濃い味の文化
日本人は濃い味の文化を持っていない。元来、欧米に比べれば遥かに味の薄い文化を発達させていた日本人にとって、スパイシーな香辛料と言う物とは縁が薄かった。
日本の食生活が激的に変わり始めたのは、明治時代以降の事である。西洋の食文化が開国により大量に流通し始めて、魚や野菜中心の菜食から肉食文化へと変わって行った。最もそれは富裕層に限られた食の転換点であった。広く国民が肉食に変化して行ったのは、第二次世界大戦後の事である。GHQをはじめとする連合軍は6年近くに渡り日本人の価値観や文化を尽く変えた。反米・反民主主義の芽を摘み米国の価値観を無理矢理こじいれた。今でこそ日本は豊かな国になったが、それは逆境の中で努力を続けた先人のおかげである。
話が逸れたが、日本人は近代2度の転換点を乗り越えて、現在の和魂洋才スタイルを確立させて今に至る。言うまでもない事だが、マクドナルドは戦後日本に流入してきた米国資本のハンバーガーチェーン店である。当然米国のジャンクフード等、日本人が知るはずもなく、開業時は不安で一杯だったと言う。まだまだ日本人にとって洋食は高嶺の花の高級料理だった時代に、500円以下で腹を満たせるハンバーガー類の存在は、日本人にカルチャーショックを与えた。
日本人向けの味付けも当初案にはあったが、あえて米国の食す様な濃い味で勝負した。それは日本人の価値観を棍棒で殴り付けたかの様なショックがあった。ジャンクフードが根付いていなかった1960~70年代。日本経済は高度成長期で右肩上がりの時代である。日本人が一番浮かれていた時代とも言えるが、そんな時代にマクドナルドは日本に上陸して、爆発的な人気を獲得して行った。そうしたノウハウを踏まえて開発した日本マクドナルドだけのオリジナル商品。それがてりやきマックバーガーである。
日本人向けの日本人的ハンバーガー論の最終地点。それがあのあまじょっぱいてりやきソースなのである。フライドポテトやドリンクとの相性は抜群で、濃い味をジャンクフードに求める日本人には、最も衝撃的な商品となった。てりやきソースにマヨネーズを加える事で、とにかく濃い味を重量感を出している。本場の米国のマクドナルドにはこの様なソースに重量感を持たせた商品はない。パティの量を増やしたり、ケチャップにマスタードをたっぷりかけた様な商品はあるにせよ、それは日本人が生み出したてりやきソースとは似て非なるものである。最も季節限定の新メニューは季節がわりの商品はあるが、てりやきマックバーガーのように通年を通して出ているレギュラーメニューには、ソース主体のハンバーガー類は無い。




