28.前田と夕暮れの教室とギャル美(?)
すべてが夢だったのかもしれない。
あの日の夜――
自宅のアパートでカップ麺を食べようとしていた寸前のところで、異世界に転移させられてしまったなんて、ただの私の妄想だ。
こうしてギャル美と二人、補習授業をしているじゃないか。
ただ、彼女が普段以上に積極的だ。かなりボディータッチを気軽にしてくる。それで私が「木柳さん。そういうのは控えてください」とお願いするのを彼女はいつも「ウケる」と楽しげに笑う。
決まって「マエセンもしかして本気にしちゃった?」と、小悪魔っぽく大人をからかったりもするのだ。
背後から私の前に回り込み、電子黒板を背にしてギャル美はあごをくいっと上げた。
上目遣い気味に桜色の唇を開く。
「なんか壁ドンみたい。あーし、逃げられないよ。センセー……したかったらチューしても……いいよ。センセーなら……もっとその先だって」
まるで百合の花が頭を垂れるようなしおらしさ。普段のひまわりみたいな彼女が、私にだけ見せる新たな一面だ。
らしくない。
これは現実なのか? 夢なんじゃないか? 記憶がおぼろげで曖昧だ。
私は左手で彼女のたわわを下から持ち上げるようにそっと包んだ。人差し指と親指が作るL字にとうていおさまりきらない重量感だ。
ブラをしていようと制服のブレザーの上からだろうと、そのもっちりぷるんがボリュームと、柔らかさに息を呑む。
「ん……もっと優しくだよ。童貞センセー。ね? ほら、おっぱいだけじゃなくて、チューしよ。大人のキスを教えてよ」
舌をぺろっと出して彼女は唇をそっと舐める。肉食獣のそれである。
ギャル美は……こんなこと……しない。言わない。させない。
解釈不一致だ。いや、公式がどうかは私の知るところではないが。
彼女のある種、ファンたるポジションからすれば、あまりにもらしくなかった。
そうだ。これは……この見慣れた教室の光景そのものが虚構。幻。夢に違いなかった。
なら何やってもいいか。曝いてやる。
世界の嘘を。もし、私が異世界に本当に行っているのなら――
スキルを使えるに違いない。
「発動……破壊スキルッ!!」
目の前でギャル美の制服がバラバラになる。加水分解したヘッドフォンのイヤーパッドの合皮よろしく、触れただけでボロボロだ。
「きゃっ! センセー……大胆じゃん……ばか」
ゆで卵の殻を剥くように、彼女は一糸まとわぬ姿になった。
全身綺麗な小麦色。ギャルは味付き煮卵というが、実物を見るに……確かにと思った。
美しい四肢があらわになる。彼女は両手で胸の先端をそっと隠した。
下はそのまま、産まれたままだ。処理しているのか無毛だった。
夕日に燃える教室で、少女の裸体と向き合う。まだあどけない子供の顔に、素晴らしいプロポーション。モデル体型というには胸が大きすぎて、男の欲望のすべてを受け止めきってしまいそうだ。
「ほら、センセー次は?」
「次は……そうですね」
私は彼女の胸から左手を外すと、窓の外を向いた。
右手の中指でメガネのブリッジをくいっと押し上げる。
ギャル美がツインテールを揺らして首を傾げた。
「ちょ? ここまでしてなんで外見てるの?」
「私は戻らなければなりません」
「戻るって、もう、後戻りとかいいから、しちゃおうよ? チューもその先も……ね?」
少女が私の首に両腕を回して絡めてくる。
きっとこれは、私の欲望だの願望だの抑圧された本能だのが見せた夢なのだ。
教師と生徒。成年と未成年。
そういう関係になってはならないという理性によって、ぎゅうぎゅうに圧縮されたバネが今、弾けて産まれた想像の産物……いや、怪物に違いない。
「私は異世界に帰らせていただきます」
もしここが本当の現実世界なら、突然、高校教員がこんなことを言い出して頭がおかしくなったと思われるだろう。
おかしいのはこの世界だ。破壊スキルが持ち込めているんだから。
私は少女の腕から少し強引に逃れた。
「あん! やっ! 痛いって」
「すみません木柳さん。君のために私は君の元へと戻ります」
「なんで! ここにいるじゃん! もっとあーしを見てよ! そばに……いて」
「君は……夢の中でも魅力的すぎて……眩しくて困ります……けれど、行かねばなりません」
偽物とわかっていても、つい本音がこぼれる。
「待って! ちょ! センセー!」
少女の制止も振り切って――
私は教室の窓に向かって走る。左手を前に突き出して。
「破壊ッ!!」
ガラスを突き破るとそこは校舎の四階だ。
「今から戻りますから! どうか無事でいてください木柳さんッ!!」
ダイナミック退勤を決めながら、頭から真っ直ぐ落下する。
夢の世界に囚われた時、元の場所に戻る方法の定番は……夢の中で死ぬこと。
今も昔も日本男児は少年漫画で育ってきたのだ。
私は上手く頭から落下した。頭蓋から校庭に突き刺さるようにして、夢の世界での命を自らの手で断った。




