15.ギャル美と新たな仲間たち
とりま、この日は色々あったので一旦、王宮に戻って一泊した。
勇者にお付きの転移者ということもあり、客としてきちんと扱ってもらえたのは幸いだ。
食事は期待していなかったが、王城ということもあり良いもの……なんだと思う。
スライスしたバケットに赤いトマトみたいな果実か? 野菜か? と、オリーブオイルにフレッシュチーズをのせたカナッペ的な前菜から始まり、アンティチョーク一本を煮たものがドン。
文化が違う。一本まるごと出てくるのなんて、キュウリの漬物かアスパラくらいなものだろう。
極薄切りした生ハムと焼いた葉野菜。多分、キャベツ。
メイン料理は鶏肉のグリルだった。サイゼのアレっぽくて、一番なじみの味だ。ともかく皮目がパリッパリとクリスピーに焼けていて、ジューシーな鶏もも肉を堪能できた。
飲み物はワイン。ギャル美は律儀に未成年だからと、ミルクを飲んでいた。そういえば学校で見かけた時に、ちょいちょい彼女はパック牛乳を飲んでいたっけな。
デザートは木イチゴやら桑の実やらミックスベリーの糖蜜漬け。
最後に苦いコーヒーで締めくくった。食べ物のレベルも服飾ばりに高いぞ異世界。
美味しい。美味しいのだが。
カップラーメンが恋しくなった。
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で、迎えた翌日――
さっそく城に上級神官戦士が迎えにやってきた。私ではなく、勇者ギャル美を。
強引な契約を光輝神教会と結んでしまったわけだが、そもそもこの世界に召喚した神の広めた宗教なので、強引さ無理矢理っぷりは今更感である。
町を囲む城壁の西門へと向かう。
私の左隣にギャル美がぴったりくっついて手を繋ぎ、三歩後ろを神官少女がついてくる。
冒険に行く準備も万端で、シルフィーナは大楯を背負いメイスを腰裏のベルトにマウントしていた。
私はといえば、改めて袋を買い直した。とはいえ、日用品や冒険用具。あとは爆発壺くらいだ。
なにせ――
「ああ、勇者様。怪我をなさったらすぐ、わたくしに仰ってくださいまし。毒や呪いを受けた時も、わたくしを頼ってくださいね」
「あざまる水産~♪」
仔犬が散歩中にじゃれつくように、後ろに控えていた神官少女がギャル美の周りをくるくる回る。
「あの、シルフィーナさん。私が怪我をした時も治癒魔法は使ってくれますよね?」
「心配は不要ですわ前田様。痛みは生きている証ですわよ」
やっぱりポーションや薬草は買っておくべきだったかもしれない。
とはいえ、無料回復スポット……もとい、僧侶枠ゲットである。
が、蘇生魔法に関してのみ有料とのことだ。
高価な魔晶石を消費しないと上級神官でも使うことができず、蘇生対象のレベルや能力によっては、より高価な魔晶石が必要だという。
高評価を素直に喜べない負債額1000万Gの私である。
光の神よ。パラメーター設定バグらせてないか?
ともあれ、王都から再び探索の旅の始まりだ。
今度こそ、街道で魔王に遭遇しないことを祈るばかり。
城門に赤い髪の少女が腕組み仁王立ちしていた。
銀の鎧に腰には真新しい長剣を提げている。
長く伸びたポニーテールを揺らして、誰かを待っているようだった。
見なかったことにして通り過ぎようとしたところで――
「待て! 前田殿! それに勇者殿も!」
目が合う前に呼び止められた。
ギャル美がギャルピースする。
「うぇーいアリぽよじゃん。今日オフ? なにげにお見送り?」
「勇者殿! う、うぇーい」
恥ずかしそうにポニテ赤髪少女はギャルピースを返した。
たしか近衛騎士団長のアリアドネ……だったっけ。私の破壊スキル最初の被害者だ。
勘違いとはいえ、私に剣を向けてきたのが運の尽き。彼女の剣を破壊し、さらに説得しようと距離をとるため、ちょっと胸の辺りを押した結果……おはだけさせてしまった。
事故だから。あれ、事故だから。
神官が青い瞳でじっとアリアドネを見据えた。
「何かご用ですか脳筋ゴリラ」
「な、なぜ陰湿女がいるのだ!?」
赤と青。二つの視線が火花を散らし紫色の雷光をスパークさせた。
その間に割って入る金髪少女。
「あーね、二人ともチルしなよ」
「勇者様がそう仰るなら」
「勇者殿の顔を立てよう」
三人並ぶと信号機みたいだな。色味的に。
ギャル美が首を傾げた。
「あーね、アリぽよ仕事は? 朝練の時間じゃん?」
ポニーテールがしゅんとなる。
「近衛騎士団長の仕事はクビ……ではない! 辞職したのだ」
「バ先クビマ?」
バイト先でクビになったの本当ですか。と、いったところか。
「く、クビではないぞ勇者殿。ただ……部下たちに恥ずかしいところを見られ……騎士団に伝わる不滅のルーンセイバーを失い……じ、実家のシルバーリーフ家から不祥事を詰められて……か、勘当を言い渡されたのだ」
「あー」
掛ける言葉も見当たらず、ギャル美が私をじっと見る。
「あれは正当防衛です木柳さん」
「そっかなぁ?」
「そうですよ。事情はお話しましたよねアリアドネさん」
赤毛がゆっくり頷いた。
「う、うむ。前田殿の言う通りだ。それでだな……」
アリアドネは鎧をカチャカチャ鳴らしながら、私の正面に立った。
くいっとあごをあげて、私の顔を下からじっとのぞき込む。
「あ、あの、なんでしょうか?」
「前田殿。このたびはその……け、けけ、結婚を前提にお付き合いしてくれないか?」
「は?」
「だ、だから夫婦になるのだ! シルバーリーフ家の養子になってほしい」
「急にどうしたんです? 意味がわからないのですが?」
「理由か? 理由を話せばこの婚姻届にサインをしてくれるのだな!?」
彼女は腰裏の袋からスクロールを取り出した。
もう、アリアドネの名前がサイン済みだ。隣が空欄になっている。
裏も表もない、本物の婚姻届だった。
「良いか前田殿! 貴殿は一騎打ちにおいて私を倒したのだ! 騎士の名門シルバーリーフ家の嫡子たる私を!」
「あれは事故だと言ったでしょう」
「事故でもなんでも負けは負け。私が名誉を回復するには……もう、貴殿と結ばれるより他ない」
「他ないわけがないでしょう」
「では……」
アリアドネは剣を抜くと白刃を自身の首筋にあてた。
「死ぬしかない!」
「わああああああああああ! 待った! 待ってください!」
「では婚姻を! 形式状だけで構わないから! 私と結婚してはくれないか!?」
できるか! できるわけがないッ!!
助けを求めるように残る二人に視線を向けた。
シルフィーナはサディスティックな笑みを浮かべて「お幸せに前田様」と楽しそうだ。
ギャル美は「マエセン……モテ期?」と、目をまん丸くしていた。
アリアドネが吠える。
「さあ、契るか死ぬかの瀬戸際なのだ!」
「しないですから!」
「な、なぜだ? 当家は王国内でも有数の大貴族。決して苦労は掛けさせぬぞ。私が働くので養わせてほしい!」
ちょっといい。と、思ってしまった。いかんいかん。
「なぜって……」
いったいなんて応えれば正解なんだ!? 下手を打てばポニテ女騎士が自分の首を落としてしまう。
異世界二日目にして、人生で一番の難問が当たり屋のようにぶつかってきたのだった。




