13.ギャル美と魔王の真の姿
鬼が嗤った。
「死ね! 雑魚が!」
黒い炎の塊が魔王の手で膨れ上がる。
デカい。あんなものを食らったらひとたまりもないぞ。
私は死にたくない一心で、跪き両手のひらを地面に付けると、頭を低くした。
土下座である。
「もう遅いわ! ぐははははは! 消し炭になれえええええ!」
放たれる……破壊の黒炎。
私の頭上を飛び回っていた、二羽目の説あるコアトルごと――
呑み込むようにして、大爆発が起こる。
黒い炎が爆ぜる。
酸素が奪われる。
私はまだ生きている。生きているのだ。
息を止め、地下へと潜り込んでいた。深く、深く。
爆発の直前、土下座りながら左手で地面を破壊したのである。
一立方メートルの空間を掘るの。これを連打して、地下五メートルほどの位置に落下。
簡易的な塹壕だった。
さらに前へと掘り進める。
地上で魔王の勝ち誇る声が響く。
「どうした勇者よ!? 涙を流しているな? 声を出して泣けないのが悔しいかぁ。そうかそうか……その顔……実に良いぞ! 憎め! 我を憎め! 憎悪の炎に身を焦がすが良い!」
魔王の意識は私からギャル美に向かっている。急がなければ。
だいたいの目測で地上に向けてスロープ状に地中を破壊して進み――
魔王の背後に出た。期せずしてモグラ戦法大成功だ。
ギャル美にサムズアップで合図をすると。
彼女はポロポロと涙をこぼしながら、声にならない声を上げた。
「――ッ!! ――ッ!! ――ッ!? ――ッ……」
魔王は背後に私が立ったことに、まったく気づいていない。
口元に人差し指を当てて、ギャル美に「しー」っと合図する。
さて、魔王は分厚い鎧に身を包んでいるっぽい。
ギャル美の一撃に耐えるほどの装甲厚だ。これを除去しない限り、勝ち目はなかった。
普通なら詰んでいるところだが――
行ける気がする。ここで行かないのは嘘である。
背後から巨大な背中に近づき、その甲冑じみた背中に左手をつけると、目一杯全力でスキルを発動させた。
発動ッ! 破壊スキルッ!!
魔王の身体がガクンガクンと揺れる。
「ぐ、ん、な!? アレ? なんじゃ!? 背中の装甲板に異常発生!? バカな!? ちょ! 壊れる! 傀儡壊れちゃうやめて! 下半身との接続消失ッ!?」
おや? オッサンっぽい声なのに、魔王なんか口調おかしくないか?
ともかくパニックみたいだな。
私の左手から広がった破壊の力によって、魔王の装甲は消失……あれ? なんか穴……空いてる。
向こう側に立つギャル美が折れた剣をぶんぶん振るった。
呪いはかかったままだ。ただ、表情で怒りながら泣いているのはわかる。
魔王の焦る声が街道に響き渡った。
「い、いかん! 緊急パージ! 頭部から下の接続解除!」
鬼面の首がごろんと地面に転がった。
私の破壊の力を受けて、身体の方はすべて砂のように空気に溶けて消える。
って、ことは――
魔王の身体は生き物じゃなかった……って、こと?
転げた首を見下ろして確認する。
「本当に魔王なんですか? 君が? ちょっと弱くないですか? あの、恐縮ですが今どんなお気持ちです?」
鬼面が突然、真ん中から観音開きでパカッと開いた。
こわっ……って、仮面の下にあったのは、赤い水晶体だ。空洞の頭の中にぼんやり浮かんでいる。
そこから光がパーッと広がり、小さな人の姿が投影された。
まるで宇宙戦争スペオペの一作目なのにエピソード4な作品で、主人公に助けを求める姫(ネタバレ:実は妹)がドラム缶みたいな円柱ロボットから、ホログラフィック動画で出てきたみたいな感じだ。
アレとは違い、出てきた人影の右上に「LIVE.」の文字。うん、違和感無く読めてしまうのも、光の神の異世界転移コミコミセットの効果によるものだろう。
影は両腕を上げて、バンバンと机を叩く。
「チートじゃ! 我が無敵の傀儡が負けるはずないのじゃ!」
ついには声までちびっ子になっていた。女の子……だろうか。
紫色の髪だ。お団子頭であまりを後ろに垂らしている。巻き髪をしてもなお、背中を覆うほどの長さで、若干外ハネ気味だった。
黒い四本の尖った角。頭頂部には、これまた刺さりそうなティアラ。
尖った耳はエルフのようにも見える。
アメジスト色の瞳が私を憎らしげに見上げた。
それにしても小さい。いや、投影されている姿がコンパクトというよりも、丸出しの肩は幅が狭くて幼女のサイズ感だった。
胸も膨らむ前というところ。服の装飾でふんわりごまかしている。
鬼面の魔王から出てきた幼女の幻影が吠える。
「ば、バーカバーカ! ズルして勝って嬉しいか大人よ!」
「勝ちに綺麗も汚いもありません。ところで、魔王インドーアはどこですか?」
「我こそは魔王インドーアじゃ」
「まったまたぁ。ご冗談を」
「う、う、嘘じゃない! 嘘じゃないぞ!」
幼女は涙目になる。何度も机を叩き、台パンの音を集音器が拾っているのか、こっちにまで聞こえてきた。
「だったら証拠はありますか?」
「み、見ればわかるじゃろ! この恐ろしいフェイスを! どうじゃ人間ども……怖くて声も出まい」
「女児にしか見えませんよ。ほら、魔王を出してください」
「我が魔王なのじゃああああああ! 傀儡と同じカラーリングじゃろ!」
「全然姿が違うじゃないですか。誇張してません? 盛り過ぎですよ?」
「う、うるさいうるさいうるさいうるさーい!」
傀儡……か。
「もしかして、君は本当に魔王インドーアで、暗黒の島に結界を張って引きこもりつつ、人形を遠隔操作して襲ってきたんじゃないですよね?」
「そ、その通りじゃ! リモートじゃ! 我はリモート魔王様じゃ! ひれ伏せ人間!」
なるほど。傀儡だったから、ギャルスキルの必殺剣の効果が今ひとつで、命を持たないからこそ私の破壊スキルの効果が抜群だったわけだ。
「ともかく、二度と私たちの前に立ち塞がらないでください」
投影されたロリ魔王が腰に手をあて胸を張る。
「ふっふふそれはこちらのセリフじゃ! もうこうなれば……死なばもろとも! ここまで育てた傀儡を無くすのは惜しいが、全ロスでお主らを葬れるのであれば……勝てば良かろうなのじゃあああああ!」
カシャンと鬼面が閉じて幻影が消えた。
同時に、黒い炎が魔王の頭部から吹き上がる。ピッピッピッピ……とデジタルめいたカウントダウン的な音が響いた。
この感じからして、自爆するつもりか!?
ギャル美は言葉を封じられたままだ。もし、彼女が自由に喋れたとしても、相手が電子音的なものを発するだけでは「それな」することができない。
やばい、やばいやばいやばいやばい爆発するッ!?
ギャル美が私の前に出て庇おうとした。それを右手で押しとどめる。なんかどさくさに彼女の胸を鷲掴みにした。
が、ともかく彼女を遠ざけて、私は――
左手を開き、目一杯……鬼の顔にのばした。
カッ! と鬼面が目を見開き、次の瞬間、超高温を伴った爆風が巻き起こる。
頭の中に爆弾を仕込むなんて昭和アニメくらいのキチった所業じゃないかあああああ!
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街道に巨大なクレーターだけが産まれた。一部、ピースの欠けたピザのような形の不思議な痕だった。




