驚くべきヒューマンエラー
マックシェイクが発売されたばかりの事であっただろうか。田川が中堅幹部に成り立ての頃だった。いつもの様に夕方頃来店する常連のサラリーマンがいつもと同じセットを頼まれた時の事であった。そのサラリーマンは、セットのドリンクはいつもコーラを頼まれるのだが、クルーもそれを理解して準備して、会計も済ませていた。クルーはそのセットをそのサラリーマンに持って行った3分後の事であった。飲み物のカップを持ってレジまで駆け寄って来た。そのサラリーマンはこう言った。
「何故セットのドリンクがコーラじゃないのか?」
と言う事だったのだが、どういう訳か喜んでいた。
「何でこんなハンバーガーに合う旨いドリンクを教えてくれなかったのか?」
とそのレジクルーに言ったそうだ。結局そのまま食事を済ませ満足した様子でそのサラリーマンは帰って行ったのだが、田川は気になったので、詳しく聞いてみた。すると、驚く事にセットのドリンクを手違いでコーラではなく、バニラのマックシェイクをお渡ししてしまったと言う。
これは完全に店側のヒューマンエラーであったのであるが、不幸中の幸いと言うか、そのサラリーマンのクチコミで、マックシェイクの人気が出たと言う事があった。オーダー通りに商品を提供出来なかった事は、大いに反省すべきだが、新メニューの周知は大切だと思った一件であった。
個人差のある飲食業界において、新メニューを提供する事は、新規顧客の獲得に繋がる。ヒューマンエラーは断固避けるべき事態だが、そこから学ぶ事も売り上げを伸ばす為には必要な要素である。マックシェイクはアイスクリームとジュースの真ん中に位置するドリンクである。軽さを重視しつつも、少しパンチのあるミルク感覚で親しまれたマクドナルド黄金期を支えたエース級の商品である。
本家米国のマックシェイクよりも甘さを抑えた事で、日本人の繊細な味覚に受け入れられる様になった。デザートとしても行けるが、ハンバーガー類のお供に最適である。ドリンク部門でも柱となる商品を手に入れたマクドナルドは順調に売り上げを伸ばして行く事になる。かつてこれ程までに人類を席巻したジャンクフードは無かったはずである。そして、マクドナルドが世界中で受け入れられたのは、地域差を理解し勝負する商材をセレクトして、戦略的に投入した所にある。




