ファーストインプレッション
その日は突然訪れた。江戸無血開城を果たし近代日本海軍創設の父でもある英雄勝海舟と、時代の寵児となったムシャカマルは勝海舟の強い意向もあって、江戸奪還からわずか五日後に面会する事になった。場所は勝海舟のとある豪邸で行われた。
「ムシャカマルよ。よくぞ参った。御主の武勇は江戸にいるワシの耳にも届いておるぞ!」
「旧幕府の有力者で江戸無血開城の英雄勝海舟先生に会えて光栄です。」
「ふっ、今はもう昔の事よ。しかし惚れ惚れする様な甘いマスクだな。」
「余談はその辺にしておきましょう。今日は勝先生にお願いがあります。」
「何かのう?」
「旧幕府軍勢力の艦隊を組織してそれを率いて欲しいのです。」
「陸上兵力ではまだ新政府軍には及びません。そこで、勝海舟先生の十八番である海軍に目を向けたのです。」
「悪くない目附だが、ムシャカマルよ。一つだけ無理がある。」
「と、申しますと?」
「軍艦が足りぬのじゃ。無い袖は振れないだろう。」
「つまりは旧幕府軍艦隊を組織するのは無理だと?」
「確かに軍艦の建造には月日が要りますね。」
「ただ、策がないと言う訳ではない。」
「と言うと、どんな方法でしょうか?」
「無敵の私にも出来ない事の一つや二つありますよ?」
「そんなに難しい事ではない。」
「異国に頼るのじゃ。メリケン(米国)やエゲレス(英国)に支援を求めるのだ。」
「異国に助けを求める?これは勝先生らしいお考えですね。」
「エゲレスなんかは長州と一戦交えているから良いかも知れないな。」
「ですが英語を話せる人材がいないと駄目ですよね?」
「その辺りの根回しは、ワシが引き受けよう。」
「左様でごさいますか?これで新政府軍もかたなしですね。」
「気が早いぞムシャカマル!異国との交渉は不調に終わる可能性もあるかもしれない。」
「旧幕府の海軍は元々勝先生が作られましたからね…。」
「自分の物をどう使おうが文句は言われないと。」
「そう言う事です。」
「しかしながら、よくぞここまで勢力を盛り返せたな?兵器の差は天と地ほどあったと言うのにな。」
「そこら辺も含めて戦略で突破して来ました。」
「是非戦っている所を見てみたいものであるがな。」
「その内御覧いただけるでしょう。我々は西進しなければなりません。」
「陸上兵力で劣っているのは変わりない。心してかかれ!」
「はい。海軍の件よろしくお願いしますね。勝先生。」
「久しぶりだな。そう呼ばれるのは…。」
「日本の未来は旧幕府軍勢力が守らなくてはなりません。」
勝海舟とムシャカマルの二人は第一印象から互いにすこぶる良好なものであった様に見受けられた。




