ミスターあすなろ
水菜美と別れてからは、親友の奥野永作と過ごす事が多くなっていた。就職が決まっていた青龍は、これから大学入試共通テストと滑り止めの私大入試を控えていた奥野を茶化すのが楽しかった。
「おいおい?そんな問題も出来ない様じゃX大学はきついぞ?」
「貴様に言われなくても分かってるよ。つーか、最近どうしたんだよ?」
「どうしたもこうしたもないよ。恋人を失い親友をからかっているだけだよ?」
「たち悪いな。で、貴様の気持ちはスッキリしているのか?」
「何だか後味の悪い別れ方だったからな…。納得はしていない。」
「そもそもあの水菜美ちゃんが、あの三船太陽を好きになったってのは、引っ掛かるよな?」
「そうなんだよな。水菜美はただ俺と少し距離をおきたかっただけなんだよ。」
「そう思って別れを切り出しちゃうあたりが水菜美ちゃんらしいね。」
「分かった風な口のきき方だな?ミスターあすなろ様は?」
「やめろよ。もう昔の話だぜ?実際今、彼女いねーし。」
「受験モードだな。その割には人の恋に口出しして?余裕だな?」
「女心ってのは、変わりやすいからな?教訓になっただろ?」
「まぁ、水菜美との関係が絶望的なら、諦めて他の道を考えるよ。」
「それが無難かも知れないな。先の事は分からんけど。」
「でも、貴様の様に大学に行く余裕があるのは羨ましいよ。」
「何言ってんだよ?青龍だって行こーと思えば行けない訳じゃないんだろ?」
「苦学生にはなりたくないからな。早めに就職する事にしたんだ。」
「目的も無く大学に行っても、金をどぶに捨てるだけだしな。」
「それは国公立私立問わずな。」
「まぁ、贅沢を言えば推薦が欲しかったな。」
「もう手遅れだろ?それはテスト前に詰め込み式の勉強しかしてない奴の台詞じゃない。」
「勉強出来る奴はきちんと見えない所で努力しているからな。」
「野球と同じだよ。素振りとダッシュ。基本基本。」
「個人プレーで決まるのが、野球と受験の違いだけどな。」
「一本のヒット、一つのアウトを取るのに必死な様にな。」
「今はガムシャラに勉強しているけど、それが将来の役に立つかは分からん。」
「でもここで頑張っておけば、将来のプラスになるだろう?」
「入学してどれだけ頑張るかと言う事も大事だがな。」
「遊び倒す4年間と猛勉強の4年間じゃ全く違うしな。」
「まぁ入ってから考えるよ。皮算用はしたくない。」
青龍は親友をいじっていないと、立ち所に寂しさと人恋しさに支配されてしまう自分が、嫌で仕方無かった様である。




