第2部・第3章上司とのロマンス?
ひかるが留土羅を狙っていた事もさる事ながら、留土羅自身はひかるの事について上司と言う以上の感情を持ち合わせていなかった。
ちひろとの別れをまだ引きずっていたのだろう。顔はドイツ人だが留土羅は日本語しか話せない日本人である。だから、好みも必然的に日本人と言う事になる。ドイツ人がドイツ人を愛でる様に、日本人が日本人を愛でるのは当たり前の事である。勿論、国際結婚も珍しくない昨今ではどんな人種間でも、結婚の可能性はある。
話がそれてしまったが、留土羅が好きなのは日本人である。ただ、ひかるは残念ながら留土羅の好みのタイプでは無かった。ちひろとの恋愛は比較的両想いに近い形であったが、もし仮にひかると留土羅が付き合う事になった場合、留土羅は受け身の逆片想いと言う様な、留土羅はあまり好きじゃないが、ひかるは留土羅を好きだと言う構図になる。
一言で言えば、ひかるの片想いである。亜細亜出版は社内恋愛を禁止していないので、別に気兼ねなく誰が誰を好きになったとしても、やましい事は何も無い。ただ、世間一般の感覚から言うと上司が部下に恋をするのは、冒険に近いものがある。逆に部下が上司を好きになるのも、冒険に近い。対等な職場での地位だからこそ、成り立つのが職場での恋愛であると言うのは、誰もが納得する所であろう。
あまりに年の離れた上司が部下を好きになるのは、不倫や禁断の愛なのかもしれないが、その逆ならば体を売って出世したいでもしたいのかと、周りから受け止められなくも無い。幸いにして、ひかると留土羅は上司と部下の関係ではあるが、年齢はあまり離れていない。
とは言え、やはり社内恋愛の最大の敵は周囲仲間の眼である。そこにどう折り合いをつけるかによって、地位に差のある二人が男女として成功出来るかが懸かっている。亜細亜出版の様な小さな会社であればそんな情報は、たちどころに噂となって駆け巡る。留土羅にとって、そんな事は想定内ではあるだろう。
上司とのロマンスが、留土羅の成長になるかは別にして、これは一種のチャンスであった。よこしまな考えが無いからこそ上手く行く事もある。そして何よりもひかるが留土羅を想う気持ちには嘘や偽りや、打算的な駆け引き等は一切無かった。そして、遂にひかるは業務終了後に勇気を出して留土羅を飲みに誘った。




