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19.前田と遺跡の王

 通路は時折二手に分かれた。


 突き当たりを一旦、右に進んでしばらく。


 次の分岐についたところで、私は振り返り女騎士に告げる。


「戻りましょうアリアドネさん」

「な、なぜだ前田殿!?」

「正解ルートを引いてしまったようですから」

「どうしてそんなに残念がる? 早く勇者殿と合流したいのでは……ははーん、さては貴殿、私との二人きりの時間を少しでも長く過ごしたいのだな? うんうん、わかるぞその気持ち。なにせ私は可愛いからな」


 自己肯定感がギャル並みだ。


 赤いポニーテールを荒馬のように揺らして、女騎士は興奮気味に鼻孔を膨らませる。

 私は首を左右に振ってきっぱり「NO」を態度で突きつけた。


「違います」

「美少女ではないというか!?」

「可愛いですし、自分で自分を認められる人は素晴らしいと思います。が、それはそれとして、君との二人きりの時間を引き延ばす意図はありません」

「そ、そうか。残念だ。ああ、可愛いのは間違い無いのだな。良かった」


 ほっとしたような、嬉しそうな。ところでアリアドネが続けた。


「しかし、ではなぜ? 正解ルートの何が悪いというのだ?」

「そういう性分なのです、私は」


 RPG大好き民にとって、ダンジョンでは行き止まりこそが至高なのだ。


 来た道を引き返し、最初の分岐を左へ。


 ほどなくして袋小路に到着した。これ見よがしに宝箱が置いてある。


 うん、わかってるな、この遺跡の主は。


 アリアドネが赤い瞳を輝かせ、両手を胸元で組んで私に迫った。


「おお! 宝箱だ! 宝箱だぞ前田殿!」

「だから引き返す必要があったんですね」


 と、RTA走者でも無い限り使わないセリフがこぼれた。


 少女はポニテを犬の尻尾よろしく揺らして興味津々だ。


「どうしてわかった? どうしてここに宝箱があると知っているのだ?」

「長年の勘というものです」

「ふむ、そうか! 前田殿は転移者ながら盗掘の心得を持っている。元の世界ではさぞや名だたる墓荒らしだったのだろうな!」

「教師です。誤解なさらないでください」


 ここでぴたりとアリアドネの動きが止まった。


「では、さっそく宝箱を開けてくれまいか盗掘王前田殿」


 箱は木材をベースに金属フレームで補強したような、いかにも王道RPGっぽい外観だ。

 ご丁寧に鍵穴がついている。


「アリアドネさん、鍵開けはできますか?」

「で、できるわけがなかろう。まさか貴殿もか? 盗掘王ではないのか!?」

「教師ですから」


 さて、せっかくの宝箱を前に指をくわえて見ているしかないのだろうか。


 アリアドネが剣を抜いた。


「ええい! 手に入らぬというのであれば、叩き斬ってくれる! 上手くすれば中身も取り出せるぞ! 止めてくれるな前田殿!」

「待ってください。それは実に名案ですね」


 剣を振り上げた女騎士の前に割り込んで、私は左手で鍵穴の開いた金具に触れた。


 呼吸を整え、スキルを発動。できるだけ小規模に、鍵部分だけを破壊する。


 宝箱の口が緩んだ。どうやら上手くいったようだ。


 赤毛が吠える。


「お、おおおお! 素晴らしい! その指先のテクニックで私を辱めるにとどまらず、貝のように口を閉ざした宝箱さえもくぱぁさせるとは」

「君は本当に貴族なのですか?」

「ち、違う! 今のその……事実を言ったまでだ。私は何も想像はしていないし、なんらかの比喩的表現でもないぞ!」


 顔を真っ赤にして、なにやってんだこの人。異世界人がおかしいのか、アリアドネが特別変態なのか判断に迷うところだが……。


 シルフィーナもアレな性格だし、文化の違いということにしておこう。一旦ね。


 宝箱がミミックだったらと、開けてから気づいたものの……まあ、それならそれで破壊すればヨシ。


 箱の蓋を開けると、中に入っていたのは――


 真っ赤なレースとシルクのランジェリーだった。

 言うなればパンツである。過度な装飾が施されているが、肝心な部分を隠す布地面積が極端に少ない。


 ローライズというか、これ、穿いたらお尻の上半分が丸出しじゃないか?


 両端をつまみあげ、じっと確認する私の背中に女騎士が興奮気味に言う。


「おお! 前田殿! 赤ではないか! まさしく私に装備しろと言わんばかり!」

「なんで遺跡でパンツが見つかるんですか?」

「前田殿のいた世界では見つからぬのか?」

「あ、はい。ええと……はい」


 異世界にこちらの常識を当てはめる無粋は、やめておこう。


「で、そのパンツはどうするのだ!? 前田殿がどうしてもというのなら、穿いてもらっても構わないが……」

「欲しいんですか?」

「も、もちろん! 未来の伴侶との初めての冒険で手に入れた、記念すべきお宝だからな!」


 男の私に使い道は……穿くも被るも嗅ぐもない。

 というか、宝箱から出てきた下着を装備するというのも勇気が要る。


 誰かの使い古しかもしれないし。


 アリアドネは犬がチンチンするようなポーズで待つ。そんなに!? そんなに欲しいのか!? 待てお座りお手とか、言えばしそうな雰囲気だ。


「わかりました。これが遺物かは判断がつきませんが、ひとまず君に預けましょう」


 手渡すと、さっそく彼女はスカートの下に手を伸ばした。

 と、そこで手が止まる。止まってくれてありがとう。


 アリアドネは目を丸くした。


「ふむ、新しい装備をすると今までのものが余ってしまうな」

「ここで穿こうとしないでください」

「なに!? すぐに試したくなるのが人情ではないか?」


 うっ……ゲームならウッキウキで新装備を試したい気持ちはよくわかる。わかるのだが……。


「呪いの装備だった場合、どのような効果があるかわかりません。現状で骸骨戦士を相手にアリアドネさんは優勢を保っています。現状維持を優先し、装備するなら解呪ができるシルフィーナさんと合流してからでも良いでしょう」

「う、うむ。わかった! さすが前田殿は冷静だ。その冷たさでいつか私を存分に罵ってほしいものだな」

「お断りします」

「ん~~! 効くぅ~~!!」


 しまった。ハメられた。一人気持ち良くなって、幸せな女騎士である。



 それからも、行き止まりやら袋小路を徹底的に調査して、集まったのはパンツばかりだった。


 ねえ、下着泥棒でも祀ってたのこのピラミッド。


 最初の赤パン以外は、ひとまず背負い袋にしまっておく。OバックとかTバックとか、ギャル美はギャルだけに穿きこなしたりしているんだろうか。


 シルフィーナに似合いそうな清楚な白や、水色系の縞パンも手に入った。


 その間に、何度か大部屋に出ると骸骨戦士に囲まれた。

 私はアリアドネの後背を守り、防御に徹する。訓練の甲斐もあり、敵の攻撃を防ぐくらいはできた。


 時間さえ稼げばあとは女騎士が華麗に敵陣を崩し、殲滅する。


 いや、本当に強い。初期パーティーにいたら途中で離脱するタイプのキャラのようだ。


 フラグは口にせず胸の奥にしまっておこう。


 で、骸骨戦士に対して破壊スキルはというと、使うタイミングなし。


 まず、左手で触れなければならないのだが、相手は剣をぶんぶん振り回すので、それをこちらも剣で弾くので手一杯だ。


 つくづく、ボス向けもしくは宝箱などのオブジェクト用だと思う。


 さて、探索だが幸いなことに階段は上りしかなかった。階またぎのハズレルートを把握するのは大変、骨が折れる。


 で、時々休憩も挟みつつ進んだ先に――


 これまでの骸骨戦士が控えていた小部屋よりも、格段に広い空間に出た。


 高いところに祭壇があり、その先に石の玉座。


 鎮座するは、人骨。鳥の羽を模したクジャクの尾みたいな派手な冠をかぶり、耳もないのにどこにくっついているんだかわからない、丸い硬貨のようなイヤリングを提げている。


 くぼんだ瞳の奥は赤い光を讃えていた。


 ラピスラズリ色のマントと腰布を羽織っているがボロボロだ。


 腕輪やアンクレットは黄金で、きっと生前、身につけていた副葬品だろう。


 手にした杖にも子供サイズの頭骨がはめられている。


 いかにもボスですと言わんばかり。


「ファーッファッファッファ! まさかここまでたどり着くとはな! ご苦労だったな……贄どもよ! 我が名はワイトキング! このエルゲート遺跡の守護者なり! さあ! その命を祭壇に捧げよ!」


 敵対姿勢がわかりやすくて、とても助かる。


 滅神魔竜エクリプスや魔王インドーアの傀儡やら、初日にラスボス級と戦ってきたとはいえ――


 今回はギャル美がいない。アリアドネと連携してこいつを倒さないことには地上に戻れなさそうだ。

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