12.ギャル美と魔王インドーア
目と目が合ったらバトルが始まるなんて、昭和のヤンキーかモンスターを使役してバトルする世界的に人気なアレのノリじゃないか!
鬼面――魔王インドーアがギャル美に殴りかかる。
勇者は剣を抜く動作と同時に、鉄の拳を居合抜きで斬り払った。
硬質なガキンという音とともに、火花が飛び散る。
インドーアの拳打はまるで、金槌のように詰まっていた。
威力に押されてギャル美が地面をずざざっと滑るように後ずさる。自分の意思ではなく、カーリングかエアホッケーのパックみたいに押し出された格好だ。
「マ? ヤバいじゃん。ウケる」
強い相手にニヤリとするギャル美。戦闘民族みたいである。
鬼面は私に見向きもせず、ギャル美に構えをとった。
低い男の声が言う。
「千年前の勇者タカシほどではないな」
「あーね、説ある。説あるコアトル」
途端にギャル美の背後に美しい七色の翼を備えた、霊鳥が召喚された。
これもギャルスキル!?
ククルルルルルルカアアアアアアアアアン!
と、霊鳥が声を上げて鬼面の魔王に向けて飛ぶ。
おお、召喚魔法による攻撃だ。説あるコアトル……たぶんケツァルコアトルがモデルだろう。
神話上では人類に火を与えたアステカの神だったと思う。
きっと天上の業火とか、炎系の技が出るに違いない。
「セツアル! セツアルね! セツアルよ☆」
喋るオウムみたいに執拗に鬼面に話しかける霊鳥。あの、攻撃……しないの?
追い払おうと、インドーアは腕を振り回した。
「ぐぬぬ小癪な!」
「セツアル! セツアルから! マドナイね☆ クリハラアアアアッ!!(発狂)」
ずっとうるさく、甲高い声を上げてまとわりつくだけだ。
「鳥ごときで我を止められると思ったかッ!?」
鬼面の赤い瞳が輝き、ドクロの口から黒炎をまき散らした。周囲を火炎放射で焼くと、飛んでいた説あるコアトルが消し炭に変わる。
火を伝えた神でしょ、君ぃッ! 出てきて早々焼き鳥ですかッ!?
「木柳さん! まったく役に立つどころか焼かれただけなんですがッ!?」
「説ある」
ギャル美が同意すると、もう一羽出てきた。説あるコアトル。今度は私の頭上でぐるぐる回って「セツアルね☆」を連呼する。
鬱陶しいだけだコレ。
鬼面が勇者をギロリと睨んだ。
「茶番は終わりだ。死ね!」
今度は拳に黒炎をまとわせてギャル美に殴りかかる。
「それ手、熱くないん?」
「黙れ!」
「もっとお話しよ? ね?」
「うるさいッ!」
「どこ住み? 三茶? 渋谷? 新宿?」
「馴れ馴れしいぞ!」
「うぇーい! 今度一緒にカラ館いく?」
「さっきからお主はなんなのだッ!?」
「それな」
光の壁が発生し、魔王の拳が壁に阻まれる。黒炎がジュッと音を立てて強制的に鎮火した。
「な、なん……だと。我が魔炎黒撃が打ち消されたというのかッ!?」
「あーね、説ある」
本日三羽目の説あるコアトルが鬼面の頭の上に乗っかると「セツアルね!」と連呼した。
追い払おうと魔王が頭上に手を伸ばし、胸元ががら空きになったところで。
「閃光三日月斬(キラキラ☆クレセントアークスラッシュ)!!」
ノーモーションから勇者の必殺剣が叩き込まれた。超至近距離からの光の刃が魔王の分厚い……所謂雄っぱい的な胸筋に炸裂する。
なんか、みんな胸、おっきいな。人も魔族も問わず。発育が良くなるのだろうか異世界って。
結局、私が何をすることもなく魔王討伐完了……とはいかなかった。
流し斬り的な一撃が完璧に入ったというのに、鬼面は苦しむ素振りすら見せない。
みればその厚い胸の裂傷で、血の一滴もこぼしていなかった。肉を裂いたというよりも、外骨格に傷をつけたという印象だ。
無造作に魔王は裏拳でギャル美をなぎ払う。
「きゃあああああッ!」
「木柳さんッ!!」
ピンポン球みたいに弾かれて、勇者の身体が大きく弧を描き地面に落ちる。
彼女の手にした剣が半分に折れていた。一撃をとっさに剣の腹で弾いたようだ。
鬼面は頭の上に乗った三羽目の説あるコアトルを掴んで地面に叩きつけた。
「説ナイね! 切ないね!」
ダジャレを残して空気に溶ける無能鳥。
再び魔王は拳に黒い炎を揺らめかせる。
「なるほど、お主の召喚獣は取り憑いた者の力を封じる類いのものか。発動条件は会話と見えるな。他の技に関しても、基本的には対象者とのやりとりから流れを作ることで効果を発揮するとみたぞ」
「解説おつ~」
折れた直剣を手に、ギャル美はゆらりと立ち上がる。
このままだと、まずい。
「逆にあーしの閃光三日月斬(キラキラ☆クレセントアークスラッシュ)が効いてないの、なぁぜなぁぜ?」
「死ぬ前に教えてやろう……などと言うと思ったか!?」
「メイドのお土産くらいいいじゃん」
「くどい。お主も勇者ならば、潔く死ね」
「それ……」
「おっと、それ以上は喋るな」
魔王の指先がスッと虚空を横に薙ぐ。と、ギャル美の口から声が出なくなった。
「最後の悲鳴を聞けぬのは、少々物足りないがな。お主の声は封じたぞ」
「――ッ!?」
まずい。コミュ強にとって最大の武器が……。
私は背負い袋を降ろすと中から使えそうなものを探して取り出した。
あれでもないこれでもない。パニックに陥った青い狸のような未来のロボットの気持ちだ。
とりあえず――
買っておいた、ありったけの手投げ爆発壺を魔王に向けて放つ。
ボンボンボボンボンッ!
と、炸裂し爆発し煙が上がった。
やった……か。
なんてフラグを立てるまでもなく、魔王は健在だ。私など眼中にないようで、視線はずっとギャル美を標的に捉えたままだ。
ラスボス相手に最初の町で手に入る消耗品の火力アイテムで対抗するのって、無茶が過ぎる。
それでも、念のため99個買い込んだので、全部投げてみることにした。
ポイポイボンボンポイボンボン!
今のうちに逃げてくれ、ギャル美。たぶんこれ、ゲームで言うなら負けイベントだ。
物語の序盤に自分が某ぬわーーっっ! な父親になろうとは。
これをきっかけに、君は真の勇者の道を歩み始める。その礎として、私が選ばれたのかもしれない。
やだやだ死にたくない。童貞のままなんて! しかもここがすでに異世界なので、死んでも転生チャンスなさそうだし。
いやね、普通に現代日本に暮らしていても、突然の死で転生できる保証なんてないけれど!
こんなことになるならせめて、ギャル美のおっぱい揉んでおけばよかった。
私は投げる。買い置きの爆発壺が尽きるまで。
やっと魔王がこちらに向き直った。今です!
「逃げてください木柳さんッ!!」
ギャル美は……動かない。
無言でこっちを見たまま首をイヤイヤと左右に振る。
一方、魔王が私に向けて……というか、足下の背負い袋めがけて手のひらを向けた。
「邪魔をするでない」
黒炎弾が背負い袋に炸裂し、消し炭になった。
終わった。すべてが……。
ギャル美の剣が通じない。言葉を封じられてギャルスキルも使えない。
背負い袋は焼かれて道具も無し。
魔王が言う。
「逃げておればよかったものを……そんなに死にたいなら先にお主から消してやろう」
鬼面の手のひらが私をロックオンする。
残されている手札は――
この「破壊」の左手だけだった。




