第三話 坂本、落ち度を認める
改めて坂本は、百々花に所用の内容を尋ねる。
「ところで、百々花様の御用とは何でございましょう?」
「それはね? まず、あなたが遅れたせいで、学校に遅刻しそう。と言うこと。わかりますわね?」
「はい。それは私の落ち度でございます。誠に申し訳ございません」
「ふんっ。まあいいわ。それで、もちろん車の用意は済んでいるのでしょうね?」
いやはや、百々花は学校に遅刻する責任を全て坂本に押し付けているのだ。
そもそも百々花自身、坂本へのしつこい追及で、時間を要していることは事実なのに、だ。
それにも関わらず、坂本は特に反論もせず素直に百々花へ詫びを入れる。
そう、坂本は、ハッキリと百々花に詫びを入れたのだ。
「誠に申し訳ございません。車のご用意はございません」
……え?
詫びって、そっち!?
坂本は、百々花が自分のせいで学校に遅れそうなことを詫びるのではなく、配車出来ないことに対する詫びを入れた。
それも今日配属されたばかりの執事が、だ。
いつもの百々花なら即刻クビである。配属10分でクビである。言い訳を聞かずにクビである。
とは言うものの、鬼龍院財閥の力を持ってすれば、車1台の準備くらい坂本ならずとも誰でも電話1本、数秒で配車出来るはずだ。
何故だ?
当然、百々花も同じことを考えていた。それを証拠に百々花は坂本に向かって再び激怒する。
「えっ、どう言うことですの?! いくら配属初日と言っても、これは毎日のことでしょう。30秒以内にエントランスに車を横付けするよう調整しなさい! 私の名前を出してもいいですわ。鬼龍院の執事たるもの、それくらいのことは出来るのは当たり前よ!」
超怒っている。激怒っている。
悪役令嬢の独壇場だ。自分の指示を反故にした坂本を百々花が許す訳がない。
百々花の勢いに、流石の坂本も押されている。
「え、そ、それは……」
「何(ふふふ……流石にここはビビってますわね。もう一押しですわ)? まーさーか、この私の指示を聞けないとでも言いますの?」
「とんでもございません。ですが、車を30秒でエントランスに準備することは不可能でございます」
「不可能ですって……!? 何ですの、この私に逆らう気!?」
「いえ、滅相もございません」
即答だ。坂本も逆らう気は無いらしい。
が、何故、坂本は車を準備できないと頑なに言うのだろうか……?
百々花は納得がいかない様子で、更に坂本に問い詰める。
「じゃあ、何ですの? この私が学校に遅刻しても良いとでも? この私が」
「とんでもございません。お嬢様のことを遅刻させるなんてことは、鬼龍院財閥の執事として許されることではございません」
「は? じゃあ、どうするの?!」
これでは堂々巡りだ。
坂本が何を考えているのかわからない。更に、更に百々花は、坂本を追い詰めた。
百々花に押され気味の坂本は、言いにくそうに口を開く。
「そ、それは……」
「それは? (あらあら、流石にビビって声も出ないみたいね。この執事も今日までね)」
「車でなければ、いけませんでしょうか?」
「え、え、どういうこと? まーさーか。この私に歩いて学校まで行けってこと? そもそも車でも時間ギリギリなのに歩いて通学なんて、どう考えても遅刻だわ!」
「いえ、お嬢様に徒歩通学を強いることは決してございません」
百々花と坂本の会話が、壊れた歯車のように全く嚙み合わない。
ようやく坂本は場の空気を読み、百々花に彼の考える代替案を提示する。
「ご安心ください。恐れながら代わりの手段をご用意しております」
「え、車でも徒歩でもないって、あと何があるのですの?」
「そ、それは、誠にお手数ではございますが、お嬢様にご足労をお許し頂きたく」
坂本は、何が言いたいのかをハッキリと言わずに歯切れ悪く話した。そして、その坂本の言動が百々花の怒りを更に増幅させる。
「何ですの?! 回りくどいですわね。学校に遅刻しなければ何でも良いわ」
「ご了承頂きありがとうございます」
「だから何よ! さっきから、あなたの回りくどい言い方がイライラするのよ! 結論を先に言いなさい!」
「申し訳ございません。承知いたしました。それでは申し上げます」
――フフッ
怒る百々花に、坂本は少し微笑んだように見えた。もっと言えば、ほくそ笑んだようにも見える。
そして、坂本は一息ついた後に言った。
「お嬢様には飛行機にて通学していただきます」
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