ヤマガカシの陣
この日は世に言う所の函館総攻撃の前日だった。史実に基づくとするならば、ここで徳川旧幕府軍の反乱はほぼ終結して、維新を薩摩長州が成し遂げると言うストーリーが完結する。明治新政府になってからは、西南戦争で一連の混乱は収まり、国をあげての戦争に明け暮れる。それは我々現代人のしる"史実"である。ムシャカマルがこの日、土方歳三の前に現れた事であるはずのないもう一つの歴史のルートが開拓されようとしていた。
ムシャカマルは現状把握に努めていた。
「とすると、こちらが劣っているのは兵員と兵器の質と言う訳だな?」
ムシャカマルは土方に訪ねた。
「ここから巻き返すには起爆剤となる何かが無ければならないでしょう。例えば一騎当千の大砲を手に入れるとか。」
「土方、その一騎当千の大砲が私なのだよ?分かるか?」
先ほどいとも簡単に拳銃をさばいた事は確かに土方も驚いたが、しかしだからと言ってこのムシャカマル一人で事態を打開させる事が出来るとは思っていなかった。
「確かにあんたは凄い腕の剣士なのかも知れない。しかしね相手は洋式の最新兵器で身を固めた兵士達だ。信用はまだ出来ない。」
すると、二人の会話を聞いていたある男が口を開いた。
「一つ良いかな?初めましてムシャカマル殿。私は榎本武揚と申す。一応この蝦夷地での幕府責任者である。以後お見知りおきを。さて、君は相当な剣術をお持ちの様だがどうやってあの薩摩・長州を打ち負かそうと言うのか、聞かせて貰いたいものだな。」
「何も特別な事はない。私の指示通りに動いてもらえば倒せる。ただそれだけの事さ。」
すると、ムシャカマルは榎本武揚に作戦が詳しく書かれた紙を手渡した。
「ヤマガカシの陣?ヤマガカシってあの毒蛇の?」
「そう、あの毒蛇の事さ。このヤマガカシの陣を用いて戦えば、どんな敵にも勝つ事が出来る。」
「良く出来てるな。面白いじゃないか。土方君やってみよう。」
「榎本さんがそう言うのなら、やりましょうか。」
ヤマガカシの陣とは、簡単に説明すると、100人の囮部隊の前後左右に100人ずつ計500人の兵士を配置。敵が来たところで一気に敵を討つものであり、ムシャカマルも加えた更なる作戦効率の強化を求めるものである。
「やってみせやらせて見せて毒を知る。」
「何だ?その標語は?」
土方は未だにムシャカマルの強さを図りかねていた。




