爽やかな別れ
ちひろは単刀直入に言った。
「留土羅?別れて欲しい。」
と。留土羅はさして驚いてはいなかった。
「ああ。そっか、分かった。」
運ばれて来る料理を食べながら沈黙の時間は続いた。
「好きな男でも出来た?」とか、「俺の何処がいけないのか?」と言う様な未練ありありの質問を留土羅は一切しなかった。二人の関係が徐々に冷え込んでいたのは他でもない事実である。互いに好きあっていてもすれ違う事はある。
「留土羅先輩は私より良い人が見つかると思います。」
彼女はそう言って留土羅をヨイショした。
「その言葉直接君に返すよ。」
ちひろははっきりとした性格の持ち主である。二人の未来を描けなくなったから別れを切り出したのである。社会人の恋愛として、それは致命的なものである。他に好きな男が出来たとか、自分の短所が見えたとか、そう言う事は社会人の恋においては重要ではない。社会人における男のステータスは仕事やルックスで決まる。女性はそう言う所に執着する。
残念ながら大人の恋はとてもシビアなものである。だが、ちひろは留土羅に社会的地位を求めてはいなかったが、付き合って行く中で価値観の相違が生じたのであった。留土羅も留土羅だ。学生気分がまるで抜けていない。それは多いに反省すべきである。
同じ20歳以上の恋愛とは言え、学生と社会人では、恋愛の性質が全く変わる。留土羅もそれは実感した。そして別れは後腐れの無い様にすると言う鉄則を守った。同じ会社でこれからも顔を合わせるからにはズルズル引きずる事は好ましくない。ちひろと留土羅は握手をして別れた。
そう、これで良かったのだ。目指す地点が違っただけなのだ。まだ二人が結ばれるには早熟過ぎたのだ。お互いにもっと成熟してから付き合っていれば、二人の未来はまた違ったのかもしれない。まぁ、IFは無いのであるが。ここで分かれるのが運命だったのであろう。
そしてこれからは良き先輩後輩である事を約束して爽やかに別れた。互いの人生において良い経験になったであろうって思いたかった。




