第六話 坂本、百々花の想定を超える
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百々花は広大な飛行場をキョロキョロと見渡した。
「それで、私の乗る飛行機はどちら?」
「あちらの飛行機でございます」
百々花は、坂本の手が指し示す方向に目を向けた。
そして、百々花は坂本の示した方向の飛行機を二度見する。
「あちらの飛行機って……え?」
「はい、あちらでございます」
何とも2人の会話が噛み合わない。
百々花は視線の先にある想定外の結果に、思考が一瞬停止してしまったようだ。
「あちらって、まさか……」
「まさか……でございますか。はて、何でございましょう? 不手際でもございましたでしょうか」
坂本は、百々花が何故動揺しているのかわからないようだった。何か自分に落ち度でもあったのだろうか。坂本は困惑する。
――いや、私は百々花お嬢様のために全力をつくして準備をしたはずだ。
――落ち度なんてあるはずがない。
坂本は1人ウンウンと頷く。
「坂本、あなたは何を頷いているのですか?! 意味が分からない。一体、私は何を見せられている訳?」
「何と申しましても、百々花様が搭乗する飛行機ですが何かご不満でも?」
坂本は全力をつくして飛行機を手配した。
坂本の全力。
彼が百々花に指し示した方向には、一機のジャンボジェット機が静かに佇んでいる。
それは、大型連休などでファミリー等の大人数が搭乗するジャンボジェット機と同等の飛行機であった。
百々花は、坂本が何か勘違いしているのではないかと疑った。千切れるくらいに首をブンブン振る百々花。
「いやいやいや。まさかとは思うけれど、私1人のために大型機を使うなんてことは無いわよね。あのサイズだと余裕で300人は乗れますわ!」
「百々花お嬢様のご察しの通り、あちらの大型機にご搭乗頂きます」
坂本は、やっと自分の気持ちが伝わったと安堵の表情を見せた。
――良かった。
ちなみに坂本が言う百々花搭乗予定の大型機は、この飛行場の中で一番大きいサイズである。
当初百々花は、飛行機と言っても、プロペラのセスナ機くらいだろうと考えていた。父親もセスナ機程度であれば、嫌々ながらも了承する可能性があるかもしれないと。
だがしかし、坂本が用意したのは大型ジェット機だ。万が一にも父親から承諾を得られる訳がない。
しかも交渉相手は、今日着任したばかりの執事である。見ず知らずの若僧が、大型飛行機を使わせてくれと言われて相手にする訳がない。
そもそも一端の執事から、父親にアポイントを取ること自体、不可能である。門前払いされて当然である。
万一、父親に打診できたとしても、飛行機を使用する理由が、「百々花が学校に遅刻しそうだから」である。
有り得ない。
この遅刻……「てへぺろ」レベルの理由で、父が大型ジェット機の利用を承諾するなんて有り得ない。
大体、大型ジェット機のレンタルなんて億を超すレベルの金が動くだろう。
これには流石の百々花も狼狽する。
「ええっ?! ちょっと……ちょっと待って頂戴。いくら何でも私1人にジャンボジェット機なんて有り得ないですわ。小型機があるでしょう」
「いえ、鬼龍院財閥のご令嬢たる者が、狭苦しい小型機にご搭乗するなんて有り得ません……と言う訳で、それに見合う大型機をご用意させて頂きました」
それに見合う……
小型機とは言え、飛行機だ。
自家用セスナ機を自分専用に所有する時点で令嬢合格では無いのだろうか。
百々花は思った。
――毎日リムジンで登校している時点で満足していた私は、自意識過剰ならぬ無意識過剰なのか?
そもそも、この短時間でジャンボジェット機を用意したこと自体、有り得ない。
「ご用意って……そんな簡単なものじゃないでしょう」
「朝にジェット機を手配いたしましたところ、幸運にもジャンボ機のみ購入可能でございました。私も一安心でございます」
「一安心って、私しか乗らないジャンボ機なんて、落ち着かないにもほどがありますわ」
「そこは、ご心配に及びません。百々花お嬢様が過ごしやすいように内装には、こだわっております」
坂本は、百々花の言う”落ち着かない”の意味を取り違えているようだ。まだ内装のことなんて、何も言っていない。
って、おいおい。
大型ジェット機だけでも大変なことなのに内装もだと?
「内装……?」
「はい。プール、ジャクジー、サウナ、プレイングルーム、シネマ、カジノバーなど、お嬢様にゆっくりとくつろいで頂ける空間をご用意しております」
こらこら。
飛行機で世界一周の旅でもすると言うのか。
多く見積もっても登校に要する飛行時間は数分だ。全ての設備を見て回ること自体、不可能である。
「ただの通学に、そんな施設いらないですわ! それに、飛行機だったら数分で学校に着くでしょうに」
「百々花様のご認識通りでございます。ですので、夏休みなど、ご友人とバカンスに行かれる際にジャンボジェット機をご利用いただけたら幸いでございます」
ご友人……
百々花と旅行に行く友人なんて、指折り数えるほどである。
百々花の友好関係は広く浅くと言うよりは、狭く深くのタイプである。
いや、遠回しに表現してみたが、一言でいえば、友達なんか居ない。である。
とは言え、百々花が一緒に旅行へ行きたい人が誰もいないと言う訳でも無いのだが……
――零様っ!!
一人思い当たったようだ。
百々花の顔が見る見るうちに赤くなる。
「そ、そうですわね」
百々花は、足の先で地面をクルクルと描き出した。
一体、何を考えているのだ。2人きりのバカンスでも想像しているのか?
坂本は百々花の様子を気にせず、飛行機の構想について語りだした。
「また、有事のために戦闘機とも思いましたが、可憐なお嬢様には似つかわしくないため候補から除外いたしました」
「戦闘機?! 一体、何と戦うのですの?!」
「万が一のことがございますから。ですが、ご安心ください。百々花お嬢様用にジャンボジェット機の両翼にミサイル発射オプションを搭載しております」
「そんな物騒なっ!」
「いえ、お嬢様の身に何かあったら一大事でございますから」
ここまで来たら、百々花のためと言うよりは、坂本の趣味が最優先されている様にも思える。
百々花は、坂本の奇想天外で強引な計画遂行力に逆らう気力をなくすのだった。
「はあ……もう買ってしまったから仕方ないけれど、今後、高額なものを購入する際には、私にも相談して頂戴」
「承知いたしました。ご理解ありがとうございます」
深々を頭を下げる坂本。
下を向く坂本の顔は見えないが、ニヤリと笑ったようにも思えた。
反して、百々花の溜息は止まらない。
「はあ、こんな滅茶苦茶な執事初めてですわ」
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
「いや、誉めてないですわ!」
坂本は、聞こえていなかったのか百々花の言葉をスルーして、飛行機内に誘導する。
「では、早速、お乗りください」
「はあ……わかった。わかったわよ」
百々花は坂本のエスコートに従い飛行機に搭乗するのであった。
次回、いよいよ飛行機が飛びます!