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22.ギャル美とワイトキング

 人間とは現金なもので、終わりが見えるともう一踏ん張りできるものである。


 テストの答案チェックにしろ、残業にしろ。終わりがあるから耐えられる。


 果てしなく遠かった10000体というゴールが、急速に終焉へと近づいたのだ。


 なんだかわからないが、勝機だと思う。


「アリアドネさん! あともう一息です!」

「うむッ!! 私たちの愛が奇跡を起こしたに違いない!!」

「は、はい! そうですね!」


 ここで否定してやる気を削ぐわけにはいかない。二人の友愛が生んだということにしておこう。嘘ではない。100%善意の方便だ。


「うおおおおおおおお! 愛の力を食らうがいい!!」


 赤いポニーテールが流星のように尾を引いて、骸骨戦士たちを次々討つ。敵が増えないとみるや、階段を駆け下りフロアで縦横無尽に四肢を躍動させた。


 斬る、突く、蹴る、叩き伏せる。八層跳びする赤い閃光だ。


 愛って……すごい。


 祭壇の上で私も残る骸骨戦士を丁寧に倒していった。


 床を破壊して正対する数をしぼったおかげで、時間はかかったものの七体を沈める。


 玉座から腰を上げ、手にした杖を振り回す死霊王。


「ば、バカな!? いったい何が起こっているというのだ!! 本当に愛の力だとでも……あ、あり得ぬ!」

「さあ、どうなんでしょう。しかし、すべてこちらの作戦通りといったところですかね」

「ぐぬぬ……」


 私も理由はわからないが、とりあえずマウントとっておこう。


 ワイトキングが杖を振るった。


「ならば貴様を人質にしてくれよう! 呪霊縛鎖!」


 紫色の魔力でできた鎖が杖から伸びる。


 私は左手でそれを掴んだ。絡みつく呪霊縛鎖に対して――


「破壊ッ!」


 ぐっと握力を加える。紫色の鎖の輪が砕けると、そこを中心に連鎖的に破裂していった。


 ああ、やっぱり。少しだけ予感はあったけど、私の破壊スキルは非生物を対象とするらしい。


 相手の力にもよるけれど、魔法による効果そのものさえも破壊できるようだ。


 先日、自爆した魔王の傀儡の時は、私が未熟だったがためにその威力を抑え込めなかった。


 死霊王が震えた。まるで生まれたての子鹿だ。


「う、嘘……だ……あり得ぬ! 我が呪霊縛鎖は相手の魔力さえも封じる絶対服従の力だぞ」

「この世に絶対なんてことはないんですよ。驚くことはないでしょう。君の呪霊縛差を私の破壊が上書きしただけです」


 遮る者はない。ワイトキングは半狂乱で「出合え! 誰か! こいつを止めろ!」と叫ぶ。


 まっすぐな一本道となった祭壇の上を歩く。左手を前に出し、ワイトキングの頭部に狙いを定めた。


「ひいい! こ、殺さないでえぇ!」


 ワイトキングは玉座を降りると平伏した。


 殺さないで……って、死んでるでしょ元から。


 私は剣を掲げる。


「古の戦士たちよ! 君らの王は今、屈した! これ以上の戦いは望まない! 今すぐ戦いをやめられたし!」


 残っていた骸骨戦士たちの手から木剣が落ちた。


 私は足下でうずくまる骨男に告げる。


「チェックメイトだ王様」


 そこへ――


「ひゅ~! マエセンかっこいいじゃん♪ チェックメイトだ! キリッ!」


 遅れて、金髪ツインテールのJKと水色髪の神官戦士が玉座の間に姿を現した。


 うっ……聞かれてしまったか。異世界だしちょっと決め台詞っぽくしてみたのだが、同郷のギャル美に知られるのは、担任として大人として、とても恥ずかしい。


「い、今の発言は撤回します。させてください」

「焦っててウケる」


 ニヤニヤしないでほしい。頼むから!



「うぇーい。みんな焼いてって」


 玉座のある壇上にて――

 ギャル美の手にした光球の温かい光が部屋に満ちる。残存していた骸骨戦士たちは胸の前で手を組み、残らず光の階段を駆けるように天に向かって溶けて消えた。


 昇天とか成仏とか、ともかく清らかな光景だ。


 平伏したままのワイトキングが顔を上げる。


「で、では我も……おいとまいたします」


 スチャッ……と、神官戦士のスパイクメイスが死霊王の側頭部にあてがわれた。このままゴルフ感覚でフルスイングすればナイスショットである。


「この遺跡の主として最後の勤めを果たしてからにしてくださいまし」


 実際、ギャル美の放つ光――日サロ=日焼けサロンはボスである死霊王に効果が見られない。


 雑魚アンデッド一掃の魔法というものは、総じてボスクラスに通じないものだ。ここがゲームの世界なら……という、前提になるけれど。


 実際、RPG的ではあると思う。セオリーがある程度通じることを、過信しすぎない程度に活用していこう。


 ギャル美は自称ゲーマーだが、落ちものパズルだけ異様に上手いタイプだった。

 恐らくゲーム……特にレトロ系のRPGなんかはミリも知らないだろう。


 骸骨戦士を最後の一体まで天に送るとギャル美が私に駆け寄って飛びついた。


 真正面からぎゅうっと抱きつく。本当に所作がフレンドリーなゴールデンレトリバーだ。

 時々そのおっぱいタックルで圧死させられるんじゃないかと思うほど。


 これまでも人目ははばからないタイプだったが、異世界に来てから頻度回数密着度のすべてが倍増している気がする。


 可愛すぎる教え子というのは……男の身としてつらい。


「おつ~! センセー大丈夫そ?」

「はい。おかげさまで」

「ボス倒すとかやるじゃん。見直し平清盛」

「歴史上の偉人を語尾にしないでください」

「そこは見逃してクレメンス」


 ギャル美がメンゴメンゴみたいに平手をあげた。チョップもしくは巨人の宇宙警備隊員が光線を出す一歩手前みたいな手つきだ。


 ネットミーム由来のギャル語も多いというか、ギャルがなんでも吸収する柔軟性を持つからか。


 あと、正面からぐいぐい押しつけてくる、たわわも張りと柔軟性があって気が散って仕方ない。


 赤毛のポニーテールが荒々しく揺れて、私とギャル美の間に挟まった。


「勇者殿! 前田殿は戦いを終えて疲れているはず。あまり大きなその……た、体重を預け身を委ねることで、前田殿に身体的な負担を強いてはなりません!」


 と言いながら、入れ替わるようにアリアドネが密着してきた。自称ほどよい体重(鎧含まず)である。


 ギャル美が首を傾げて下からのぞき込むように上目遣いになった。


「うぇーい。マエセンさぁ……アリぽよと二人でなんかあったん?」

「何もありませんよ。ですよねアリアドネさん? あと、一旦拘束を解除してください」

「あ、ああ、失礼した。コホン……何も無かったぞ! 勇者殿!」

「あーね、マエセンだし」


 私だからなんだというのか。これがわからな……ギャル美とやりとりをしていると、自分もミームが増えてしまいがちだ。


 くれぐれも口に出さないよう留意していこう。

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