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9.ギャル美と女騎士

 騎士少女の赤い瞳が丸くなり、桜色の唇から悲鳴が上がった。


「あああああああああああああッ! 国宝級の聖騎士剣がああああッ! 不滅のルーンセイバーがああああああああッ!!」


 不滅が消滅してしまった。なんだろうか。重要指定文化財を壊してしまったような罪悪感だ。


 周囲の騎士団たちがざわざわしだす。


 おいやべぇよ……ルーンセイバーは近衛騎士団長の証だろ……国王様に知れたら……というかあの黒髪メガネ何者だ……。


 と、騒然だ。私が悪いみたいな世論が形成されつつあった。


 こっちだって死ぬか生きるかだったし、そもそも、そんなに大切な剣ならきちんと自宅で管理保管しておくべきである。


 何が起こったのか誰にもわからないまま――


「貴様! 絶対に許さん!」


 早とちりして斬りかかってきたのは、そっちでしょうに。


 あっ、剣の柄を捨てた!? それ、国宝の一部なんじゃ……。


 と、ツッコミを入れる間もなく、少女が吠える。


「死ねえええええええええええええええええ!」


 物騒すぎやしませんかね!? ちょっと!


 彼女は目に涙を溜めながら、私に殴りかかってきた。ただ、一方的にサンドバッグにされるわけにもいかない。


 かといって、今の力。間違い無くスキル「破壊」が不滅のルーンセイバー(国宝級)を消しさった。


 ああ、一歩間違えれば目の前の彼女を破壊してしまうかもしれない。女の子を壊す趣味は私には無い。


 ボクシングの見よう見まねで両腕を上げる。防御の上から金属製のガントレットでガスガスと殴られる。


 このまま殴り殺されるのも違うが……とりあえず、一旦距離を置こう。


 迫る彼女のパンチをかいくぐり、両腕で銀の装甲に包まれた胸を押した。


 勢いがついて、押すというか弾くような感じになる。


 ともかく、生身の部分にだけは触れないようにと考えた結果、一番押しやすかったのが、位置的にも面積的にも、騎士少女の胸部装甲だったのだ。


 瞬間――


「ん、あああああああああああああああああああああッ!!」


 女騎士は赤いポニーテールを暴れるように振り乱し、私の目の前で白銀の鎧の胸部装甲板がバラバラに砕け散る。


 だけで終わらず、彼女の上着もはだけて適度な膨らみの白い柔肌が、太陽の日差しの元あらわになるのだった。


 騎士たちの歓声とも悲鳴ともつかない声が響く。


 誤解だ、誤解なんです。本当に悪気は無いんです信じてくれぇぇぇぇ。



「あ、あの……ごめんなさい」

「くっ……殺せえええええ!! ひとおもいに殺せえええええ!!」


 言うんだ、女騎士の定番のやつ。


 胸を両手のひらで手ブラで押さえて騎士少女がその場にへたりこむ。

 泣いちゃった。

 生徒を泣かせたことはまだ、無かったのに。同じくらいの年頃の少女を私は泣かせてしまった。


 騎士団もお通夜ムードだ。


 団長の敗北。得体の知れない黒めがねの男こと……私。


 誰か仇討ちにくるかと、こちらも身構えるのだが、団員たちは私が視線を向ければ半歩下がった。


 不滅のルーンセイバーを消し去り、団長を辱め、屈服させ、膝を付かせ、抵抗の意思を奪い、あの気高き団長に「ひとおもいに殺せ」と言わしめた化け物。


 きっと魔族に違いない。と、騎士団たちの腰が引ける。

 団長がかなわないなら、誰にも私を止めることはできない。


 そんな空気が広がった中――


「ちょ、なに? どいてっと。マエセンおまた~。なんかシュワシュワする葡萄ジュース冷えてたんでもらってきたし。これ微炭酸で美味しいやつ」


 銀のトレーに瓶とグラスを一つ載せて、ギャル美が騎士団連中の間からにゅっと姿を現した。


 その視線が私と、足下で胸をはだけさせて悔し泣きする騎士少女を行き来する。


「センセー……もしかして……やった?」

「待って! いや、本当に事情を説明させてください木柳さん!!」


 泣いていた騎士少女が立ち上がった。


「ゆ、ゆ、勇者殿!? あの、も、もしやこの不審者……いえ、殿方は!?」


 ギャル美は銀のトレーを近場にいた騎士の一人に押しつけた。


 颯爽と歩み寄って勇者の赤いマントを外すと、騎士少女をくるむ。


「アリぽよにはまだマエセン紹介してなかったね。つーかセンセーなにしたん?」

「え、ええと……」


 アリぽよと呼ばれた騎士少女がハッとした顔になる。

 恐る恐る私に向き直り。


「こ、こ、これは失礼した! まさか、本当に勇者殿の……」

「だから最初からそうだと言っていたでしょうに」

「申し訳ない……うう、死にたい……誰か殺してくれ……」

「あ、あの、そこまで思い詰めることはないと思いますが」


 落ち込む騎士少女の頭をギャル美がぽんぽんと優しく撫でる。


「お二人は知り合いなのですか?」

「あーね、前にアリぽよが騎士団長になる試練? 手伝ってあげてから、ちょいちょい絡むみたいな」


 騎士少女が「その節は勇者殿に大変お世話になり……うう、あう……せっかく! せっかく団長になれたのにうわあああああああああああああああああああんん!」と、泣き崩れる。


 本当にかわいそうなことをしてしまったのかもしれない。そっちが斬ってきたのが始まりなので、本心からは謝れないけれど。


 ええと、アリぽよ……は、きっとギャル美のつけたニックネームだろう。


「あの、お名前をうかがってもよろしいですか?」


 ツインテールを縦に揺らして騎士少女は気まずそうに言う。


「わ、私はアリアドネ。シルバーリーフ家が嫡子にして王国近衛騎士団長だああああああああああ!」

 

 アリアドネは涙目でドヤ顔である。感情ぐちゃぐちゃじゃないか。


 そんな彼女の勘違いによる攻撃のおかげで、私はなんとなくだが「破壊」のスキルの概要を掴めてしまった。


 たぶんこれ、左手で接触するタイプの奴である。


 ギャル美が私の左隣について、腕を搦めて密着してきた。


「で、コレがあーしの担任のマエセンね。よろ~」

「マエセンではなく前田でお願いします。アリアドネさん。あと、木柳さんは危ないので、左側から私に密着しないでください」

「え~なんで? 急にどしたんセンセー?」


 やるなと言われるとやりたくなるのか、ギャル美がさらに私にくっついてくる。


 ああ、まずい。いけない! いけませんって! 頼むから二の腕を胸の谷間で挟まないで!


 瞬間――


 私の左手がギャル美の制服のスカートに触れると、一瞬でビリビリっと破壊してしまった。


 エロ漫画みたいな服の破れ方である。


 ああ、どうやら「破壊」の全容が掴めてきたぞ。


 ピンクの薄布一枚になったギャル美が笑う。


「センセーのスキルってエッチじゃん」

「だ、だから違うんですって!」


 このあといっぱい(説明)した。

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