イケメンズアイ
世の中には1年間で数え切れない程の文章が本となり出版されている。大きな出版社であれば、売れない雑誌の一つや二つはある。
所が増澤社長の亜細亜出版はたった二つしか雑誌を出しておらず、売れませんでしたと言う訳にはいかない。ある日留土羅は社長室に呼ばれてこう言われた。
「まぁ、座りたまえ。君を呼んだのは他でもない。君の担当しているコーナーについて一点聞いておきたいと思ってな。」
(それはDERI亜細亜出版二強の一角を占める女性ファッション誌の事で、イケメンズアイと言う企画の事を社長は指摘してきた。)
上司である38歳の企画部長がイケメンを記事に入れれば購買力が上がるかも知れないと言う浅はかな作戦だったが、これが意外にもヒットしたのである。月に1万部売れれば上々と言われる出版業界において、一週間で10万部売れるようになったのは間違いなく、イケメンズアイの影響があった。
「何か悪い事しましたか?」
留土羅は緊張していた。それも無理はない。増澤社長と対面するのが初めてだったからだ。40歳とは思えないその迫力とスケールから社員は皆マスゴット(増澤+神)と呼んでいた。
「君の記事も中身もよく精査されていて良い。ただね。もう少しユーモアな感じかあるともっと素晴らしくなると思うんだよ?その線でもう少し頑張ってみて。」
「はい。」
と二つ返事をした留土羅だったが、増澤社長のアドバイスは留土羅にとっては、不可解なものであった。悪い所が無いのに何をあえて言う必要があるだろうか?しかもそのアドバイスは具体性にかけていると来たものだった。デスクのある二階に戻る頃には、ユーモアと言う言葉に振り回されている自分に気が付いた。あの38歳の企画部長は、例の如く増澤社長と同じ指示を留土羅に言い渡して来た。
結局留土羅はこれまでイケメンズアイの掲載されたデリをパラパラと眺める他に無かったのである。仕事に慣れてきた所でのマスゴットからの試練。まわりくどいやり方だが、マスゴットの指示は絶対であった。このモヤモヤを一人で解決出来ないと判断した留土羅は、直属の上長である寺川ひかる(25)に相談する事にした。そしてもう二人相談したい人達が、亜細亜出版にはいた。




