116話「人間なら。」
「………のぉ、」
「……なんだエルザード。」
「……我さ、もしかしてと思ったんだけどじゃさ、」
「うん。俺も思った。」
『人(人間)いなくない?』
俺たちは互いに見合わせて全く同じタイミングで同じ言葉を口にした。
「ピィ。」
「え、あれなんじゃ?」
エルザードはそこら辺にいる獣耳に獣の尻尾が生えた人を指差す。
「獣人、じゃないか?」
「あれは?」
エルザードは小さな体で身の丈にあってない材木を担ぐやや低身長の人を指差す。
「ドワーフ、じゃないか?」
「あれは?」
エルザードは高身長で美しい見た目をした尖った耳が特徴的な人を指差す。
「エルフ、じゃないか?」
「なんで我より知ってるの?」
「ごめんわからない。」
もしかして記憶喪失前では当たり前だったから覚えているとか?いや今はそんなこと言っている場合というかそんなんじゃない。なぜかといえば、、。
左を見ても人(人間)の姿なし、右を見ても人(人間)の姿がない。正しくは人はいるのだがまともな人間の姿が見られない。まるで全滅してしまったかのように。
「ど、どうなってるんだ。」
「うむむ、我なんか感じるんじゃ。」
「なにを?」
「人間って、ダメな存在かの?」
「うん。なんというかここまで人(人間)がいないとそう思うよな、うん俺も思う。」
同調圧力っていうんだっけ、それがなんかあーやこーやして人間なんているわけないだろ!って言っている感じがする。
「ていうか、エルザード!どうなってんだよ、人間っているんじゃないのか?!」
「い、いるはずじゃよ!じゃなきゃお主は一体どこから来たんじゃ!!」
「確かに!!」
「ほらの!」
「何がほらの、だよ!いるにいるとしてもこんなの絶滅危惧種じゃないか!!いや、絶滅してんじゃないのか?!」
「ええい、どうなっておるんじゃ!前見た時には確かに居ったぞ!」
「それ何年前だよ、」
「数千年前じゃ!」
「なんだ、その当てにならない情報!人間の寿命は長くても100年だぞ!!」
「はぁ?人間は50年そこらで死ぬじゃろうて!」
「え、うそだ!俺が知っている人間は50年以上余裕で生きるぞ!」
「どこの情報じゃ、どこの!?」
「……………さぁ?」
「えええい!とにかくじゃ、情報が不足しておる。情報収集じゃ!」
ということで、俺とエルザード(エルフル)は自分の種族がバレないように情報収集することにした。ちなみに
「というか、我隠す必要ある?」
「街中にドラゴンがほっつき歩いてたらどう思うよ?」
「うーーーむ。なんかダメな気がする。」
「そういうことだ。お前が話のわかる竜で助かるよ。」
という理由でなんとか納得させられた。人間ほどじゃないと思うけど、ドラゴンも大概だなっと思いつつ俺達は近くにいる人たちの話を盗み聞きしつつ、情報を集めることにした。
「人間のことについて知りたい?………あなた物好きね、田舎から来たの?」
「そんなところだ。」
「そう、ならアドバイス。獣人族の前で人間の話なんてしない方がいいわ。私は生憎よく知らないから、近くに図書館があるからそこならわかるかもね。」
「…分かった肝に銘じておく。ありがとう。」
近くの獣人族に尋ねてみるとこんな回答が来たので図書館を目指していってみることにする。エルフとかドワーフとかに聞くのも手だったが、なんだか不味そうな気がしたのでやめておく。
「なんかのぉ、言っちゃいけない言葉みたいな感じじゃったのぉ。」
「そうだな、いや多分そうなんだろ。とりあえずさ、図書館に行こう。」
そこから人ずてに図書館の場所を把握して、中に入って人間に関する本を見つけることにした。ちなみに図書館は公共の施設だからか、入場料なんかは取られなかった。お金がない俺たちからしたら大助かりだ。
「人間に関する本ね。ハイハイ。」
だが字が読めない俺たちは人に探してもらうしかないのだ。ちなみに聞いたのは図書館の人、文字が読めないのはそこまで珍しくないおかげで怪しまれずに人間のことをうまくいけば知れるかもしれない。
「はい、どおぞ。」
「どうも。」
「それにしても物好きねぇ、図書館なんてところに来て、わざわざ人間のことについて知りたいなんて?もしかして、、、」
「──。」
「研究者さん?」
「ええ、っとそんなところです。」
「ん、んじゃ……」
「そぉう。」
一瞬ドキッとすることもあったけど、なんとか本を手に入れて俺たちは身近のベンチに座って、内容を閲覧することにした。さすがは図書館の人、文字が読めない人のために絵本式のを選んでくれた。
「これなら、読めるの………よし、エルフル今なら少し出てきても良いぞ。」
「ピィー!」
「さて、どんなことが描かれているのか。」
ページをめくると、一つの大きな島の絵があった。その島には耳が生えた人、耳が長い人、背が低い人、そして人間などの様々な人たちが描かれていた。
「これは、人間もおるの。」
「あぁ、しかも数が少ないみたいな感じはなさそうだ。(つまり単純に少ないわけじゃない。)」
そしてページをめくると、次は。
「うぉ、」
「なんと、」
「ピ。」
武器を手に持った人間が、獣人、そしてエルフやドワーフと殺し合いをしている光景だった。いくら子供向けだからと言っても容赦のない描写、なんなら絵本特有のシンプルさとダイレクトさが一周回って恐怖を増幅させる。
「……」
次のページをめくると、一つの大きな島はひび割れて二つに割れた光景が映し出されていた。
片方には人間、片方には獣人、エルフ、ドワーフ。
「人間を、追い出したと言うべきか?」
「……。」
次のページをめくる。
文字がいっぱい書かれているが、描かれた一つの絵から獣人族が人間に対する怒り、いや負の感情を感じられる。
そして最後のページをめくると。小さく何かが書かれている。次のページはなく裏表紙へと移っていた。
「………ゼル、」
「……文字が、文字がなんて書かれているかわからなかったけど。分かったよ、人間がいない理由。」
「ピィ、、、」
エルザードとエルフルはバツが悪そうか顔をしている。そりゃそうだろ、だってこの本で描かれていることを訳せば当然のことだ。
『人間が他種族を迫害して、そして大陸が別れた。別れた大陸の片側には人間、もう片側には他種族が残った。』
多分こういうことなんだろう。だからこの街、いやここには人間がいない。少なくともこの大陸には、そして人間は彼ら彼女らからすれば敵なんだ、どれだけ昔だとかはよくわからない。でもそんなのは関係ない。
「……エルザード、俺たち人間は悪いことをしたのかもしれない。」
「うん。」
「でも、俺が記憶を求めることは間違っていると思うか?」
「それは。ある意味間違っているかもしれない。」
「……俺は自分がどういう人間だったのか知らない、この絵本にある通り最低な人間だったのか、それとも比較的マシな人間だったのか。でも、俺は思うんだ。」
「なにを?」
「生きていることは、決して悪いことじゃない。って、」
「。」
「確かに、死ぬほど悪いことをしたのかもしれない、でもだから死ねと言われて死ぬなんて、俺はごめんだ。罪を負ったのなら償えばいい、俺は誰かからそう言われた気がする。」
「……そうか、確かに。そうじゃな、お主のいう通りじゃ!お主は生きてて良いと我は思う!!」
「ピィ!!」
「なら、記憶を取り戻すのは片手間にしよう。」
「うん!、、となると何を本命にするんじゃ?」
「……困っている人を助けようと思う!それが償いになるかわからないけど、」
「困っている人を助けるか、うん!良いな!!まさに聖人の旅じゃ!」
「ピィピィーー!」
「そんな持ち上げられた存在じゃないけどな!」
でも、そうだな。もし、ここに描かれている人と正反対のことをして、誰かを攻撃するとかじゃなくて誰かを守れる存在になれるなら、それはいいことだし俺的には本望だと思う。
なんか、自分のやりたいことがハッキリした感じだ。誰かを助けるなんて、絶対いいことだし!




