11話「移り無くなった日々」
あの、城が襲撃にあった事件から1ヶ月。俺達勇者は訓練をひたすらに積んでいた。今まで以上に、よりもっと強くなるために。そして───
「はぁ、はぁ………はぁ。っ」
「天馬、いつまでやってんのよ?」
「えっ?」
「休憩!休憩時間よ!」
「ぁ、そうか。」
夏の手に持っている時計を見ると三十分以上オーバーして剣の素振りを続けていたことがわかる。俺は額についた汗を拭って、体の力を抜いて日陰へと向かった。
「アンタ、大丈夫?」
「なにが?」
「このところ変にぼーっとしてるじゃない。前まで訓練に根を上げてうるさかったのに。」
「そうか?それに根を上げてたのはお互い様だろ。」
「私は脳筋派じゃないのよ。」
夏は軽く俺の頭に杖をコツンと当ててそう言った。
「来る日も来る日も訓練、訓練ってバカじゃないんだから、程々にしなさいよ。アンタが倒れたら色々後が大変なんだから。」
「そうだな。」
俺は改めてほぼ無人に近い訓練場を見る。魔族が襲撃してくる前まではこの広い場所が埋まってしまいそうなくらい多くの兵士たちがいて、兵士長と一緒にハードな訓練を毎日のようにこなしていたのに、今じゃその面影なんかもない。
みんな、死んだり、傷を負って辞めたり。ここの1ヶ月は俺も迷ってばっかりだ。
「本当にわかってんの?それと、忘れないうちに言っておくわ。王様が午後来いって言ってたわよ。訓練ばっかりに頭使わないようにね。」
「あぁわかってる。」
夏は俺をベンチへと移動させ、そのままどこかに行った多分個人訓練だろうな、人のこと何にも言えないくせに。
(靁……………。)
あの日から俺の頭はアイツのことばかりだ。アイツはあの日を境にどこかへ消えてしまった。城内では失踪した愚かな勇者みたいな言われ方して、みんなからも心配の声がある中で俺は知っている。
あの襲撃の夜、アイツは勇者の力を覚醒させ訓練も積んでないのに一方的にあの魔族のリーダーを八つ裂きにして、そして殺した。
最後にアイツの目を見た時、信じられなかった俺の知っている靁があんな目するわけないと思ってたから。
(何も感じない、そんな目。)
そして魔族に同情した俺を蔑むような目、お前は何もできないって言われているような感じ。
「─────っ。」
実際にそうだ、俺はあの時魔族のリーダーに完全に遊ばれているようだった。何度切りかかっても軽くいなして、こっちの無力さを伝えてくる感じ、思い出すと悔しくて仕方がない。
(それにあの魔族が言っていた。)
【最初に仕掛けてきたのは──貴様達だ!】
あの言葉が妙に引っかかる。戦争は、"魔族が先に仕掛けてきた"んじゃなかったのか?でもあの目、嘘をついているように見えなかったし、靁は、アイツは、、
「─────あぁぁもう、わかんないことだらけだっ!!」
こういう時靁がすぐ近くにいたなら俺にもわかりやすく説明とか考えをまとめてくれたかもしれないって思う。でもアイツは今隣にはいない。いつもいるアイツがどこかに行った、あり得ないような現実が目の前にあることを俺はまだ受け入れきれずにいた。
そしてそんな心がまとまらないうちに、俺は時間通りに王様の元へと集結した。
「勇者達よ!此度集まってもらったのは其方達に頼があるからだ。」
「頼みーぃ、ですか?」
敬語を忘れようとしたところに隣の夏の肘が飛んでくる。俺は慌てて軌道調整しながら答えた。
「そうだ。我が国の南部の辺境の地メイビェの領主スウェント・フォン・プレントンから救難の知らせを受けた。今すぐにでも兵を向かわせて解決に当たりたいところだが、見てわかる通り城の復旧は万全ではない。そこで勇者達よ、そなたらに解決を任せたいと考えている。」
「………わかりました。引き受けます!」
みんなを見渡してアイコンタクトした後に俺はそう答えた。
「うむ。では、そのように返しておく。明後日の早朝に馬車を手配しておく、それまで準備を怠らず過ごすだぞ、勇者達よ。」
王様の話は以上だった。そしていつも通り過ごして明後日になり俺たちは手配された馬車に乗り込み、メイビェへと向かった。
馬車から見える風景は城から城下町へ、そして草原へと移り変わる。1ヶ月過ごした城から初めて出た俺の感想は。
(靁…………お前は、今どこで何をしてるんだ?)
友人を心配する心だった。




