第一話 離職率99.9%
――山崎! 山崎?! 山崎はどこ?!
ここは名も高き鬼龍院財閥。総資産500兆円、五大財閥の一角「鬼龍院グループ」の本家本元である。
その敷地は、すごく広い。ものすごく広い。語彙力を無くすくらいには広い敷地なのである。
語彙力を無くすとか言い訳してないでググレカス。読者からの声が聞こえそうだ。
――ごもっともである。
いやいやいや、ちょ、ちょっと待ってくれ。「察し」とか言って、そっと閉じるな。待て。せめて言い訳させてくれ。まぁ落ち着け、どうどうどう。
余談だが、「グーグルで調べろカス」を、略してググレカス。
これで、もし流行りの検索エンジンが、Googleから、AIのchatGPTに置き換わった時、どの様に略されるだろうか。
chatGPT、チャットジーピーティで調べろカスが。
略して、チャピレカス? それともジピレカス?
……すまん、悪かった。
ちょっと背伸びしてウィットなことを言ってみたかっただけなのだ。もし、本ノベルを読む頃にchatGPTが風化してたらごめんなさい。
と、反省して話を戻そう。なんだっけ?
そうそう、敷地が、すごい広い。と表現したことによる語彙力低下の言い訳の話だった。
すごい、この残念な表現を使わざるを得ない状況には深い理由がある。
その敷地の広さをあえて例えたら、東京ディズニーランドの数十倍を有する。この広大すぎる敷地に対して比喩的な表現を使うことが、もはや馬鹿らしいのである。大体、元となった東京ディズニーランドの広さだって知ってる読者自体、殆どいないだろう。
そう、だからシンプルな表現、すごいで現したのだ。すごいで十分である。ごいすーでも良い。もっと言えばゴイゴイスーもアリだ。
それにしたって、私も具体例を使った表現もできるじゃないか。ディズニーランド。やればできるじゃないか。ありがとうchatGPT。
その広さ故、その昔、令嬢が友達と敷地内で かくれんぼ遊びをした時に、友達の1人が敷地内で行方不明になり自衛隊が出動したという伝説がある。その際の出来事は全国ネットの報道番組で大々的に放送されたことがあるので、心当たりがある人も居るのではないだろうか。
余談でした。
申し訳ない、敷地の話題だけで600字足らず使ってしまった。原稿用紙1枚分、宿題の読書感想文に使った方が有意義に違いない。
前述のとおり、敷地はアホほど広く大きい。
反して、屋敷の住人は、令嬢と執事、メイドである。
使用人は、執事、メイド合わせて数十人、つまり2桁である。敷地が東京ディズニーランド数十倍に対して、使用人は2桁、最大99人。
数字だけで99人と聞くと多そうだが、敷地の広さを鑑みると圧倒的に少ないと言わざるを得ない。子供のころに歌った友達100人できないのである。これは悲しい。
ちなみに、毎年の採用人数は1万人をくだらない。よって毎年、新規で1万人の使用人を雇っているにも関わらず、実際に現在進行形で働いている使用人は、最大99人。採用人数のうち、0.1%しか生き残れない過酷な環境と言うことになる。
逆に考えると、年間離職率99.9%、半端なく離職率が高い職場、ブラック企業、黒以上に黒、真っ黒の職場と言い切って良いだろう。
そして、この離職率を弾き出している理由が、敷地の広さだけであれば良いのだが……
……おっと。また余談が長くなってしまったようだ。
再び話を戻そう。
鬼龍院財閥の令嬢は、執事を探していた。広い屋敷で1人の使用人を探すのも大変である。
「……あ、そうか。山崎は昨日やめたんだっけ。ホント役に立たない」
令嬢は、ため息をついた。
って、え?
サラっと凄いことを言ってないか?
私の記憶が正しければ、執事の山崎は、3日前に鳴り物入りで執事長として雇われたばかりである。確か、あらゆる富豪の執事を経験済で、本人曰く世界名だたる鬼龍院財閥の執事に携わりたいと前のめりで入ってきたことは記憶に新しい。
その山崎がやめた……だと?
なんて言ってみたものの、理由は至って明確である。
令嬢のワガママで並外れた傲慢な性格、言動に耐えられなかった。と言うのが、山崎辞職、いや、ほとんどの使用人辞職の原因であろう。山崎のプライドはズタボロに違いない。今後の仕事でトラウマにならなければ良いのだが。
それ故、使用人の殆どは、即日、長くて3日で依願退職する。
前述に対して、3日以上勤めることができれば、優秀、または、最強に我慢強い使用人と言い切れる。
さて、執事長の山崎が居ないことを思い出した令嬢は、検索範囲を広めて再び使用人を探す。
「誰か?! 誰かいないの?!」
「はい。お待たせいたしました」
令嬢の呼びかけに応じる形で、昨日、採用されたばかりで、今日が初出勤の燕尾服を着た被害者……いや、執事が現れた。