ミカツェルリア王子の秘剣
戦いは膠着状態が続いていた。実力が均衡している者同士の戦いは、得てしてこうなる事が多いと言う。要は決定打が撃ち込めない為、体力が減るばかりでダメージは蓄積していないと言うあべこべ状態が発生してしまう事になってしまう。
剣と剣のぶつかり合う無機質な金属音だけが、響いて行く事になる。こうなって来ると、4戦目のミカツェルリア王子と1戦目のイグニート・ラングロスでは、イグニートの方が遥かに体力的に余裕がある事は明白である。
ミカツェルリア王子としては、とにかく早め早めに仕掛けて行く事をしていかなければ、勝機を逃してしまう事は分かりきっている事であった。ローレンディスを使用した秘剣三日月で勝負を決めようか、ミカツェルリア王子は迷った。この技は両刃の剣であり、三日月を使えばミカツェルリア王子もただでは済まされない。
とは言え、イグニート・ラングロスを一発で倒せる技は三日月しかなかった。ミカツェルリア王子は覚悟を決めた。ここで何もせずに敗れるよりは、全力を尽くして破れた方が良いだろうと言う頭がミカツェルリア王子にはあった。
三日月は一歩目の踏み込みが重要で、右から左へと切り下ろすただそれだけの技だが、助走をして勢いをつける。そうすることで、相手はただ間合いをとっているだけだと油断する。そこで三日月の様に美しい弧を描いて徐々に近付いて行く中で、もう一段ギアを入れ換える。それによりようやく相手が気付いた頃には時既に遅し。
イグニート・ラングロス程の手練れでも、秘剣三日月のメカニズムには気付けなかった。ミカツェルリア王子の秘剣三日月は決まった。イグニート・ラングロスの愛剣エーフルゴッチャッスの折れた刃が地面に突き刺さった。
ミカツェルリア王子は言う。
「この勝利により、嫁とり試練は終わった。しかし、我は憎しみをもって戦った訳ではない。武人として四人の豪傑と戦えた事を誇りに思う。これでもまだ不満か、ゴードゥロア国王?」
「っく。イグニート・ラングロスまで敗れるとは…。ならばこの私自ら…。」
「父上、往生際が悪いですよ?この試練はミカツェルリア王子の勝ちですわ。」
「キーティア?まさかこのミカツェルリアと…。」
「結婚するつもりですわ!」
ゴードゥロア国王は天を扇いだ。




