空虚を埋めるメール
TVをこんなにじっと見た事なんていつ以来だろうか?年の瀬も迫って来ると、TVはその一色に染まって行く事になる。青龍にとってTVは、生活の中ではベストテンにすら入らない程度の、ウェイトしか占めていなかったが、この時期は水菜美との別れを引きずっていた青龍にとっては、TVはその寂しさを埋めてくれた。
スマホのメールをチェックするも、皆受験モードに入っていた為、新着メール等1件も無かった。受験と言う道を選ばなかった俺には分相応の生活が待っている。後4年も学生生活を続けるなんて、御免だ。さっさと社会に出て金を稼いで結婚した方がよっぽど良いだろう。
ただ、これは別に勉強が出来なかった逃げ道ではない。青龍は青龍なりに考えた上で、出した結論だ。TVでは、くだらないバラエティーばかりが流れているが、こんな程度の低い番組に出ているのは大卒芸人ばかりと言うのだから少し皮肉に見えた。俺はこんな人間にはならないぞ、と言う勝ち誇った笑みだった。
人生には王道なんて無い。回り道をしようが、ストレートで頂きに登ろうが、最後に幸せと思えた奴が勝ちなんだ。一番いけないのは、自分に嘘をつくこと。自分の気持ちを押し殺す事は正解ではない。…と、人生についてぐるぐると考えていた頃であった。
久しぶりに青龍のスマホにメールが届いた。誰だろうと思ったら、水菜美からであった。別れてからコンタクトをとったのは、これが初めてだった。
「久しぶり。今時間大丈夫?」
「大丈夫だけど。」
と、返信すると、この日だけで200通のメールを交わす事になる。メールの序盤は完全なる世間話で、手探りの二人であった。中盤からようやく最近の近況をお互いに報告する様な形に変わり、長い時間がサッと流れていったのである。メールの最後の方になると、復縁を示唆する様なメールで終わる。
「またメールして良い?」
「メール位ならいくらでも。」
とは言え、あくまで前提にあるのは元カレ・元カノと言う友人としての付き合いであった事に変わりはない。それから数日水菜美と青龍はメールを交換しあった。やはり、互いに未練タラタラである。そもそも元カレにアプローチしようと思う時点で脈ありだろう。
それから青龍は、TVではなくスマホに夢中になれた。自分は一人じゃない。誰かに必要とされ今こうして水菜美とメール出来ている。TVの中の空虚と現実も、水菜美のメールが書き消してくれた。自分にもまだそんな気持ちがあるのかを確かめるメールを青龍は織り混ぜた。
「今度動物園行かない?」
正直イエスの返信が来る自信はフィフティ・フィフティであったが、ここは青龍が勝負に出た。




