120話「救援」
レオーナに来て数十日が経過した。自慢するわけでもないけど俺たちはかなりこの街に馴染んできたと思う。お金は稼げてきたし、野宿から宿に移ることはできたし、文字は少しずつわかるようになってきた。おかげで金銭の価値的なものもよくわかってきた。
「ひー、ふー、みー。からの、銅貨60枚」
「だいぶ貯まったの。」
「ピィー。」
宿屋で貯金を数える。一人部屋みたいな広さだが俺たちは三人組からすれば十分な広さ、毎日ベットの取り合いが起こるのは大変だが別に極めて苦じゃない。
「にしてもお主、変わった数え方をするのぉ。」
「そうか?」
「そうじゃよ、ひーふーみーとやら?馴染みのない数え方じゃ。」
「そういうものか。」
「うん。」
いつも通りみたいなノリで使ってたけど、もしかしたら人間特有の数え方だったり?て、考えても仕方ないんだけどな。
「さて、もう寝るか。明日もしっかり働くぞー!」
「おー!!」
そして次の日、いつもと変わらないように目を凝らして依頼を選んでこなす。いまだに雑用や薬草回収やらだけど、全然満足だ。
「はい、確認いたしました。こちら報酬です!」
「どうも。」
「よしよし今日もいい調子じゃな。お主のこともあってまだまだ戦闘などはこなせんが……」
「あー、そうだよな。ごめん。」
「いやいやいいんじゃよ、下手なことして失敗した経験はきっと我の方が上じゃ!わっはは!!」
エルザードは随分と自慢げに語るけど、いったい今まで何をやらかしてきたんだかっと思う俺。ともかく、まだ時間的に余裕があるのでもう一依頼くらい、っと俺が思った時だった。
「大変です!森に大型の魔物が出たようで!!」
扉を壊すような勢いでギルドの職員が大声で叫ぶ。その場にいた冒険者たちはザワザワとし始める。かくいう俺たちも同じだ。
「なんじゃ?何事じゃ、」
「なにか大変なことが起こっているのかもな。」
薬草採取くらいしか用がない俺たちからしたら大型の魔物なんて夢のまた夢というか全く世界が違う。でもあれだけ慌てているならきっとここらへんの冒険者全員に関係あることのはずだ。
「───プライドツリー。でしたらすぐにエルフの討伐隊に連絡を、今森に出ているのは?」
「ミィーナさんです!」
(ミィーナ、って。)
聞いたことある名前に反応する、聞き間違いじゃないのなら俺たちをこの街まで案内してくれた人のはずだ。
今の状況、詳しくはないけどギルドで討伐隊が組まれるほどのモンスターということ、もしかしたらミィーナは今危険な状況なのかもしれない。
「ゼル、どうする?」
話を聞いていた俺にエルザードが問う。俺の答えは決まっている。
「……もちろん助けに行こう。」
「良いのか、我らの関係はあの時終わっておるぞ?」
エルザードの言葉はもっともだ。
それにすごく親しいわけでもない俺たちがミィーナを助けに行くのはあながち変かもしれない、(エルザードとの仲は悪かったし。)もし俺たちが行くことによって状況がもっと悪化することだってあり得なくない、だが
「わかっているけど、人助けっていうのはそうじゃないはずだ!」
「なるほど、そうじゃの!では行くか!!」
エルザードと共にギルドを飛び出して職員の人たちが言っていた森の方へ向かう、ここから一番近い森がどこかはわかっている。あとはその方角に向かって走っていくだけ。
「………。」
森に入った俺は何か変な感じがした。前にも依頼で森に入ったことはある、だからこそ森がどことなく
「ザワザワしているの。」
「あぁ。」
くるもの拒まずの雰囲気な森が今では追い出せと命令されているように生きている感じだ。これが例の大型モンスターの影響だっていうのか。
「急ごう。」
「うん!我についてこい、この先に一際でかい反応がある!」
「ピーピィー!」
走るエルザードについて行く、進めば進むほど森の色合いはどこか不気味に感じる。そして体全身が逆立つ、きっとこの先にいるのが。
[ドォン]
大きな木の根が砂埃を立てながら木を薙ぎ倒す光景。茂みや木々を乗り越えて俺達はその大型モンスターを視認する。
(あれが、プライドツリー、大きいッ)
木々が顔のない人型を模った見た目、体から伸びる何本もの触手のような根はあらゆる障害を排除し、目の前の敵を打ち、刺し殺す武器となっている。そして大型モンスターという部類の通りとにかく大きさが桁違いに大きい。
大樹木を目の前にしているようだ。
「ゼル!」
エルザードが言葉をかけると、圧倒されていた俺はすぐに自分に降りかかる根に気づいた。回避しようとするもその根は長く俺の体をすでに捉えていた。
「とぉりゃ!!」
エルザードの竜爪が根を引き裂き追っ払う。エルザードの行動が遅れていたのなら俺は体の骨を間違いなく折れられていただろう。考えもしたくない、
「下がっておれ!」
「悪い!」
エルフルを連れて一つ奥へ下がって、プライドツリーの全体を見る。俺が今できることは限られている、けど状況整理くらいはできるはずだ。
「っはぁ!!」
エルザードが木の根を回避すると向こう側で戦っている人影が見える。あれは
「間違いない、ミィーナだ!」
「ピー!!」
初めて見る彼女が戦っている姿、そこら中にある木を足場にしながらその手に持っている弓で攻撃を続けている。だが全く効果はない、
(エルザードを斬った時に使ったナイフは、、何か使えないのか?)
「ゼル!」
「!エルザード、本体に攻撃できるか!!」
「任せるのじゃ!」
エルザードは攻撃を掻い潜り、鋭い爪で本体の樹皮を掻っ切る。
「!」
エルザードはすぐに身を翻して大きく後退する。それと同時にエルザードが傷つけた表面から緑色の液体が吹き出す。液体はエルザードに飛び散ることなく地面に落ちるが地面は溶け出し、小さな穴を作った。
「酸じゃ!」
「…そうか、だからミィーナは!」
「!?貴方達どうしてここに!!」
エルザードの姿を確認した後俺とエルフルを見つけた。そして戦闘中だってのに構わず声をかける。
「助けに来たんだ!」
「!いらない、さっさとここから離れてッ!」
「そう言っていられるか!」
木の根の攻撃が激しくなり、攻撃がミィーナの腕に当たり、彼女を地面に叩きつける。
「っぁ!!」
「ミィーナ!?」
「っ!!早く───ッ!」
早く行けという意味なんだろう。でも、そんなこと絶対にしない。ここで引けば確実にミィーナはこの相手に負ける、それにそもそも俺がそんなことできない!
(……どうする、相手は物理じゃダメだ。何か別の手段じゃないと!)
「ピィー!!」
「エルフル…?」
エルフルは自らの体からネバネバとした何かの液体を出す。それを少し触ってみた時水に似ているが決して手に残る感触を覚えた。それは油だった。
「……そうか──よし!!」
一つの作戦が頭の中で閃くと、エルフルを抱えてミィーナの代わりに全線に出る。
「ゼル!お主!!」
「エルザード!火を吐けるか!?」
「──!当たり前じゃ!!」
エルザードは俺のとにかく従い口から炎を吐く。プライドツリーエルザードの息吹に焼かれ、悲鳴のような声を発する。間違いなく聞いているようだ、だが。
「うぉぉっと!!」
突如理性なく周囲一体を巻き込むような根ムチ攻撃を展開、俺は走りながら体を地縮めたりし、それらを回避する。プライドツリーはエルザードの火を受け、その全身が焼けているのにもかかわらずなお健在であった。
「効いてないぞ!!」
「いや、火力が足りないだけだ!!エルフル、油をアイツに吐けるか?今度はエルザードと一緒だ!!」
「ピィ!!!」
「なるほど!エルフル、追わせておくれぞ!!」
エルザードが口から火を吐くと同時に、エルフルが油をプライドツリーに噴射する。水鉄砲を飛ばすように放たれるエルフルの油に火が引火する。
[ボォォォォッ!!!]
プライドツリーは大炎上を起こし、攻撃どころではなくなった。先ほどより強くそして消えにくい火はプライドツリーの内側まで焦がし、断末魔を最後にプライドツリーは動かなくなった。
「やった、んだな!」
「うん!流石に撃沈しておる、間違いなく倒したんじゃ!!」
「ピィ!!ピィ!!!」
「エルフル、我とゼルの大勝利じゃ!!」
燃えているプライドツリーを側に俺たちは初めてもぎ取った勝利に歓喜した。だけど忘れてはならない、ミィーナは確か戦いの最中負傷したんだ、そのことを思い出すと喜ぶ気持ちを抑えてミィーナの元に駆ける。
「ミィーナ!大丈夫か?」
「……貴方、たち。倒したの?」
「うん、我らが倒したぞ!みよ、動かなくなったし、完全に燃え尽きておる!言葉通りにな!!」
「………。」
ミィーナは目の前の光景が信じられないようだった。実際戦って勝った俺ですらこれを自分たちでやったのかと疑いたくなる。でも、今は
「肩を貸すよ、街まで。」
「。」
ミィーナは静かに俺に肩を貸し、俺たちは彼女を連れて森を出て街まで来た。
「ここでいい、一人で歩けるから。」
「わかった。」
「………。」
ミィーナは打たれた部分に手を当てながらゆっくりと歩き出した俺たちと帰る道が違う方向だ。
「………やっぱり、我はあやつ好かんの。」
「こら、そんなこと言うな。助けた相手だろ?」
「むぅ。にしても、ブレスを吐いたせいでお腹がペコペコじゃ。」
「あれってそんなに疲れることなのか?」
「当たり前じゃろ。お主はいいよなぁブレスを吐かないから。」
「吐けるか!!」
そんな会話をしながら俺たちも宿屋の方向に向かって歩いて行った。エルザードには美味しい夕食を今夜は振舞ってやらないといけなさそうだ。




