道場剣術と実戦剣術
敵を知るにはまず味方から。勝は時間を見つけては竹刀で乱取りを行っていた。
「道場剣術は苦手なんですがね。」
「まぁまぁそう言わず老骨の相手をしてくれよ。」
勝は自分の事を老骨と言っているが、剣の腕には覚えがある。そして旧幕府軍最強を決める戦いでもある。竹刀ではあるが…。判定員は土方にお願いした。非公開で行うつもりだったが、二人の対決の噂はどこからともなく流れ約200人の観客があつまっていた。
「ギャラリーが多いな?」
「良いじゃないですか。別に減るもんでもないし。さ、始めますか?」
「肝がすわってるな。ふっ、始めるか。」
勝もムシャカマルも多くは語っていなかったが、ムシャカマルは、竹刀を使った道場剣術よりも真剣による実戦剣術の方が圧倒的に得意としていた。本来の力を試すのならば、真剣を使うべきなのかもしれないが、旧幕府軍勢力の根幹を担う二人が真剣で戦う訳にはいかなかった。試合はどちらかが一本取った時点で決着する。
ギャラリーの予想は割れていた。勝を支持する人は経験値を買っていたし、ムシャカマルを支持する人は驚異的なしなやかさとスピードから繰り出される獅子奮迅流の強さを買っていた。剣道と呼ばれるこの疑似剣術は侍からは当所忌み嫌われたが、真剣勝負とは違い怪我をしない。その為普及した。安全で合理的な方法故、木刀による乱取りとは異なる。道場剣術とはいえ、実戦剣術の基礎になるものであり、そう馬鹿にしたものでもない。と、ムシャカマルは思っていなかった。鎧兜を着けるように防具をつけて竹刀で戦う道場剣術いや、剣道と言えば良いか。所詮剣道はスポーツの一つであり、命をかけあう真剣な実戦剣術とは異なるものである。そしてどうやら決着がついたようである。開始から6分26秒で勝がムシャカマルから面を奪って勝利した様である。ムシャカマルは笑顔だった。
「ムシャカマル、君は何故手を抜いた?ワシの面子を潰さない為か?いずれにせよ、君は本気では無かった。やはり君は本物の武士だな。」
「何言っているんですか?勝ったのは勝さん貴方ですよ?」
「お主が獅子奮迅流を封印していた事位ワシにはお見通しじゃぞ?」
「まぁ、あれだけのギャラリーがいたならそれも仕方あるまい。」




