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6.ギャル美と上級神官戦士


 純白の大聖堂がそびえ立つ。中に入ると真っ直ぐな回廊があり、赤い敷物がまっすぐ伸びる。奥に祈りの祭壇と神官が立つ説教台があった。


 人の気配はない。


 まつられているのは、この世界の人間の神――光輝神イルミナディオス。

 その偉業を讃えるように、ステンドグラスが奥に飾られ陽光を受けてキラキラしていた。


 荘厳と静謐せいひつ。ひやりとした空気に触れるだけで、神聖な場所だと肌で感じた。


 グラ良ッ……と、実在する臨場感もあいまって、言葉も漏れない。


 ギャル美が三歩先を行く。振り返りながら両手で手招きして後ろ歩きだ。


「マエセンこっちこっち!」

「ちゃんと前を見て歩かないと転びますよ木柳さん」

「そこまで子供じゃんないって……うはッ!?」


 足をもつれさせてギャル美は豪快に尻餅をつく。

 ちらりと見えてしまった。柔肌にぴたりと吸い付いたピンクの薄布が。わざとか。わざとなのか!?


 見なかったことにしよう。


「大丈夫ですか?」


 金髪をふるふる左右に振って、彼女は両腕を万歳させた。


「あの、なにをしているんです?」

「立たせて。減るもんじゃないし。ほらほらは~や~く~!」


 子供か!?


 ギャル美がムッとした顔ですねたように口を尖らせる。


「つーか見たっしょ?」

「何をです?」

「パンツ」


 普段はどこか人を食ったような彼女が、ぽっと頬を赤らめる。


「……いいえ、全然」

「ほんとぅ? 神様の前で誓えるぅ?」


 このままでは追求されかねない。


 からではなく、目の前に困っている生徒がいるのである。

 救いを求める教え子に手を差し伸べてこそ、教育者だ。

 

「ほら、立ってください」


 右手を差し伸べるとギャル美は「両手っしょ?」と、空いている私の左手も掴んで立ち上がった。その勢いのままにばふっと抱きつく。


 彼女の豊満なものを押しつけられて、感触と密着感に目のやり場と身の置き場を同時に失った。


「あ、あの……木柳……さん?」

「はにゃ?」

「はにゃじゃありません。これはその……くっつきすぎではないでしょうか?」

「あーね、説あるコアトル」

「一説に収まりませんよ。事実ベースで裏打ちされた状態ですから」


 あごをあげて少女は薄い色の唇を開く。


「チューしよっか」

「はにゃ?」

「はにゃ使ってて、ウケる。もしかしてマエセン本気にした?」


 本当に何を考えているのかわからない。大人をからかうんじゃないよ! まったく。


「本気になんてするはずないでしょう」

「マ? うりうり! JKおっぱいをくらえ!」


 今度は胸を押しつけてぐりぐりしてくる。

 人目がないから良かったものの……いや、良くはないんだが。


 突き放すべきかもしれないが、この胸の弾力に……負けてはならない。

 かといって、半年間、見知らぬ土地で独り、もしかしたら心細い想いでいたかもしれないギャル美である。


 私をからかうことで、不安を解消しているのかもしれない。


 彼女の背中に腕を回し、抱きしめたくなる衝動を理性でガッチリ抑え込む。私は今、ぬいぐるみだ。されるがまま。ギャル美が飽きるまで、直立不動を心がけた。


「センセーどしたん? カッチカチじゃん」

「言い方がアレですよ木柳さん」

「ウケる。語彙力」


 ギャルの言う「語彙力」とは、語彙力が無いことを拾った時のリアクションで使われることがある。


 アレはアレとしか言えないでしょうに!


 と、心の中でツッコミを入れた、その時――


 聖堂の奥の扉が開いた。


 シスター服の少女が姿を現す。白地に青をあしらった装いだ。

 美少女である。快活で人なつっこいギャル美とは好対照な、清楚な乙女だった。


 髪はショートボブだが、その色味に舌を巻く。驚くなかれ水色なのである。

 ファンタジーRPGかギャルゲーか、はたまた年に二回のビッグサイトのお祭りなどでしか見たことがない、綺麗な透明感のある艶やかな薄いブルー。


 瞳も青系だった。


 なにより、視線を少し下げれば窮屈そうにもりあがる……ギャル美にも負けない。いや、それ以上かもしれない大きな胸(HかIか)が服をもちあげている。


 所謂いわゆる乳袋状態だった。聖職者として、その神官服のデザインはいかがなものかと、苦言を呈する勢いだ。


 実際に言おうものなら問題になるので、口が裂けても申し上げられませんが。


 少女は抱き合った……というか、一方的に抱きつかれた状態の私の元へと、静かな足取りでやってくる。


「勇者様。何を乳繰り合っていらっしゃって?」

「オコ?」

「別に怒ってなどいませんわ……抱き合ったまま身じろぎもしないで、神前で堂々としたご立派かつ破廉恥な殿方はどなたでしょう?」


 いや、よく見てちゃんと見て。私、腕をギャル美の背中側に回したりしてない。抱き合ってない。抱きつかれてるだけ。


 と、説明して聞き入れられるかどうか迷っている間に――


「マエセン。あーしのパートナー? みたいな」

「ぱ、ぱぱぱパートナー!? フンッ……冴えない殿方ですわね。勇者様の美貌と器量と強さの中に垣間見える儚さと切なさと優しさと強さに見合うとは、到底思えませんけれど」


 一息でギャル美を称賛しつつ、私をディスってきた。しかも「強さ」を二回出してるし。


 私にぎゅっと抱きついたままギャル美が首を傾げる。


「シルぴどしたん? 急にいじわるだし」

「い、いじわるをしているつもりはありませんわ。ともかく、わたくしはいかがなものかと思いましてよ」


 出会って二秒で嫌われることって、あるんだな。何もしていないのに。不可抗力だというのに。ここは平和的に対話で相互理解を深めるべきだろう。


「ちょっと待ってください……ええと、シルぴ……さん?」


 青い瞳がキッと鋭さを増す。


「その呼び方を許しているのは勇者様だけですわ。わたくしはシルフィーナ。光輝神教会に所属する上級神官戦士にございます」

「丁寧な自己紹介、痛み入ります。私は……」

「マエセンでよろしいでしょうか? よろしいですわよね。口答えは許しません。そろそろ勇者様から離れていただけませんかしら?」


 普通に名乗らせてすらもらえないんだが。それに離れるもなにも……。


「マエセンJK好きすぎて離れられないね。猫といっしょで気持ちいい場所があったら動かないし。今、懲役五分の刑を執行中。にしてもシルぴ激オコだし。あーね、こういうのって不条理ってやつ?」


 悪戯っぽくギャル美は笑う。


「そろそろ釈放……もとい、解放してください木柳さん」

「うぇーい」


 離れる時はスパッと離れていく。まったく読めない生徒の心。

 改めて神官少女と向き合った。なにもしていないのに。いや、していなかったからか。

 第一印象はあまり良く無さそうだ。

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