5.ギャル美と旅の始まり
およそ王族との謁見とは思えないやりとりが、私の目の前で繰り広げられる。
「ギャル美の推しってマ? ドNすぎん?」
「あー説ある。説あるコアトル」
「まとまってる?」
「逆に」
王は私をギャル美がわざわざ連れてきたことに懐疑的らしい。私があまりにもドノーマル……普通すぎると。
ギャル美も、たしかにそういった見方をする説はあるので、と同意。
現状で大丈夫か? 問題なくまとまっているか? と、王は確認するのだが、ギャル美はむしろ好転の兆しありと反論したわけだ。
普通に喋ってくれええええぇ。頼むから。
王がじっと壇上の玉座から私を見下ろす。
「では、勇者殿の事はよろしく頼んだぞ前田よ」
「は、はい! 微力を尽くします陛下」
普通に喋れるんじゃないかああああ!!
感情の温度差で風邪を引きそうだ。
「あの、陛下……なぜギャル語を?」
「若者に合わせた結果だ。気にするな」
人間が出来てるーッ!?
ギャル美がニッコリ微笑む。
「王ぴ、逆にあーしが気を遣っちゃうくらい馴染んでてマジリスペクトっしょ」
「君の言葉の感染力も相当なものですよ、木柳さん」
「うぇーい」
本当に便利だな。「うぇーい」と「それな」って。
王が言う。
「良いか前田よ。そなたが来ることを勇者殿は待っていた。これにて王都防衛の任を解き、二人に新たに命ずる」
「は、はい! 陛下」
「うぇーい」
王はゆっくり呼吸を整える。
「魔王インドーアはかつて、その手に支配の王錫を持っていた。千年前、世界を救った勇者タカシの手によってインドーアは封じられ、同時に王錫もどこかへと封じられたのだ」
「支配の王錫とはどういったものなのでしょうか?」
「うむ。手にした者にとてつもない力を与えるという、金色の杖。再び魔王が持つことだけは阻止せねばならぬ」
「先に魔王を討つことはできないのでしょうか?」
「インドーアは暗黒の島に居城を築いているが、その結界はあまりにも強固でな」
「敵地に乗り込むのはリスクが高いということですね」
「いかにも。魔族は強い。そなたも滅神魔竜とまみえただろう」
たしかに。あんな化け物が押し寄せてきたら、とっくに人間は滅んでいるはずだ。
ギャル美がギャルピースした。
「あーね、魔族ってソロプ勢多め? みたいな」
「なるほど。魔族と一口にいっても、統率がとれていないのですね」
王は頷いた。
「その通りだ前田よ。だからこそ支配の王錫を魔王は欲している。その手に渡れば、今度こそ人間は滅ぼされてしまうやもしれぬ」
「王錫はどこに隠されているのでしょうか?」
「わからぬのだ。そこでそなたらには、隠された支配の王錫を探し出すため、探索の旅に出てもらいたい」
ギャル美が「旅行じゃん上がる」と楽しげに笑う。
「旅……ですか陛下?」
「うむ。勇者殿は十分に強いが、前田よ。そなたはまだスキル鑑定すら受けておらぬ。まずはスキルの覚醒をし、旅をしながらその力を磨き、共に戦う仲間を集めるのだ。そして、支配の王錫を手に入れ、魔王を再び倒す……この世界の命運はそなたらの双肩に掛かっているぞ」
「うぇーい」
いや、本当に便利だって「うぇーい」って。明太マヨネーズか。
とりあえず、現状では私がギャル美の足を引っ張りかねない。
「さっそく私もスキル鑑定を受けたいのですが」
「前田よ。まずは王都の教区……光輝神教会の大聖堂へ向かうが良い」
「承知いたしました」
私が恭しく頭を下げると。
「マエセン社会人おつ~」
ギャル美にパンパンと肩を叩かれた。ナチュラルなボディータッチ……信頼してもらっているからだよな。うん。
謁見の間をあとにしながら思う。
ギャル美のスキルはギャル。であれば、教師の自分はきっと教育関係のサポートスキルに目覚めるはずだろう。
最低限、身体強化系は欲しいところだったが。
教える系にせよ教わる系にせよ、汎用性が高く使いやすいものであってくれ。頼むから。
尖った能力はいくら強力でも扱いづらくて身を滅ぼしかねない。
平均80点。いや70点くらいの、特徴が無いのが特徴みたいなバランス感のある、普通のスキルよ! 目覚めてくれ!
それすら一般人の私がするのは高望みかもしれないけれど。
もう贅沢は言わない。ハズレスキルの一歩手前くらいでいいから、旅であれこれ役に立つ便利系サポートスキルであることが望ましい。
この世界の主役は勇者ギャル美なのだから。
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礼拝堂の天井が高いホールに、担当者の女性の透き通った声が響いた。
「前田様のスキルは破壊です」
「は、はい?」
「破壊です」
いや、なにその……物騒なスキル名。隣でギャル美が「うぇーい。マエセンアセアセでじわる」と笑った。