仮契約締結
若い二人の門出は未来への誓いでもある。どうしても譲れないものが、青龍と水菜美にはあった。それは物質的な事ではない。それは卒業式が終わった直後の学校において密かに交わされた。青龍は水菜美を見つけると、しっかり腕を掴んで学校の屋上の誰もいないスペースまで走って行った。
「青龍どうしたの?焦んなくとも時間あるでしょ?」
「今伝えたい事は今伝えなきゃいけないと思うんだ。退屈な卒業式の間に思い付いた事なんだけど、聞いてくれる?」
「あれだけ必死な顔つきで私をここまで連れて来たんだから、私にはそれをしっかり聞く権利があるわね。」
「大した事じゃないんだけどさ、約束して欲しい事があって…。」
「不可能じゃない約束なら交わしても良いけど?」
「これからどんな未来が待っていたとしても、変わらず俺を好きでいてくれる?その代わり俺も水菜美への変わらぬ愛を誓うからさ。」
「それ、何かプロポーズみたいだね?」
「不安で不安でしょうがないんだよね。そう言う約束してなきゃ水菜美が俺の方から離れてしまわないかって気持ち水菜美だって分かるだろ?」
「分からなくは無いわ。けど未来の事まで今の価値判断で決めるべきじゃない。そう言う考えるのは自然な事じゃないかな?」
「実際はそうだよな。俺に水菜美の未来の事まで決める権利なんか無い訳だし。」
「でも青龍がそう言う気持ちを持ってくれてるのを知れて嬉しいわ。」
「じゃあ、仮契約でも良いんだけどさ、このリングを左手の小指につけてくれないかな?ちゃんとサイズ合っていると思うけど。」
「何で左手の小指なの?」
「もう少しで左手の薬指に近付ける様にっていう願いを込めてさ。」
「いつ私の小指のサイズなんて測ったの?」
「いや、まぁそれはどうでも良いじゃないか?」
「分かった。美術部の時に作った手の像だ。」
「流石水菜美。鋭い洞察力だ。」
「その仮契約って解消出来るの?」
「まぁ、仮契約だからな。本契約になる様に頑張るしか無いんだけどね?」
「このリング結構高かったでしょ?」
「まぁ、それなりにね。バイト頑張った。」
とまぁ、タジタジの青龍ではあったが、水菜美への仮契約締結にこぎつけた。




