ハッシュドポテト
田川が店長になりたての頃はこんな事もあった。
「フライドポテトのMとコーラお願い。」
そのお客様は若い女性で、店の常連だった。勿論、クルーも彼女が何を頼まれるのかは把握していて、田川もそれを理解していた。しかし、時計はまだAM9:45頃であっただろうか。時間的にコーラもフライドポテトも準備していない時間帯であった。ここで田川は若い頃のあの代替品作戦を思い出した。当然、接客応対したクルーが田川に救いを求めて来た。
「店長?どうしたら良いのでしょうか?」
そこで田川はこう指示した。
「コーラはジューサーを起動させれば何とかなる。ポテトはまだ無理だから、ハッシュドポテトをすぐ用意しろ。これで駄目ならまぁ、今日はお引き取り願うしかない。」
そう言った。若い女性は反論しそうだったが、案の定カウンター近くの席で大きな声をあげていた。
「初めて食べた。ハッシュドポテト食べやすくて超いけるんだけど!」
「コーラです。」
「あっ!そっか。まだ朝マックの時間帯か。ごめんごめん。」
と言いながら朝イチのコーラをぐびぐび飲んでいた。それ以来彼女は朝早く来た時はハッシュドポテトを注文する様になった。彼女の笑顔を見た時、田川は確信した。自分達が汗をかく事でお客様に幸せになって貰えるならば、いくらでも汗をかこうと。人間対人間だと言う事は商売の基本である。いくらオートメーション化の進んだ現代にあっても、最後に商品を渡すのは人である。スマイル重視でこれまでやって来たマクドナルドではあるが、スマイルのマニュアル化は極力避けている。食品を生業とするマクドナルドにあって客単価の高低に関わらず、塵も積もれば山となる精神で、飲食業界で不動の王者として、日々のサービスは欠かせない。たかがハッシュドポテト、されどハッシュドポテトと言う訳である。あそこの場面でお客様に、10時半まで提供出来ないと、無い無いサービスを展開しても、マニュアル的にはOKでもそれでは、ワザワザ店舗に足を運んでくれたお客様に失礼である。マクドナルドクルーに出来るベストパフォーマンスはそうではないはずである。朝のお客様はそう言う事も教えて下さるのである。




