112話「予期せぬ出会い」
「はぁ、今日は疲れたのぉ。」
「一仕事終えた感出してるけど、ずっと雪で遊んでただけだけどな!」
快晴の青空も今では暗黒と吹雪で満ち溢れた世界に移り変わってる。近くの洞穴を偶然見つけて入っていなければ今頃大変なことになっていただろう。
まさか、テンション上がっていたとはいえ、山での晴れ時間を全て遊びに使ってしまうとは。
我ながら、少し無駄な時間の使い方をしたかもしれない。
「明日も晴れていたら遊ぼうなエルフル!」
「ピー!」
「いや流石に明日こそ下山できるようにしないとな……!」
「なんじゃゼル、雪遊びは楽しくなかったのか?」
「いやすごい楽しかったよ。でもさ、流石に山の天気はよく荒れるっていうし、ここじゃまともな食料を見つけるのは不可能。定住するほどの場所ではないだろ、」
「むむ確かに。我やエルフルはともかくこのままではゼルが飢え死にしてしまうか。」
「そういうこと、だから一刻も早く山を降りないと。」
「手立てはあるのか?」
「ない。もう闇雲に下山するくらいしか方法はない、」
「ふむ、、そうだ!我が竜になってお主達を背に乗せたらどうだ!!」
「あ、いいなそれ!」
明日の予定とかこれからのこととかをエルザード達と楽しく談笑も交えて語っていると、急にエルザードは笑っていた口を止め、洞穴の入り口あたりに目を向ける。
「………。」
「どうした?」
「なにかが、こっちにきておる。」
「わかるのか?」
「うん。ちょっと待っておれ、」
「ぁ、あぁ。」
いつにも増して真剣な表情のエルザードは立ち上がって洞穴の入り口に向かって歩いていく。俺とエルフルはそのことが少し気がかりになって、エルフルを小脇に抱えながらゆっくりとエルザードの跡を追った。
洞穴で作った焚き火がパチパチと燃える中、向こう側から何やら声が聞こえてくる。
「この!」
「っぐぅっ!!」
「……!」
エルフルと目を合わせた俺たちはアイコンタクトで「行こう!」と言い、すぐさま戦いの音が聞こえるエルザードの元へと走り出した。
そこには、俺と大差ない年齢の一人の女性が鋭く黒いナイフを片手に半竜形態のエルザードと殺し合いをしている場面だった。
エルザードの竜の腕が彼女のナイフによって傷つけられ、出血する。
「くぁっ!!」
「効いてる!!今!」
「───待って!!!」
少女がナイフでエルザードをさらに切り付けようとした時、俺は危険を承知で岩陰から飛び出す。その姿を見た少女は信じられない顔をして一瞬静止する。
「ッ!ウリャあああ!!」
「っぁ!?!」
直後エルザードの頭突きが彼女の腹に炸裂、吹き飛ばされて岩肌に叩きつけられた彼女は痛みからすぐに動けない。そこをすかさず、エルザードが取り押さえた。
「っ──よぉーーーし!力勝負なら負けんぞ!!」
「っ!なんで、っ!離して!!」
「離すものか!邂逅一番に攻撃してきた奴を!」
「っっぐ。」
少女はエルザードに力勝負で勝てないと悟ると、一気におとなしくなる。しかしその目は反撃の機会を窺っているように見える。
「エルザード、大丈夫か?」
「なぁに、たいしたことはない。この姿で戦い慣れてなかっただけのことじゃ。」
そういうとエルザードの腕の傷は一瞬にして再生した。エルザードが戦った姿を見たことはなかったが、竜は強さとかじゃなく再生とかも一流のように見える。安心しきれないけど、ひとまず目立った外傷がないことに俺はため息をつく。
「そんなことよりもゼル、コソ泥じゃぞ!」
「コソ泥?」
「違うっ!私は!!」
エルザード、続けて俺の言葉に押さえつけられている少女は抵抗を見せる。
「無駄じゃ、わかっておるじゃろう。ここから逆転するのには我の拘束を解かないといけない!お主は我かこやつがいいというまで何もできんのじゃ!」
「……っ。」
少女は悔しそうな顔をする。まるで自分の人生はここまでかと言っているような顔だ。
「…それでゼル、どうする?」
「どうするか。」
記憶喪失の俺に、こんな専門的な対応を任されたとしても、というのが本音だ。だがわかる。エルザードの拘束を解けば彼女は俺たちにまた襲いかかってくる。彼女の目からはそんな確信じみたものが見える。
だから、まず拘束を解くのは後回しだ。
「ひとまず話をしよう。どうしてこうなったかくらいは教えてもらわないと。」
「正気か?」
「正気だ。」
「ぅぅ、そう真っ向から切り返されると何も言えんの。仕方ない業腹じゃが───」
「──私は何も喋らない!」
エルザードが取り押さえている少女に何か聞こうとした時、真っ先に反応して会話拒否の意を示す少女。エルザードは目を細めながら俺に訴えかける「もう、無理そうなんじゃが。」っと。
(じゃあ俺が話すよ。)
と俺が返すと。「ぇぇ、」見たな顔をされる。俺はゆっくりと取り押さえられている少女に近づき話始める。
「俺はゼル。コイツはエルフル。その、君の上に乗っているのがエルザード。俺たちはついさっきまでこの洞穴で休息を取っていたんだ。エルザード的には君から襲ってきたらしいけど、俺は実際に見ていないからわからない。でも俺たちは何か行き違いがあるんじゃないかって、俺は思う。だから話す気がないなら話さなくてもいい。ただ俺は君と戦いたいわけじゃない、だから身の潔白を示すためにもどうか話してくれないか?」
「……………。」
「──ゼル、自己紹介からの我に対する信用のなさを示してどうするのじゃ!」
「いや自己紹介は大事でしょ。こっちが誠意を示さないと相手も話してくれない。俺から差し出せる情報はほとんどないけど、せめて名前くらいは言っておかないと。。」
「…………随分と、礼儀正しいのね。」
俺がそういうと少女は変わらない目つきで答える。
「礼儀正しいか、どうかはわからないけど。でもやっぱりさっき言った通り必要だと思ったから俺は言ってるだけで。」
「………。」
少し話せたけれど少女はいまだにこっちを信用していないようだった。取り押さえているエルザードはジーッとこちらを見ている。「早くしてくれないかのぉ?」とでも言っているようだ。
「……貴方達には話せない。」
「、、そうか。」
彼女の一言によって交渉は決裂した。多分ここから話し合っても絶対に進展しない。
「ふむ、ならどうする?我は人の肉なぞ食う趣味はないからそこらに転がしておいて凍え死なせるか?
「サラッと物騒なこと言うな。」
「ならエルフルに食わせるか?あやつなら人丸ごと食わるほどの力があると思うぞ。」
「ピー!!」
「ッ。」
少女の顔が険しくなる。死を覚悟する一歩手前のようだ。エルザードの言うように単なる敵であるのなら、倒したり殺したりすることは正しいのかもしれない。ただ俺にはどこかこの少女がそんなふうには見えなかった。だから、
「エルザード、縄あったよな?」
「うん、まさかお主──!」
「縛って近くに置いておく。」
「!」
「危険じゃ馬鹿者!」
「百も承知だ。拘束を解いてもこっちに攻撃してくる。かといって拘束して外に放っておいて殺すのも違う。なら拘束して目から離さないようにしていればそれでいいと俺は思う。」
「ひゃくもしょうち?はよくわからんが、、ぅぅぅむむむ、わかった。お主についていくと決めた身じゃ、方針には従うぞ!ほれ、縄を持ってくるのじゃ、我につけた傷は浅いが少なくとも抜け出せるほど緩くはしてやらんからな!」
「………。」
こうして俺たちは予期せぬ侵入者を捕縛して、1日を終えた。




