下手な鉄砲数打ちゃ当たる
当然だが、書店や百貨店・デパート等に営業をかけなくてはならない。デスクでカタカタとパソコンを、ペンをカリカリしていれば良いと言うのは、編集者に勤める人間に対する誤解である。そう言う作業をするのは、編集を司る編集長クラスの幹部社員であり、留土羅の様な末端のぺーぺー編集員は、足を使いネタをかき集めたりもする。会社の手となり足となるのが、新人編集員には求められる。
中でも営業は根気のいる作業であり、最も心血を注ぐ仕事であった。何せ0から自社の看板雑誌「デリ」についてプレゼンしなければならず、必ずしも目標数を納められるとは、限らないからだ。中小企業の亜細亜出版は大手出版社の様な信頼もないため、10店に1店目標数に達するのが関の山であった。マラソンに例えると、スタートラインにつくまでに全力疾走をしている様なものである。
つまり、スタート以前の問題であると言う訳だ。質の高い手頃な雑誌や本を作っても、カスタマーの目に届かなければ売れるはずもない。亜細亜出版は、営業力に頼って発行部数を伸ばしている。会社側もそれを理解しているから、留土羅の他に数人いる営業担当には、手厚い待遇で発行部数の維持に躍起になっていた。
あの手この手で、読者を確保する事で亜細亜出版は、大手出版社に次ぐ中堅出版社の名を得ていた。下手な鉄砲数打ちゃ当たる戦法で、「デリ」を全社員上げて売り込みをかけた。初めの1、2か月は低調な売り上げでも、3ヶ月位すると効果が出始める。それはこの出版業界では常識であった。裏を返せば、1年経過した時に成功していたのかが分かる。「デリ」は、まだ発行して5ヶ月だ。徐々に徐々にではあるが、売り上げは右肩上がりであった。
仕事仕事で1年目を終えようとしていた留土羅にも、浮いた話の一つや二つ起こるかもしれない。その位仕事に慣れてきた留土羅であった。まだ留土羅には恋は早いかも知れないが、彼も立派な大人の男である。




