第四話 百々花専用ジェット機
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今、この男、何と言った?
飛行機と聞こえたのだが、まさか。
いやいや、そんな訳が無い。
確かに鬼龍院財閥の飛行場は、飛行機の2,3機くらい余裕で止めることが出来るし、もちろん、離陸も可能だ。
だがしかし、百々花の通う慶蘭女子高等学校には、もちろん飛行場なんて無いし、飛行機1機すら止めることは不可能だ。
そもそも飛行場のある学校なんて、聞いたことがない。
それが故に百々花は坂本の突拍子もない提案に目を丸くする。
「え?! あなたは何を言ってますの? 意味が分からないですわ」
「失礼いたしました。では、改めて申し上げます。飛行場に自家用ジェットを通学用に、ご用意いたしております」
「じ、自家用ジェット? まさか! あの飛行機は、お父様専用で私が乗るにしても許可が居るはずですわ……そしてお父様は今、海外に出張中。許可なんて貰えるわけがないですわ」
そう、確かに鬼龍院財閥には自家用ジェットを数機所有している。だがしかし、百々花の言う通り、そう気軽に乗れる訳ではない。百々花は年に数回、旅行の時など父親が同乗する場合のみ自家用ジェットを利用しているのだ。
一執事、しかも本日配属されたばかりの執事に、鬼龍院財閥の自家用ジェット機を百々花用に用意するなんてこと、土台無理な話だ。
しかし、坂本は百々花に向けて、そんな事実は無かったかのように、余裕の笑みを浮かべる。
「ご心配には及びません。そこは大丈夫でございます。既にご主人様には自家用ジェットの利用をご了承頂いておりますので」
「え、えええ? まさか、あなたが、さっき言っていた緊急な所用って……」
「さすがお嬢様。ご明察通りでございます。自家用ジェットの手配に時間がかかり、お嬢様の元に参るのが遅れてしまいました。改めてお詫び申し上げます」
「そ、そんなこと出来るわけがないですわ。そんな要望通る訳がない。あのジェット機は、お父様専用。お父様が乗らない限り飛ぶわけがないですわ」
百々花は、自分に言い聞かせるように呟いた。そうなのだ、百々花が恐れるほどに鬼龍院は厳格なのだ。
他方、坂本は、何事もなかったかのように淡々と話を進める。
「また、ご参考として、今回ご搭乗頂く自家用ジェットですが、ご主人様用では無く、新しくお嬢様用に取り寄せたものです」
「えええ?! 私用っ?! そんなことある訳がないですわ!」
「いえ。間違いなく百々花お嬢様専用のジェット機になります」
「それにしても良くジェット機の購入許可がおりましたわね(私用のジェット機なんて、この執事、初日からやることが滅茶苦茶ですわ)。この私が直接お父様にお願いしても中々許可がおりなませんのに」
百々花は、ため息をついた。
百々花は、過去に何回も父親に飛行機を買って欲しいとねだっていたが、ことごとく交渉は決裂していた。
なのに、この執事……何者だ。
それでも、百々花は何点か腑に落ちないところはあるが、坂本の言葉に嘘偽りはないことを信じたようだ。百々花専用のジェット機を一執事の坂本が準備出来たことを。
それにしても、どうやって父親を説得したのだろうか。
「そこはお任せください。旦那様に許可を頂く算段は心得ております」
「そ、そうなの。それは良かったですわ(こ、これって絶対、坂本が、お父様の弱みを握っているってことよね。恐ろしい男……)。」
「では、お時間もござませんので早速、飛行場までご足労をお願いいたします」
「……わかりましたわ」
坂本は、百々花の前に立ち、エスコートをする。
敷地内にある飛行場と言っても、歩いて行くには遠い場所にあるので、自動車での移動となる。
「でも離陸はウチの飛行場があるから良いとして、学校に着陸用の飛行場なんてあったかしら? 飛び立てても着陸できなかったら、意味がないですわ。まさか、この私にパラシュートで着地しろとか言わないでしょうね」
「まさか。大事なお嬢様を危険をさらす訳がございません」
「だって?! 学校に飛行場なんて無かったはずですわ!」
思わず声を荒げる百々花。
百々花の指摘も最もである。
学校の所在地は東京都内カーストでも上位の東京都港区。いくら鬼龍院財閥の財力をもってしても飛行場を建築する土地自体がないのである。
そう、学校近くに飛行場を作るほどの土地は存在しない。無い袖は振れないのである。
ところが、坂本は百々花の指摘が的外れであるかのように首を捻った。
「承知しております。ですから、学校の周囲の土地を買収し着陸用の飛行場を準備いたしました」
「嘘も体外にしなさい。学校の周りに一朝一夕で買収できる土地なんてある訳がないですわ!」
正論である。
いつも百々花は、相手にマウントを取るためなら、手段を選ばないし、もちろん数多くの嘘もついてきた。が、今回に関しては、どんな手段、嘘をついたって、短期間で飛行場を作ることは不可能であった。
だって、学校周辺に買収する土地が余っていることなど、絶対に有り得ないのだから。
「嘘ではございません。この私が百々花様に嘘などつく訳がございません」
「そ、そこまで言うなら良いですわ。現地に着けば一目瞭然ですもの」
「はい。百々花お嬢様の仰る通りでございます。さ、お嬢様。飛行場までは車で移動いたしますので、お乗りください」
「え、ええ……わかりましたわ」
坂本の言葉に百々花は、納得せざるを得なかった。
もし、坂本が嘘をついているならば、百々花を鬼龍院の飛行場に案内することなんて有り得ない。
仮に飛行場に着いた後に、”嘘でした”となれば、坂本は即刻クビである。そして百々花も遅刻確定だ。
坂本は、そんな無意味なリスクを冒してまで、飛行機に乗ることを提案する訳がない。
百々花は坂本の考えていることが到底理解できなかった。今まで、こんなことは無い。
だって、今まで執事のことを理解するまでも無く、自分の考えを押し付けるだけ、従わなければ即刻クビにすれば良いだけのことだったのだから。
――全く、何ですの?
思い通りに事が進まず、百々花のフラストレーションは溜まる一歩だった。
坂本は、百々花の想いを知ってか知らずか、平然と自動車左後部座席のドアを開けて百々花のことをエスコートした。