旅立つ前に
ミカツェルリア王子を少しでも知る者達にとっての心配事は、王子が21年間の人生で公務以外に長旅するという経験をしたことが一度もない事であった。公務でも長くて一週間。月単位はおろか年単位でハンロスド王国から出る機会はなかった。最も、ウェルガーやサンゴストと言った手練れが同行する為、ミカツェルリア王子も突拍子もないクレイジーな行動はしないだろうと、楽観視していた。
無論、ロスドル国王も最初は不安だったが、最も信頼しているサンゴストやウェルガーが同行すると聞いて、一安心した様である。ただ、外の世界にはミカツェルリア王子が体験した事のない、刺激に満ち溢れている。嫁探しも大事だが、ミカツェルリア王子にとっては、自分の欲望をコントロールすると言う意味でも、修練の旅であった。
ミカツェルリア王子が最悪期間中に意中の人間を見つけられなくても、人格者として成長すれば良いとロスドル国王は思っていた。プラスにこそなれ、マイナスにはならない。サンゴストには旅の前にそう告げていた。
ミカツェルリア王子自身も、案外この旅に覚悟を持って臨む様で、周囲が心配するほど、お気楽で軽い気持ちで行く気はなかった。ミカツェルリア王子自身も、この旅にかけているものは大きかった。ロスドル国王の主導する見合いなど、死んでもお断りであった。その分気合いが入っていた。人格者として成長する気など更々無かったが、自分に与えられた自由恋愛の旅を無駄には出来なかった。まだ若い彼には好みの女性を探すので精一杯であった。
「親父、ちょっくらぁ行ってくるわ。」
「気を付けて行くんだぞミカツェルリア。」
「しっかりミカツェルリア王子の護衛はお任せ下さい。」
「あぁ、頼んだぞ。サンゴスト、ウェルガー。」
「ミカツェルリア王子がハメを外しすぎない様に見張りますから。」
「サンゴスト、マジで勘弁して。」
「ウェルガーもミカツェルリアの事を頼んだぞ。」
「はい。」
ミカツェルリア王子、ウェルガー、サンゴストは旅の前にロスドル国王と面会した。
「行くぞ、お前ら!」
ミカツェルリア王子のその声だけはたくましいものであった。




