居心地
周囲のデートスポットはあらかた制覇した。と言うよりも、この市内には若者のテンションが上がる様な場所がない。
それでも青龍はデートプランを練るのが嫌いでは無かった。普通、こうした類いの事は女性の方が率先してがやりたがる事が多く、主導権は女性が握る事が普通だろう。
別に水菜美がそうした事をするのが、嫌いな訳ではない。自分がデートをの度に青龍がサプライズを仕掛けてくれるのを、楽しみにしていた位であるから、二人の間で暗黙の了解でもあったのであろう。
猛勉強の傍ら週末は勿論、平日の放課後もデートをした。皆がせっせと受験勉強や就活に励む中デートしていたのであるから、青龍も水菜美も随分余裕のある学生である。
まぁ、水菜美は別としても、青龍は進路が決まっていなかったから、デートばかりしている訳にはいかなかった。もう10月も終わろうとしているのに。当然、家に帰れば親には進路の事を聞かれる。しかし、いつも答えは同じであった。
「そのうち決まるって。」
今考えれば、よくもまぁ自分の大事な進路の事を親に聞かれて、そんな適当な返事をしていたかと思うと感心する。結局青龍の進路は翌春まで決まらない上に、二度三度もゴタゴタをする事になってしまう。冬が近づく11月になると、流石の水菜美も青龍の進路が決まっていない事を心配する様になっていた。
「青龍?私と遊んでる暇なんかあるの?」
自分を心配してくれるのはありがたいが、さながら母親とデートしている様な気分になってしまう。次第に居心地の悪い関係になってしまうのであるが、その事に青龍も水菜美も気付いてはいなかった。それでも青龍は水菜美を愛していた。
今更勉強したって、遅すぎるから、大学受験はあり得ない。かと言って専門学校に行く様な気持ちも無い。となると、残された選択肢は就職しかない。何も、今からやりたくない会社にアプローチするよりも、年明けにはやりたい事が定まって来るかも知れない。と、青龍は就職について楽観視していた。
毎日毎日つまらない授業。就職氷河期では無いためか、余計なゆとりが青龍にはあったのかも知れない。毎日つまらない授業の後、放課後は水菜美と過ごし、家に帰れば求人情報雑誌を眺める日々。そんな日々の連続であった。並の何の取り柄もない男子高校生にとっては、別に驚く様な生活では無かった。




