多感な時期
それからと言うもの青龍は授業が終わると、水菜美と近くの図書館に行った。勿論、勉強をする為である。野球部時代は本気で机の前に向かっていたのは、テストの前位のもので、当然の如く読書などした事など、ろくすっほ無かった。
黙々とペンを進める水菜美に対抗するかの様に、図書館で興味を持った本をこれでもかと読んだ。読書が好きになるとは思いもしなかったが、この時は本当に時間を消化する為のツールにしか過ぎなかった。進路が決まっていた訳ではないけれど、頑張って来た勉強も頭打ちで、青龍は就職にシフトしようとしていた。まぁ、無難な選択肢と言えた。この日は天気が良く川沿いを歩いた。
「君井君の事を何て読んだら良いかな?」
「何でも良いよ。野球部の奴等からは青龍って呼ばれてた。」
「私の事は水菜美って呼んで。私は青龍って呼ぶから。」
「まだ、付き合ってもいないのに、下の名前で呼び合うの?」
「青龍ってそう言う形にこだわる人間なの?」
「いや、そう言う訳じゃないけど、女の子に青龍って呼ばれるの初めてだからさ。」
「ところでさ、青龍はこれから進路どうするの?」
「俺は学力そんなにないし、大学に行く気持ちはない。」
「じゃあ就職するの?それともプロ野球選手にでもなるつもり?」
「それは無理だよ。自分が一番よく分かってる。」
「大学に行けば叶う夢かもしれないじゃない?」
「野球はもういいかな。そろそろ現実を見ないと。」
「見かけによらず、しっかり考えているじゃない。」
「でも、水菜美といるこの時間は好きだよ。」
「好きとか言わないでよ。照れるから。」
「ふふふ。」
「俺野球しかして来なかったから、嬉しいんだよね。」
「何が?」
「こう言うTHE青春みたいな感じ。」
「何それ(笑)。」
「後半年もしたら卒業だよ?青春も終わるんだぜ?あっという間だからさ。」
「もう戻れないからね。大事に過ごしたい。」
「私だって同じだよ?絵を描く位しか取り柄ないよ?」
「学年1位の秀才が何をおっしゃるのやら。」
「私は勉強だけは誰にも負けないわ。」
「それも充分な取り柄に入るのでは?」
高校生と言うものは人生で最も多感な時期である。




