10話「怨讐が続く」
リーダー格の魔族を倒したことによって、城を攻めていた魔族達は統率を失い、散り散り逃げ始めた。その場で戦い続ける個体もいたが、そいつは俺が1匹残らず殺した。
もう城には戦いの音が聞こえない。ここはある意味で安全になった、その犠牲はとても計り知れない。戦いが終わったと自覚した時俺は強烈な虚無感に苛まれた、
(戦いが終わったことはいいことだ、)
なのにまだ、まだっとアイツらを殺したくてたまらない。こんなことで復讐が果たせたとは何にも思っていなかった。ただ、
(………疲れた。)
精神はいまだに殺戮を求めていても体は色んな意味で限界を迎えていた。いくら勇者としての能力が覚醒したとしても背後から斬られた傷が完治しているわけじゃない、多少塞がってはいるが流した血が簡単には戻らないことを知っている。そして戦いの時は感じなかったえげつない疲労感がどっと押し寄せる。
そのせいでフラフラとした足取りでゆっくりと俺は歩き始めた。
どこか行く場所があるわけでもない。天馬のところに行くわけでもない。
(でも。)
気がつけば俺はいつのまにか、あの場所へと戻ってきていた。俺が目覚めた場所、そして
(あの娘が……)
まだ生きているなんて思わない、ただわからないけどしたいだけは弔わないという感情が俺にはあった。だから行った時には見向きもしなかったその"存在"に改めて一度目を向ける。
扉の前に打ち付けられた死体。身なりからあの娘のものだったとわかる。ただ体は八つ裂きにされており、一本の剣が彼女の裂かれた上半身を扉に釘止めさせていた。
(────っぅ……ッ!!)
襲ってくる吐き気を思わず血濡れた両手で押さえる。あの娘はどんなに痛かっただろうか、あの娘はどんなに苦しかっただろうか、あの娘は自分がこんな姿になってしまうことにどんな恐怖と絶望を抱いたのか。
最後に、どんな未練を抱いていたのか……。
でも、答えてくれる人は誰もいない。目の前にいるのは、俺が殺したやつと同じ"死体"だけだ。
その後落ち着いた俺は死体を適当な布に包んで火葬を始めている城門前へと運んだはずだ。記憶が曖昧すぎて自分はそこまで歩いたのか?何でそんなことしたのか?この行為には意味があるのか?という疑問が最後には絶え間なく続いた。思えばあの時俺の体を動かしていたのは、エレナと過ごした思い出だったのかもしれない。なぜなら、今の俺には
(アイツらを殺すという憎しみしかないから……)
「────すみません、あの!」
やることを終えた俺はその場を離れようと歩み出す。だが一人の若い男に止められた。
「…………。」
「。ユキシマ様ですよね、厨房長からの遺言をお伝えしにきました。」
遺言。ということは厨房長も、すでに死んでいるということか。あぁ、あのおっさんにはよくしてもらったがとても残念だ。今の俺には怨讐しか残ってないせいか、とても悲しむわけでもなく、とても怒りたい気持ちにもならない。ただ結果を理解しただけの機械みたいだ。
そして彼は厨房長の遺言を伝えてくれた。それは自分はほぼ瀕死で長くないからエリナのことを頼むというものだった、そしてエリナの母親に二人であって欲しいというものだった。おそらく俺にエリナを託したかったのだと思うが。
「………………わかった。ただ、そのお願いは聞けそうにない。」
「────そう、ですか。」
相手の残念そうな反応を見て俺は再び歩み始めた。この城に止まる理由は完全になくなった、そしてこの地域にも。
俺はもっと別の場所に行かなくてはならない、戦いが終わって復興が始まるここじゃなくて、もっと魔族を多く殺せる場所に。
(そして殺してやる。)
2度とあんなことを起こさないために、2度とこんなことを起こさないために。
そのために俺は魔族を殺し尽くすために歩みを始めた、これからずっとずっとずっと戦い続けることになっても、肉体が限界を迎えて折れて、曲がって、砕けても、そんなの関係ない俺は戦い続ける。
根絶やしにして。この残酷な世界で俺は生きてやる。




