7.ギャル美と前田とスキル覚醒
青い瞳が敵意の眼差しを私に向けた。
「なに、見ているんです?」
「初対面なのに少々、私に対してトゲがありませんか?」
「質問に質問で返すなんて非常識が過ぎます。だいたい、先ほどから不自然に視線を上に向けていらっしゃいますね。わたくしの胸を見ないようにと……下心が透けていましてよ」
「こちらはがんばって配慮しているんです。重力に逆らうように」
「だ、誰の胸が垂れているとおっしゃいまして?」
「曲解ですよそれは!」
いけない。藪から蛇どころかヤマタノオロチがはみ出そうだ。
神官少女シルフィーナは不機嫌を隠さなかった。
「今日はせっかく勇者様がいらっしゃると、心待ちにしておりましたのに。従者のために、わたくしがスキル鑑定役を仰せつかりましたけれど……。だいたい、その年齢でスキル鑑定を受けていないだなんて。今まで何をしてきましたの? いい大人が?」
言葉が強い!? 水色の髪を揺らしてシルフィーナが一歩、詰め寄る。
「ええと、教師……ですが」
「あなたに人を教えられまして? 胸を張って断言できるのかしら? スキルを持ってさえいないのに」
スキルとはこの世界において、大人なら持っていて当然なものなのだろうか。
神官少女から見れば、私は聖堂で勇者と抱き合うスキルも持たない不審者……なのかもしれない。
「だからこそ、私はここに来たのです。これから木柳さんとともに、王命を遂げる旅に出ます。少しでも彼女の力になりたいんです。お願いします。スキル鑑定をしてください」
実るほど頭を垂れる稲穂かな。ここでシルフィーナとぶつかり合っていても前には進めない。
こちらから一礼する。今は耐えろ。罵詈雑言を浴びせられようと。郷に入れば郷に従えの精神だ。
「そ、そのようなうわべだけの態度に、騙されたりするものですか! 誰も居ないのをいいことに勇者様と熱い抱擁を交わし合うのは……不謹慎で下劣で破廉恥に他なりません!」
とりあえず謝っとけ精神の敗北である。あと、私がギャル美を抱擁していたことにすり替わっていた。
ギャル美が笑う。
「うぇーい、破廉恥教師おつ~」
「私は君に抱きつかれていた側じゃないですか!?」
「あーね、説ある。あーしから抱きついてたし」
と、神官少女の顔が青ざめた。
「え? あの……え? 勇者様から……でしたの?」
「そだよー」
「そマですの?」
「うんうん」
ああ、神官少女にも伝染ってる……ギャル語。
やっと理解したらしく、ショートボブの水色髪をぶわっとさせて、シルフィーナはその場でぴょんと跳び上がった。
「こ、ここ、これは失礼いたしました! わ、わわわ、わたくしてっきり勇者様が手込めにされているのかと」
どうやら誤解は解けたらしい。
シルフィーナは頭を下げる。FOO! ちょっと気分がいい。
「そんな、顔を上げてください」
「そうは参りませんわ。どうか、わたくしの過ちをお許しくださいまし」
神官少女は跪くと、私に土下座した。そこまでしろって言ってない! そこまでしろって言ってないから!
ギャル美がこちらをじっと見る。
「マエセンちょっとやり杉謙信」
「○○すぎるに謙信公を続けるのやめませんか木柳さん」
「川中島うぇーい」
歴史好きというより、知ってる単語をノリで出す。もはやギャル語でもなんでもないのである。
・
・
・
登壇したシルフィーナが光輝神を讃える文言を唱える。
説教台を挟んで立つ私と対峙した彼女は、言葉を続けた。
「光輝神の名の下に、我らに与えられん力に感謝し、神の恩寵を称えん。彼の者の目覚めし力が、世界に光をもたらすことを信じ、その力を正しく使い、多くの者に希望を与えることを誓う。秘められたる潜在能力よ、今、開花せよ」
青白い光りが私の身体から吹き上がった。
不思議な感覚だ。閉じなければそのまますべてを放出しきってしまいそうに思う。
本能的に溢れる力を身に留めるよう意識した。
シルフィーナが青い瞳を丸くする。
「あら、あらあらあら……ものすごい才能でしたのねマエセ……前田様。こんな反応は勇者様以来ですわ」
「そうなんですかシルフィーナさん? それで、私のスキルというのは?」
「前田様のスキルは破壊です」
「は、はい?」
「破壊です」
・
・
・
物騒なスキル名に困惑しながらも、スキル鑑定の儀式は無事(?)終了した。
聖堂を出ると入り口のところまで、神官少女が追ってくる。
「またいらしてくださいまし~! 勇者様~!」
「うぇーい」
振り返ってギャル美がギャルピースすると、シルフィーナもギャルピで返した。
なお、私への挨拶はこれといって無しである。
王都の中心街を並んで歩きながらギャル美に訊く。
「ところで木柳さん。シルフィーナさんとは仲良しなんですね?」
「二人で肝試し行って、ゾンビ全部パリピにしてテンションあげみざわしたらズッ友? みたいな」
これは私の推測だが、ギャル美は以前にシルフィーナの仕事……ゾンビ退治の手伝いをして、神官少女を心酔させるくらいの活躍をみせ、以来親交を深めているのかもしれない。
町を歩いていると、身なりの良い中心街の住民たちが、ギャル美にギャルピをしてくる。
彼女は一人一人に笑顔とピースで返した。
「ギャルピースも流行らせたんですか!?」
「あーね、なんか光輝教の祝福の印が偶然ギャルピだったんだって。ギャル最強か?」
それはこっちのセリフだ。
「ところで、どこに向かっているのでしょうか」
「いいところ♥」
「もう少し具体的に教えてもらえると助かるんですが」
・
・
・
王宮の中庭で全身鎧の騎士たちが見守る中――
私の放った一撃が目の前の女騎士に炸裂した。
瞬間――
「ん、あああああああああああああああああああああッ!!」
女騎士は赤いポニーテールを暴れるように振り乱し、私の目の前で白銀の鎧の胸部装甲板がバラバラに砕け散る。
だけで終わらず、彼女の上着もはだけて適度な膨らみの白い柔肌が、太陽の日差しの元あらわになるのだった。
騎士たちの歓声とも悲鳴ともつかない声が響く。
ち、違うんだ。そんなつもりじゃなかったのに……私のスキル「破壊」は、女騎士をはだけさせるための力じゃないんだ!