ランチタイム
留土羅と本宮にも大切にしている事があった。どんなに忙しくても、ランチは一緒に食べると言う事はやっていた。これはどちらが提案したと言う事では無く、自然のなり行きでそうなった。付き合う前からよく二人で昼食をとって来たが、それが習慣として定着しているとは思ってもみなかった訳である。
しかしながら、会社に来ていると言う事は、そこまで大きな会社ではない為、二人は自然と顔を合わせる。取材・出張があれば、その限りではないが、新人の彼等には社外に出る事はまず無い。昼食をとって毎日のコミュニケーションをとると言う事は、学生時代からの名残かもしれない。大きく成長しても、基本的には男女混じりあっての昼食である。
誰と何を食べるかは個人の自由である。スマホが普及した今でも、対面で交わすコミュニケーションに勝る方法は無い。相手の目を見て、自分の気持ちを伝える。それこそが最大の意思伝達手段と言う訳である。1日のたった30分対面でコミュニケーションを交わす。それだけで、形式ばったデート等していなくても、付き合っていると言う実感を持てた訳である。
いい大人しかいないため、学生食堂のようにちゃかしてくる様な輩もいない。同期同士の愛は別に誰からも妬まれない。安月給の彼等は毎日外食に行けるはずもなく、交代で弁当を作りあったりもした。料理の腕に自身が無くとも、それでも留土羅や本宮は弁当位は作れた。
独り暮らしをする者には、必須のスキルであった。二人にとって、昼食は関係構築の為には欠かす事の出来ない時間であった事に間違いはない。そうやって、いるからこそ続いている関係とも言えた。それでも留土羅は仕事の合間を見て、デートをしなくてはならないと、その必要性をひしひしと感じていた。
それでもやはり、仕事は慣れれば慣れる程忙しくなるものであり、思う様に時間の融通は利かなかった。上司からの配慮などあるはずもなく、期待はあてになら無かった。亜細亜出版の屋台骨は留土羅や本宮修子の様な新人であり、彼等無しでは回らなかった。とは言え法律は守らなければならない。最低限の休みは与えるから、四の五の言わず働け!それが会社側の偽らざる所であった。




