10.ギャル美と街道
私のスキル「破壊」のまとめ。
1.左手で直接触れる必要がある。
2.発動は意識的にオンオフ可能だが、緊張したり驚いたりすると暴発する。
3.生物は破壊できない。なお、どこまでを生物とするかは光の神の判断によるかもしれない。
まず破壊する対象に触れなければならない。現状、最大で一立方メートルほどを破壊可能。とっさに穴を掘って塹壕を掘るなどはできそうである。破壊されたものは消失し、どこにいってしまったか不明となる。
ちなみに、騎士少女の持つ不滅のルーンセイバーは柄だけになり、彼女の銀の鎧の胸当ても消滅した。ものの、ギャル美のスカートは十分ほどで再生している。
どうやら光の神の加護がかかったものは、再生するようである。
次に、現状で把握できている明確な問題点について。この破壊スキルは、私の心理状態によって暴発する。
今まで以上に平常心を保ち、誘惑にドキドキハラハラわくわくせず、紳士でいなければならない。
よって、左手に楯を持ったり武器を手にすると、うっかり破壊してしまう危険性があった。
最後の条件について検証もしている。鶏には効かなかったが鶏肉は消滅した。生物と食材の間には、超えられない壁があったようだ。
今後、線引きがどこでされるか要検証である。
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私とギャル美は王都を旅立った。
一応、国を救う旅である。支度金が用意され、私は護身用の剣を購入した。鎧だのなんだのもあったのだが、防具屋の見立てスキルによると、私やギャル美の勝負服は、一般流通している防具類とは比べものにならないくらい、高品質らしい。
光の神の加護により、自己再生までするというおまけ付きだ。蝶……もとい超未来のナノマシン技術でも転用されてるんですかね?
で、私は仕事用の背負い鞄を購入した。外見では30リットル程度の大きめなリュックサイズだが、魔法が付与されていて10倍はモノが入り、中身の重さは十分の一になるという優れもの。
ゲームで便利な、なんでも入る「ふくろ」の実物に、ちょっと感動してしまった。
とりあえず、与えられた軍資金で回復ポーションだの手投げ式の爆発壺だの、毒消しやらなんやら、旅の役に立ちそうなものを買いそろえて入れてある。
怖いのは、この魔法の背負い袋を左手で扱って、うっかり破壊してしまうこと。
所持品全滅の危険性がある。おちおち財布も持てないので、そちらはギャル美に預かってもらった。
やっぱりピーキーすぎる。この左手。ギャル美のスキルがギャルなのに、なんでごく普通の私のスキルが破壊なのか、何度でも首を傾げて寝違える自信がある。
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王都を囲む城門を抜け、外に出る。
緑の平原と穀倉地帯が広がった。果てしなく広がる世界。オープンワールド実写版だ。
「馬車とか用意してもらえないんですね」
「マエセン馬車運転できる?」
「普通自動車運転免許ならマニュアルで取ってますが、馬車はちょっと」
「じゃ、なしよりのなしで。ほら、運転する人とか馬とか、危なくなったら危ないし……って、あーしの語彙力草」
危なくなったら危ない……か。
勇者は何かと魔族に目を付けられてケンカを売られがち。
ギャル美は、一般人を巻き込みたくないのだ。私も少し、その気持ちがわかる。
某有名ヒーローのテーマソングを思い出す。友達と言えるのは愛と勇気のみ。
自分自身がいかに傷つこうと、戦い続ける孤高の存在。
しかも、お腹が空いていればたとえ敵だろうと、身を切って与えてしまうような善の化身。
平和な暮らしから一転、異世界に召喚されて、危険と隣り合わせな状況になった今だからこそ、子供の頃には気づかなかった、あの人の真の強さに気づいてしまった。
「マエセンなんかぼーっとしてない?」
「え? あっ……すみません。ちょっと考え事をしていました。大丈夫です。さあ、まずは最初の宿場を目指しましょう!」
私のスキル鑑定と能力確認を終えて、スキルの確認と必要な品の買いだし。遅い昼食を軽めに摂って、午後二時から出発という中途半端さだった。
それでも街道を行けば、徒歩でも最初の宿場に日暮れ頃には到着できる。
「うんうん! 行こ行こ! 調子出てきたじゃん♪ センセーとならテクるの楽しいし」
テクテク歩くからテクる……と、ギャル美の語録には今では耳にしないようなギャル語も結構含まれている。
所謂死語かもしれないが、彼女曰く「温故知新? 一周回って新しい? みたいな」とのことだ。
まあ、本人が気に入っているのなら、私がどうこう言うことでもないな。
並んで整備されたエーテルヴェイ街道を行く。
「私の左隣を歩くのは、危ないかもしれませんよ。左手が狂暴ですから」
「あーね、けどこっちがなんかしっくりくるし。それに手……握っちゃえばいいじゃん」
私の左手をギャル美の右手がキュッと握った。温かくてすべすべで柔らかい。
「少し……恥ずかしいのですが」
「センセーって彼女いないん?」
「い、いますよ?」
「二次元かなぁ? 三次元かなぁ?」
「お見通しやめてください」
「あーしがなってあげよっか?」
「お、大人をからかうものではありません」
「あっはっはあはーっ♪」
「笑うなんて少し酷いですよ木柳さん」
「ごめんて。じゃ恋人じゃないけどけど、こうしてればほら、間違ってスキルで荷物とか全ロスしないじゃん」
七つも年下の女の子と手を繋いで歩くのは……現実世界なら即アウトだ。
鎮まれ。鎮まれ私の中の獣よ! なんだろか、こっちに来てずっと魔物でも魔族でもなく、私は自分自身としか戦っていない気がしてならない。




