21.前田と窮地とその頃のギャル美
何もなかったように、平然と死霊王を見据える。
「ところでワイトキングさんは永らく死者をされているとお見受けしますが、心を動かされたり脳を焼かれるような、刺激的な経験に飢えているのではありませんか?」
「だからこそ礼儀知らずの愚者をいたぶり、絶望の表情を味わうのだ! 恐ろしかろう? 光の神の加護を失い我が眷族に堕ちるのは! この生け贄の祭壇の力によってな! カーッカッカッカ!」
勝ち誇った瞬間に――
「発動……破壊スキル」
クールに淡々と私は左手から破壊の力を石造りの祭壇に流し込んだ。
遺跡の破壊は教会では文化財保護の観点から御法度だそうだが、知ったことではございません。
文化より前に自分たちの身の安全確保を最優先して何が悪いッ!
クイーンサイズベッドほどもある巨大な台座が粉々に砕け散った。
「――ッ!?」
ワイトキングのあごが外れて床に落ちる。カツーン! と、硬質な音が玉座の間の石室に鳴り響いた。
同時に骸骨の脳(があるかは知らないが)が焼かれる音も聞こえた気がした。
「な、ななななんてことを! え、ええい! 逆らうな逆らえば女を絞め殺すぞ!」
下顎がなくても喋れるんだ。器用だな死霊王。
「どうぞ」
あっさりOKすると拘束されたアリアドネがショックで呆然としてしまった。
「な、仲間だろう!? 仲間ではないのか!?」
「正直、つきまとわれて困っていました。なにせ二人きりになると変態の本性を丸出しにして、やれ罵ってほしいだの冷たくあしらって欲しいだの……正直うんざりしていたんですよ」
「え? 二人は恋人の関係じゃないの?」
王様、口調が一般人ですよ?
あと、全力で肯定して首を縦に振るアリアドネは……見なかったことにしよう。
「ですからお好きにどうぞ」
「ぐ、ぐぬぬ! 貴様! ほ、本当に殺すぞ!? いいのか?」
「ええ。まあ、生け贄の祭壇の予備でもあれば、アリアドネさんをそちらで引き取ってもらえたのですが……」
「予備などあるわけなかろう! この墳墓の最重要儀礼設備ぞ!」
「それは残念でした」
「き、貴様を器物損壊罪で訴えてやる! か、覚悟の準備をするがいい!!」
効いてる効いてる。
とはいえ、実はアリアドネを本当に殺されてはまずいのである。
彼女のおかげでワイトキングは骸骨戦士を大量動員する余裕がない。
で、ここまで見ていてワイトキングが動かない。最重要であろう生け贄の祭壇が破壊されたにもかかわらず、玉座から腰を上げすらしないのも気にかかる。
たぶん、拘束する魔法は優秀な代わりに、術者自身も動けなくなるとか?
で、呼び出した骸骨戦士に全部やらせるという、下々の者をあごで使った実に王様らしい戦い方をしているのではないか。
私は跪き床に手を置いた。
「あーなんか何もかも破壊したい気分になってきましたね。遺跡まるごと破壊するなんてテンションが上がってきました」
「や、やめろ! くっ! 全軍出合え出合え!」
ハッタリである。基本的に一立方メートル単位で破壊できるのだが、遺跡まるごと破壊できるスキルではない。
私の暴挙を止めるためワイトキングが女騎士の拘束を解いた。人質としての価値なしと判断したようだ。
死霊王が床に落ちた下顎を拾い、がぽっとはめ込むと立ち上がった。
「出でよ精鋭たち!」
祭壇の下のフロアに、次々湧き出す骸骨戦士たち。みるみるうちに夏場の市民プールみたいな芋洗い状態だ。
たとえストックが一万体近くいても、部屋に収まりきらないようである。
がっしゃがっしゃと骨を鳴らして、壇上に上がってこようとする。
階段は一本道。そこに立つは、剣の炎をまとわせた女騎士アリアドネ。五条大橋の武蔵坊弁慶か、いや、長坂の戦いの張飛というべきか。
「させるかッ! ここは私が食い止める! 前田殿……惚れ直したぞ!」
「はい?」
「まるで家畜を見るような眼差しで、ノータイムで私を差し出す姿……ゾクゾクした。しかも、すべて演技で私に利用価値がないと思い込ませ、解放させたのだろう! すべてお見通しだぞ!」
「ええと、ご明察。つまりそういうことです」
ということにしておくのが丸いな、色々と。
ひとまず人質解放はされたものの、劣勢は覆らない。
私は壇上に残る三体の骸骨戦士に対処する。
死霊王は再び玉座に着いた。
「ぬう、どうやら勝負あったな人間ども。貴様が広くしてくれたおかげで、祭壇の上にも我が精鋭をもっと出せるようになったではないか」
三体で手一杯のところに、さらに四体が追加され合計七体。
アリアドネも下から上がってくる骸骨戦士たちの対処で手一杯だ。
しかも、倒したそばから新しい戦士が涌いて出る。
ワイトキングが足をバタバタさせた。
「カーッカッカッカ! 殺さずに生け捕ってくれるわ! 生け贄の祭壇を再建して、我が軍門に降らせてくれよう!」
私は祭壇の床を破壊して一本道の通路状にした。逃げ場なんてもともとない。
なんとか同時に相手をする数を減らしたが、下がり続けてついにアリアドネと背中を接するに至った。
少女が荒く熱い息づかいで言う。
「どうやらここまでか……最後が愛する人と背中合わせとは、騎士冥利に尽きる」
「勝手に諦めないでください。がんばりましょう。粘っていれば援軍が来るかもしれません」
アリアドネも限界か。敵をどれほど倒しただろう。300体は退けたかもしれない。
途方もない数の暴力だ。
剣を握る手から力が抜けそうになる。無秩序に振るわれる黒曜石の刃を少しでも受け止め、はねのける。
ゾンビゲーでゲームオーバーになる五秒前みたいな状況に、光明は見られない……。
かに思えた。
ワイトキングが玉座で首を傾げる。
「ん? あれ? なんで? なんか……出ないんだが我が兵が」
見ればアリアドネが討ち減らしても即補充されていた、フロアの芋洗い状態な骸骨戦士が……隙間を生み始めている。
「お、おかしい!? 反応が! ど、どこへ消えた我が軍団よ!!」
私とアリアドネには見えていないところで、精鋭一万の骸骨戦士たちに……何か異変が起こったようだった。
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「あーね、みんなちょっと白くない? 日サロで焼いてく?」
「勇者様、日サロが何かはわかりませんけれど、太陽の光にも近い陽の力で次々に骸骨戦士たちの魂を浄化し、天へと導くその手腕……すばらしいですわ」
「うぇーい」
骸骨戦士たちが人身御供として埋葬された中央大墳墓に、地上の太陽のような温かい光を放つ球体が浮かぶ。
呼び出した勇者の手によって、次々と死霊の鎖から解き放たれ、多くのさまよえる魂たちが昇天しているのを――
ワイトキングはまだ、知らない。




