶっ倒れていた。力尽きたようにピクリとも動かないその姿に焦りを感じながら近づく。


 「エルザード!!」


 「………う、ぐぐぉ。」


エルザードはゆっくりと体を起こす。よく見てみれば彼女の服に隠れていたエルフルが体の面積を拡大させてクッションになっていた。


 「大丈夫じゃ、轢かれた時の痛みはあるが、エルフルが守ってくれた!」


 「ピィ!!」


 「無事で何よりです、エルザード。あなたに吹き飛ばされてなければ私はきっと轢き殺されてました。」


 「なにを言う。我が勝手にやったことじゃ、気にするでない。」


 「それにしても、スライム!飼い慣らされているのですね。」


カリスは驚きつつもそこまで驚いていない様子だった。もしかしたら


 「カリス、モンスターて飼い慣らすことあるのか?」


 「えぇ、ごく稀に。でも今まで会ってきた人たちの中でスライムを飼い慣らした人は見たことがありませんでした!」


モンスターを飼い慣らす人がいるのか。てっきりダメかと思ってエルフルには隠れていたが、もしかしたら次からそんなことにならなくて済むようになるのかもしれない。後でカリスにエルフルをどうすればいいのか相談してみよう。


 「それにしてもかなりぶっ飛ばされた、いててて────、」


エルザードは立ちあがろうと地面に手を置いた。その時なにか感触に違和感を覚えたのか木の幹の中にある白いものを何度も触れ手で叩いたりする。


 「エルザード?」


 「──────。」


口を開けたままポカーンとするエルザード。一瞬泣き出しそうなになるが、瞬間それをギュッと堪えて悲しそうな顔をする。


 「そうかお主………こんなところに、おったのか。時間とは──残酷じゃのう。」


 「エルザード、」


 「すまぬ、少し感傷に浸っておった。」


 「……その白いのに、何か関係があるのか?」


話を止めようとするエルザードを止める俺。質問されたエルザードは迷っているようだ話すべきか話さないべきか。


 「エルザード、もし話したいことがあったらどうぞ。無理強いは致しません、ですがなにか世界樹と貴方に関係があるのなら。」


 「……少し昔話をするかの。我は昔空を自由に駆ける竜じゃった、我以外にも多くの同胞や竜種が存在していた時代、もう今から何万年も昔になるの……。」


竜の話。エルザードは、一体なにを話そうとしているんだろう?


 「ある時我はとあるアースドラゴンに出会った。その者は我が知っている竜種の中でも格別に大きくの、背中に森を抱えているほどじゃった。」


 「背中に森ですか、」


 「あぁ、信じられんじゃろう。それが大昔いたんじゃよ。奴は我と出会った時にはかなりの年寄りではあったが我の友達でもあった。」


エルザードは懐かしむように語る。彼女の言葉からその竜がどれほど大切な友達だったが伝わる。


 「カリスやミィーナから竜はもういないと聞いておったからあやつにも会えんか。と思っておった、じゃがいたんじゃよあやつは。」


 「……どこに?」


 「ここじゃ、この世界樹こそあやつじゃったんじゃ。」


 『!』


 「世界樹が、アースドラゴン…?」


 「少し違うなカリスよ。アースドラゴンが世界樹になったんじゃ。」


エルザードが口に出した言葉は突拍子もないこと、だがその言葉には真意がこもっていた。問題はなぜエルザードがそれを分かったかだ。


 「なにか、確信したことがあるんだな。」


 「この白い部分これは、竜骨じゃ。」


 「竜骨?」


それにしては大きすぎる。氷山の一角だとしてもこのサイズの骨。どこの部位かはわからないが、もし本当だったらエルザードとは大きさが比較にならない。


 「この骨には"竜力"がある、そしてこの大きさ。我が知っている中でこの大きさの竜はただ一人、あやつのアースドラゴンだけじゃ。」


 「待ってください!ましかしてそれってつまり?」


 「…アースドラゴンが死に、何万年経ったかはわからん。じゃがあやつの体にはかなりの竜力を溜め込めるじゃろう、それが一本の木として成長するのならそれは間違いなく、世界を統べる大木となるじゃろうな。」


 「つまり、世界樹は貴方の言っていたアースドラゴンの死後"竜力"によって成長した。」


 「おそらくな。まぁ我の妄想だが。」


 「そうか、なるほど……いえ、エルザード。もしかしたら妄想ではないかもしれません。世界樹は今までなぜマナが出るのか謎ではあったのです。なぜ無尽蔵にマナを放出できるのか、なぜそんな力が古くから存在したのか、なぜこれほど長い期間この木は全く枯れなかったのか。貴方の言葉が正しいのならこの疑問に全て決着がつきます。」


なんてスケールの話だ。エルザードの友達が、世界樹になっているなんて、、。きっとその骨の一部がなければエルザードは気づくことがなかったんだろう。

エルザードがこの森に入って世界樹の近くに来た止まっていたことがあったのは、人知れず友達を感じ取っていたのかも知れない。

そしてその友達はもう死んでしまったけど、エルザードに再び会うことができたんだ。


 「貴方の扱う竜力は私たちエルフの使う魔法に似通っている、おそらく答えです。」


 「そうか……。」


 「そして、お悔やみ申し上げます。」


 「───いいんじゃ、果ての世界に行ったとか聞いて、てっきり我は置いていかれたのかと思ったが。違かった、我がお主を置いていったんじゃな。」


エルザードは白い部分に手を触れる。そうすると目を開き大きく深呼吸した。


 「よし。行くかの。」


 「もういいのか?」


 「当たり前じゃ!!逆に我ムカついてきたぞ!今さっきこやつの竜力からさっきの通り魔の場所を探り当てた!」


 「な、便利だな!?」


 「うん!しかもそやつ案の定この空洞だったり世界樹を食い潰しておる!」


 「やっぱりですか、何か見たことない異形で怪物であったからか、もしかしたらと思っていましたがっ!」


 「となるとそれが、この世界樹を弱らせている原因ってことか!!」


 「うん!さぁ、怪物大事じゃ。友達の体の中で好き勝手やったこと、後悔させてやるッ!」




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