11.ギャル美と前田育成計画
繋いでいる手が汗ばんでくる。が、気にせずギャル美はぎゅっとしてニギニギしてくる。
もうずっと、手のひらがくすぐったい。
「やっぱり恥ずかしいんですが」
「センセーのスキルって抜いた剣をぶらぶらさせてるみたいなもんしょ? あーしが鞘になってあげるだけ。ね?」
ここまで言われては拒否できない。ギャル美なりに気遣ってくれてのことだ。
彼女のスカートを剥ぎ取ってしまったというのに。
いや、あの事件があったからこそ、過ちを繰り返させないためかもしれないけれども。
「わかりました。お心遣い感謝します」
「あーね、センセーここ異世界なんだし、敬語とかダルない?」
「ダルくはありません」
「大人おつ~」
のどかでうららかな街道を、なにげなく話ながら進む。
今回の探索で目指すは王都の西にあるエルゲート遺跡。
王都近郊にありながら、第一層より先は封印が施されており、冒険者たちも探索を進めることができていないという。
「勇者の木柳さんなら、封印を解除できる可能性があるんですね?」
金髪のツインテールがふわりと縦に揺れた。同時に胸もぽいんぽいんと。
「説あるコアトル」
支配の王錫を探すこの旅を完遂できるのは、勇者をおいて他にいないわけだ。
手を繋いだまま木漏れ日の道を行く。
丘陵地帯を抜けて振り返ると、もう王城がずいぶん小さくなった。
「普段は歩くことなんてあまり意識していませんでしたが、結構な距離を進めるものなんですね」
「うぇーい。マエセン運動不足の解消にちょうどいいんじゃん?」
「運動不足を気にする前に、魔族の襲撃で死なないようにしないといけませんね」
「それな」
「ところで、魔族以外に街の外や遺跡やダンジョンなどに危険はないのですか?」
「あーね、魔物とか?」
「やっぱり出るんですね。モンスター的なものが」
「あとオークとかゴブリンとか、どっちかというと魔族よりのオラオラ系? 山賊してるっぽい」
「なるほど」
「そーいうのあーしが倒しちゃうから、マエセンは自衛よろ~」
「私だって戦えますとも。剣だって買いましたし」
「あはっ! っぱ戦いたいんだ」
「君にばかり負担はかけられません」
「じゃ、遺跡行く前に次の町のあたりて、ちょっとレベらげいっとく?」
レベル上げ?
「ちなみに今の木柳さんはレベルがいくつくらいなのでしょう?」
「50から先、数えてないから教会いかないとわかんないかも」
レベル50ともなれば、割とどんなゲームでもクリアできるくらいだったりするものだ。
ゲームと異世界を混同するのは危険だが。
それに半年でポンポン上がるものなら、この世界のレベルの上限は999とか、ちょっとインフレしているのかもしれない。
一応、確認しておこう。
「ちなみに、私のレベルは……」
「1じゃね。常考」
近年のギャル語はネットミーム由来だけあって、ギャル美も知っているのか……常識的に考えての存在を。
はあ……やっぱり私はレベル1。レベル1の破壊スキル持ち。字面から強そうでいて弱い感がひしひしと伝わってくる微妙さだ。
「あーしもセンセーのトレーニング付き合ってあげるから、がんばろね!」
「は、はい! よろしくお願いします木柳さん!」
「立場逆転してて草」
実際、そうなのだから文句もぐうの音も出ない。
「木柳さんも最初はスライムとか、序盤の雑魚モンスターと戦って強くなったんですか?」
「あーね、そんな感じ。王都の辺りは強い魔物出ないし」
「少しほっとしました。良かった。これなら少し時間をかけて、力を蓄えてから遺跡に挑戦できますね」
安堵したところで――
手を繋いで並んで歩く我々の前に、背の高い人影が立ち塞がった。
身長は頭の両脇からにょっきり生えた角も含めれば二メートル越え。
分厚い大胸筋と六つに割れた腹筋は紫色で、どことなく金属質の光沢を讃えていた。
両肩部には鬼面のついたいかついアーマー。顔にはドクロをモチーフにした厳つい仮面がはまっている。
赤く光る眼光。外ハネ気味の白いボサボサとした髪。
西洋風というよりも、日本風に見えた。
鬼――
鬼面の大男が腕組みしてこちらを見るなり、太く低い声を響かせる。
「ようやく見つけたぞ勇者よ。よくも同志を……滅神魔竜エクリプスを倒してくれたな」
空気が重たい。鬼の背から情念の黒い炎が揺らいで立ち上った。
「あんた、誰?」
ギャル美が私から手を離すと、剣の柄に手を掛ける。
今までに見たことが無い、少女の険しい表情だ。
鬼は言う。
「我は魔王インドーア。お主にはここで朽ち果ててもらうぞ!」
あれ? あれあれあれ? ちょっと聞いてないんですけどッ!
魔王って暗黒の島とかいう僻地に結界張って、出てこないんじゃなかったんですか!?
王都近辺でゆっくりレベル上げしてから、異世界攻略を開始するという私とギャル美の計画が破綻した。
秒で。




