アグレッシブファイター
結局、留土羅も本宮も亜細亜出版から内定を貰う事になった。話はトントン拍子だった。留土羅は文学部でもないし、雑誌作りをしたいと思っていた訳ではない。それでも内定が出たのは亜細亜出版のみで、他に行く宛も無いため惰性的ではあったが、入社を決めた。
そうした課程の中で亜細亜出版が、どういう仕事を生業としているのかを本格的に知ったのは入社式の後のオリエンテーションの時であった。同期は本宮をいれても5人だったが、新入社員の中で亜細亜出版の事を詳しく知っていたのは、本宮ただ一人であった。
オリエンテーションで、会社概要を本宮以外の4人は必死でメモを取る。しかし、本宮はそんな事は予習済みだと言わんばかりに、オリエンテーションで彼女は一度もメモを取らなかった。そんな様子からも、本宮と言う女性が用意周到な人間である事を同期は感じていた。今考えれば、本宮の様な人材こそが出版業界には向いているのだと思えた。
留土羅の様に形だけで入社した様な男とは、根底から違うのである。就職氷河期とは言え新入社員が10人以下の小規模出版会社である。全社員を合わせても、学校で言えば一クラス分(30~40人)程しかいない。そんな環境では、浮いた様な話や良からぬ話はインフルエンザウィルス並みの伝達スピードである。当然誰が使えて、誰が使えないかと言う様な話から日常のちょっとした事まで、新入社員と言うだけで格好の餌食である。
入社してからは、とにかく波風立たぬ様に静かに過ごしていた。そんな鳴りを潜める留土羅とはうって変わって、本宮は積極的であった。失敗を恐れぬその積極的な姿勢から、社内ではアグレッシブファイターと呼ばれた。アグレッシブファイター本宮修子は、社長の増澤も一目置く存在となっていた。留土羅はその時こう思った。出世争いでは絶対コイツには勝てないと。
しかし、留土羅の予想は大きく外れる事になる。同期で一番早く出世をするのは留土羅だった。その理由は実に面白い。堅実に無難に過ごして来た事が実った時であった。




