105話「次へ」
「さて、どうするか。」
「どうするかとは?」
「ずっとここにいるわけにもいかないなと思って。」
「………そうなのか?」
「ん?あぁ。」
エルザードは急にシュンとする。まるで悲しいことを告げられた時の犬の顔に似ている。。俺はそんな犬の顔を見たことがあるんだろう、じゃなきゃこんな表現見つからないわけだし。
「もう少しここにいてもいいんじゃないのか?」
「まぁそうだけど、俺は人間だしお腹も空くし、それに何よりさ自分のことを知りたい。記憶は失っていいものじゃないだろうから。」
「。そうじゃな、確かに。じゃが、、、もしお主のその記憶が思い出したくもない辛いものだったとしたらどうじゃ?」
「……というと?」
「……うーん、だから、。お主はここにきた時、本当にボロボロの姿じゃった。普通の人間なら我が知っている人間なら余程のことがないとああはならない。だからお主はああなってしまうような人生を歩んできたということになる。」
「……幸福に生きていたなら、ああはならないほどに?」
「そうじゃ。じゃからか、記憶を取り戻しても、ただただ辛いだけかもしれん。ここにいる方がいいじゃろう!だって、もしそれが辛いことならお主は苦しまなくても良い。」
「………。」
エルザードの言っている言葉は理解している。俺はその当時に居合わせていなかったというか意識がなかったからわからなかったが、こんな竜ですら心配するレベルだったんだろう。なら、たしかに記憶を取り戻さないのはいいことかも知れない。ただ、
(やっぱり、知りたい。)
「食料のことなら問題ないぞ!ちょっと先に行けば美味しくはないが食える生物はいっぱいおる!じゃからの、ここにずっといても問題ないのじゃ!」
「……ここにずっとか。」
「そ、そーじゃ。」
エルザードの顔からは迷いが見える。それはずっとここにいてずっといてほしいという願いと、俺の意見を尊重したいという願い、その二つが声色から想像できる。
エルザードは理由があってここにいると言った。こんな大それた竜がこんな寂しいところにいる理由、もしかしたら外が怖いからなのかも知れない。何でなのかは多分俺にも本人にもわからないだから、ここから出ずに、ここから動かずに何十、何百、何千年とここにいたんだろう。
「エルザード、ありがとう。」
「う?うん。」
「でも、俺は行くよ。ここから出る。」
「!、だ、ダメじゃよ。だって──言ったじゃろう。お主の元の記憶はもしかしたら辛いことかも知れない。あんな酷い姿、きっと辛いことばっかりじゃったんじゃって!」
「あぁ、でももしかしたらそうじゃないのかも知れない。」
「なに?」
「確かにエルザードの言うように俺は苦しんでここにきたのかも知れない。でも、それでもさ多分俺思うんだ自分で決めてそうなったのならたとえ苦しくても後悔はしないって、」
「後悔?」
「そう、全部の人がそうだなんて言わないんだけどさ、俺は人間は、人はいかに後悔しないで生きるかが全てだと思ってるんだ。」
「……たとえ、苦しんで、楽しいことばかりじゃなくて、毎日不安に駆られるような人生であってもか?」
「うん。俺はそれでも後悔しなかったのならそれはいい人生だったと思う。だから、今はここを出て俺は──自分の記憶を探してみたい、だってここで出なかったら後悔しそうだから。」
「後悔、、か。お主は。」
「───エルザード、俺と一緒に行かないか?」
「な、、わ、我?」
「そう。エルザードは何か訳があってここに止まっているって言ってたけど、それももう忘れたんだろ?ならさ、忘れるほど時間が経ったなら、きっと、止まらなきゃ行けなかった理由の問題ももうなくなってるかも知れない。外は多分、全然違っているのかも知れない。」
「それは、そうかもしれんが。」
「それに、俺記憶喪失で外の世界とかこの洞窟内外の知識も乏しいから、できるなら一緒に来てくれると嬉しいんだ。」
「……それは、まぁそうかもしれんが。我は、、」
「もちろん強制なんかしないよ。ただ、一人の旅は多分寂しいからさ、お前のような優しいやつがいてくれたら、きっと楽しいんだなって思うから。」
「……!」
「………エルザード、一緒に行こう。一緒に新しい外の世界を見てみよう。なんせ、俺も初めてだからさ!」
「────。うん…!うん!!わかった、我もお主のために、いや自分のために外に出てみる!我はもっとお主と話していたい!じゃからか、お主と一緒に外に出るぞ、ゼル!!」




