ムシャカマルのウィークポイント
向かうところ敵無しのムシャカマルであったが、彼の剣にも弱点が全く無かったと言う訳では決して無い。スピードも破壊力も申し分無い。申し分無いのだが、こと防御になるとどうしても思う様に剣を振るえないのである。最も新政府軍の本拠地に乗り込むまでは、その様な体勢に成る様な剣豪など、いなかったのであるが…。
新政府軍で最前線に送り込まれる兵士は、徴兵で集められた素人である。正確に言えば、農家の次男坊、三男坊である。そんな人間に幕末の乱世を颯爽と切り抜けて来たムシャカマルが敗れるはずが無かったのである。そんな素人同然の相手でも、守勢に回ると同一人物かと思う位の脆さ、弱さを見せていた。最前線の新政府軍兵士はムシャカマルに玩具扱いされていたが、正確な情報が行き渡らない為新政府軍は思う様に対ムシャカマル対策を出来ていなかったのである。
旧幕府軍勢力の快進撃は、明治と言う新しい時代を迎えた人間にとって、衝撃以外の何物でも無かった。明治維新を一応成し遂げた新政府軍の事は気にくわなかったものの、文明開化による恩恵は受けていた。そうした人間にとっては今更な事であった。今更旧幕府軍勢力が新政府軍を倒したからと言って何が変わる訳ではない。一度進化を遂げてしまった文化的水準を、元に戻す事は普通の精神状態の人間なら拒否する事である。それは、旧幕府軍勢力が何の為に戦っているのかと言う事に対する答えでもある。
徳川の世に戻せば良いと言う単純な事ではなく、それから先の戦術や戦略が無ければ、例え新政府軍を倒した所で、そこで打ち止めになる可能性は高い。ムシャカマルはその点について、榎本に尋ねた。榎本は土方とムシャカマルに兵力管理等軍事的な面を任せ、榎本は専ら軍政・政治力の面で、旧幕府軍勢力を支えていた。隠居老人に近い勝に比べて、榎本は政治家としての腕は旧幕府軍勢力にとって小さからず存在であった。接待としてお偉いさんをもてなす事もあったが、榎本が担当していたのは、そう言うものではなく、大部分が旧幕府軍勢力の拡大に繋がるロジスティクス的(補給的)な面から兵士をまとめるムシャカマルや土方の戦いやすい様にサポート体制を整える事であった。
慣れた事とは言え、骨がおれる様な役回りであると言う事は分かっていた。ムシャカマルが全力で戦えるのはこうした榎本の見えない努力も作用していたのである。




