30.ギャル美と前田の最初の冒険のおわりに
ギャル美が笑う。
「どっちもマエセンの夢で大草原不可避。えっと、おじさんさぁ、二人起こさないとずっとこのままとか?」
ぬいぐるみは全身をよじらせて左右に振った。ノーのボディーランゲージだ。
「心配はご無用。眠っているだけです。吾輩のアンブレラ氏も消えてしまいましたから、直に目覚めるでしょう」
「おけまる水産」
「ああ、遺物があればいつか、この酷すぎる魔花粉症が治るとばかり思っていましたが、魔貴族でなくなってしまえば良かったのですね」
「あーね、一理ある」
ええと、吐血してたんだが。魔族のとはいえ、それ、花粉症なのだろうか?
質問するとこじれそうなので、疑問は胸にしまうことにした。
白衣山羊がじっとギャル美を見上げる。敵対の意思も遺物への興味も消え失せたようだ。
「もう帰ってもいいですか? 吾輩、今後は魔花粉症の特効薬作りをしようと思うのです」
「了解道中膝栗毛」
「ありがとうございます。このご恩は忘れませんよ、勇者のお嬢さん」
見逃してしまっていいのかとも思ったのだが、勇者が手を振ったのでこういうものなのだと思うことにした。
ブラックウッドは「では、これにて」と言い残し、その場からヒュンッと消える。
なんか便利だな、魔族って。いや魔法全般か。
ギャル美が剣を収めて私の元に戻ってきた。手には水晶ドクロを確保したままだ。
「マエセンどう?」
「なんとか無事でした。それにしても木柳さん、お手柄ですね。遺物も守り、魔族も撃退に成功しましたから」
私が負けて損失を抑えることを考えていた時に、彼女は粘り強く諦めず、耐えていたのだ。勇者の資質を持っていると素直に思う。
少し恥ずかしそうに少女は口を尖らせた。
「あーね、センセーが傘どうにかしてくれて、ギリね」
私のとっさの行動が、上手くアシストに繋がったらしい。
と、少女が金髪を小さくゆらした。
「ところでだけど、どうやって起きたの? アリぽよもシルぴも全然寝てるし」
二人は寝言を続けていた。耳を覆いたくなるような内容である。眠ってなお、よくもこんなに喋れるものだ。
頭の中身がダダ漏れているのかもしれない。
「夢に囚われた時の対処方として、夢の中で死ぬというのがバトル漫画のセオリーなので、試してみたんです」
「ウケる。やっぱオタクじゃん」
「オタクでも良いじゃないですか。その知識が役に立ったんですから」
「それな」
「木柳さんこそ、援軍の見込みもないのにずっと一人で粘っていたんですよね? 逃げても良かったのでは?」
ギャル美が少しだけ頬を赤らめる。
「仲間見捨てらんないし、あーしががんばれたの……センセーのおかげだし」
「はい?」
少女はコホンと咳払いを挟むと、キリッとした顔になった。
「すみません木柳さん。君のために私は君の元へと戻ります」
あっ……それ、夢の中の私のやつ。
「君は……夢の中でも魅力的すぎて……眩しくて困ります……けれど、行かねばなりません……って。だから待ってた」
うわあああああああああああああッ!!
私はその場にしゃがみ込む。聞かれていたのだ。寝言を。メガネの上から両手で顔を覆う私の肩に、ギャル美がぽんっと手を当てた。
「センセーのえっち」
「違います! 違うんです!」
「いーよ、ちょっと嬉しかったし、かっこよかった。っぱセンセーしか勝たん」
慰められてしまった。逆に。
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それから最寄りの宿場に戻り、教会にて遺物の正式な鑑定を行った。
評価額は驚きの500G。諸経費込みとのことである。
あれだけ苦労して、遺跡の主を倒したあと高位の魔族――魔貴族の襲撃を退けて、やっとの思いで戻ったのに……。
聖堂で神官少女に抗議する。
「どうして遺物が500Gにしかならないんですか? 遺物迷宮を作るほどのものなのでしょう?」
「前田様。遺物の価値は秘められた魔力よりも、その有用性にありますわ。こちらの水晶ドクロ……夢見の水晶を使ってみてくださいませ」
ドクロを渡された。いや、使うってどうやって。
ゲームならワンコマンドだが、そもそも使い方がわからない。
「あの、使うって? 取扱説明書があると助かるのですが」
「話しかけてみてくださいまし」
「ええと、ドクロにですか?」
下乳支え腕組みのシルフィーナ。まだ現実の彼女の方が優しくて、理性がとっぱらわれた時のドSっぷりを知ってしまった以上、素直に言われた通りにするのが丸く収まると感じた。
「あの、もしもし夢見の水晶さん?」
「はい! あたし夢見の水晶! 大きくなったらお姫様になりたいの!」
喋った。なんか合成音声っぽい甲高い声だ。
「そうなんですか。お姫様とはすごいですね」
「だから白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるのを待ってるの! あなたは王子様?」
「いいえ、私は教師です」
「あたし夢見の水晶! 大きくなったら幼年学校の先生になりたいの!」
「夢が変わってませんか? そんなにあっさり手放して良かったんでしょうか? お姫様への道のりは険しいというか、生まれながらのものだとは存じ上げますが」
「あたし夢見の水晶! 大きくなったらパン屋さんになりたいの!」
私はシルフィーナに水晶ドクロを返却した。
「これは500Gですね」
「理解できて偉いですわ前田様」
壊れているのかなんなのか。夢見の水晶というよりも、夢見がちな水晶だった。
少々がっかりしたところで――
私と水晶のやりとりをぼんやり眺めていたギャル美が胸をぶるんと大きく縦揺れさせた。
じっとこちらを見る。
「こーゆーオモチャあったじゃん! マエセンもわかるっしょ? ほら! ちっちゃい女の子向けの喋るやつ!」
「ああ、女児向けのお喋りする女の子の人形ですね」
「このドクロ研究したら、作れるっぽくない?」
――のちに
勇者の提案によって、夢見の水晶が研究された結果、低出力の魔晶石と組み合わせた簡易量産版が出来上がり、平和になった後の世において「おしゃべりギャル美ちゃん」が世界的な大ヒット玩具となったのだが……。
そのパテントによる莫大な特許料を、今、冒険の真っ最中である私たちが得ることはなかったのだった。
蘇生費用の残り返済額:10000000G→9999500G
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原雷火 拝




