飲み会の雑用
次の恋に向かう為のきっかけは案の定身近に転がっていた。付き合っている人のいない者は自然と飲み会の席でもひとかたまりに成る事は不思議ではない。亜細亜出版は大手の出版会社の様に文学部出身の所謂文学畑の人材は少ない。
世間一般の認識では、文学部出身の大学生と言うのは、オタク・変わり者のイメージが強いが、確かに文学畑の人間は多かった。しかし、亜細亜出版の社員の多くは文学部出身でも、割りとオーソドックスな頭脳明晰タイプが多く、そのほとんどが体育会系のノリであった。その為、飲み会は週に2、3回と非常に多く、サラリーマンとしては収入に占める飲み会の出費は多かった。
留土羅の様な新人社員は基本全員参加。幹事から泥酔した先輩の世話まで雑用をさせられるのが亜細亜出版の伝統であった。とは言え、二次会のカラオケは御褒美として奢って貰えるため、一次会の雑用に耐えられた訳である。
しかし、今年は違う。一次会の雑用が留土羅一人に集中したのである。例年ならローテーションが決められ、新人同士で力を合わせるのであるが、今年は留土羅一択だった。理由は2つある。一つは、軒並み新人が飲み会に参加しない事。もう一つは、留土羅の評判が良くなかった事である。
「あいつは媚を売っている。」
「雑用に必死なのは只のゴマスリ。」
みたいな陰口を叩かれながらも、留土羅は気にしなかった。しかし飲み会で存在感を示すと、上司の評判はうなぎ登りに上がった。留土羅の打算的ではない所が上司から可愛がられる理由となった。そんな留土羅の事を評価していた一人の中に、次のロマンスを留土羅と共にするヒロインが隠れていようとは、留土羅は思っても見なかった。




